第18話 ことばづかいが王妃様っぽい

 「それって、どこかフランクフルトの屋台とかかな?」

 へれんがわたしに言う。わたしも

「うん。フランクフルトとは限らなくて、ソーセージでビール、みたいな屋台かも」

と、さりげなく「ビール、黒ビール、ソーセージ、ポテト」の屋台も見逃していないことをアピールする。

 へれんが言う。

 「いくつかあったよね?」

 「うん」

 わたしのアピールは当たったのか不発なのかわからない。どっちにしてもたしかにいくつかあった。

 「ひとつずつきいてみる?」

 「うん」

 いや、この子たちがお姉ちゃんをさがすのを手伝う、とはまだ決めてないはずだけど。

 でも、手伝わないことにして、この子たちがそのお姉ちゃんを独力でさがし当てたとして、城崎じょうさきさんに

「お姉ちゃんの学校の子がいたんだけど、お姉ちゃんをさがすの手伝ってくれなくて」

とか言われて、へれんとわたしの人相というのを言われたら、ぜんぶ城崎さんにわかってしまう。

 べつに怒られはしないだろうけど、いままで以上に「つん」とされそうだ。わたしはいいけど、へれんの評判まで下がったら、それはよくない。

 「それ、どこのことか、きいてみた?」

 まずたね子が首を振り、つづいて詩織が首を振る。

 首を振ると、すなおで黒い髪のおかっぱの詩織のほうが、その髪がふわっと広がってきれいだ。

 「じゃあ、一個ずつ確かめてみよう」

 へれんが言う。

 ああ、面倒くさい。

 でも、それ以外にやりようがない。

 最初にいま来た道を戻る。右っ側にわたしが見つけたビール、黒ビール、ソーセージ各種の屋台があるのだけど、そこは待ってるお客さんがいたので、パスして、その向こうのフランクフルトの屋台まで戻る。

 へれんが行く。何かきいている。と思ったら、何か買っている。買ってから屋台のおばさんと何か話している。くすくすっと笑う。

 戻って来た。

 「はいっ」

 へれんは片手で器用に持って来た二串のフランクフルトをたね詩織しおりに差し出す。たね子と詩織で一本ずつ、ということだろう。

 「召し上がれ」

 ことばづかいが王妃様っぽい。

 へれんは王妃様、絶世の美女で王妃様、スパルタの王妃様、でもびしびし鍛えるスパルタじゃなくて……。

 そういうことはそろそろ忘れたほうがいいのかな?

 「いいの?」

 詩織が自信なさそうに言う。

 「うん。あ、からしはつけてないから、だいじょうぶだよ」

 そういう問題じゃないと思う。

 「でも、知らないひとからものをもらっちゃいけない、って」

 紺地の浴衣のたね子が、目はへれんが持っているフランクフルトをじっと見ながら言った。詩織もだ。

 言い終わってから、たね子が顔をそっと上げてへれんを見ると、詩織も同じようにへれんを見上げた。

 もらっちゃいけない、って言われていても、やっぱりほしい。

 それはそうだ。

 「だって、知らないひとじゃないでしょ?」

 たね子も詩織も、じっとまじめにへれんの顔を見続けている。

 何も言わない。へれんが続ける。

 「お姉ちゃんは、詩織ちゃんのお姉ちゃんを知ってて、詩織ちゃんはもちろんお姉ちゃんを知ってて、そしてたね子ちゃんは詩織ちゃんを知ってるんでしょ?」

 「うん……」

 「じゃなくて、はい!」

 たね子が訂正する。

 かわいい。

 かわいいのはいいが、へれんが言ったことがよくわからない。途中でわからなくなった。

 たね子と詩織にはわかってるのかな?

 「じゃ、みんな知ってるひとってことじゃない? それに、おカネが問題なんだったら、あとで咲織さおりちゃんに払ってもらうから」

 あ!

 そっ……それこそ、いいのかな?

 ……王妃様……。

 「だから、一人、一本ずつ取って」

 「うん」

 答えて、たね子は、へれんの手からフランクフルトを一本受け取った。続いてもう一本もたね子が受け取り、おとなしい詩織に回す。

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