第16話 へれん後ろ!

 「じゃ、次、へれんね」

 それに答えてへれんが左手で制服のポケットからスマホを出す。

 やっぱりへれんのほうが手が長いのだろう。スマホをぱっとかざして、二人とも画面に収まった。

 ああ、いや。スマホの機種が違うから、画面の大きさが違うんだ。

 そういうことにしよう。

 「はいもうちょっとくっついて」

 へれんが言う。

 いやくっつかなくても撮れるって。でも、そう思ったときには、やっぱりおなかをちょっと横に動かして、二人くっついていた。

 ぱしゃっ。

 こんどはへれんが大きく、わたしがその横にちょっとだけ小さく写る。まあしかたがない。

 もちろんへれんが撮ったわたしはきれいだ。ちょっと何か聞きたそうな顔をして、笑う寸前で、おすまししている感じだ。

 「じゃ、もう一枚」

 へれんが言ったので、わたしはまたへれんにくっつく。

 「あ……あれ?」

 わたしが思わず声を出す。

 へれんが、二人の顔と体がなるべくたくさんが収まるようにとスマホを振ったとき、わたしたちのうしろに影が……。

 影が、見えたような気がしたんだけど。

 怪奇現象とかならまだいいけど、いや、いいかどうかわからないけど、だれかが後ろからいたずらしようとしてるのなら……?

 「あ、ちょっと待って」

 「えっ?」

 いや、たしかにいる!

 「へれん後ろ!」

 「あっ?」

 二人で同時に振り向いた。

 すぐ後ろにいた。

 小さい。

 何?

 幽霊とかではない。妖精でもない。

 見覚えがあった。

 白地にオレンジ色の模様の浴衣と、オレンジ色の帯、そして紺にいろんな図柄を描いた浴衣と、赤い帯……。

 あの

「大好き」

メッセージを交換していた、あの二人だ!

 「あっ。たねちゃんと詩織しおりちゃん!」

 へれんが言う。

 うわ。物覚えがよい。

 「えっ?」

 紺色の子のほうが反応した。

 「わたしたち、知ってるの?」

 ふしぎそうにわたしとへれんを見上げる。かわいい。

 たぶん、この子が「たね子」というのだろう。

 「だって、さっき、名まえ書いてたでしょ?」

 へれんが得意そうに言う。とても得意そうに。

 「えっ? どこに……?」

 二人で顔を見合わせている。でも、そのたね子のほうが先に気づいたらしい。

 声を潜めるつもりか、横を向いて、みょうにかすれた声で言う。

 「さっきのあれ、見られてたんだぁ!」

 「うん……」

 そりゃ見られるって。

 お祭りの屋台なんだから……。

 「しおちゃんがあんなの書くからっ!」

 あんただって喜んで反応してたじゃないかっ!

 「うん……」

 でも「しおちゃん」の反応はそれだけだった。

 ちょっとぼんやりさん。

 そこでわたしは「しおちゃん」にかわってたね子に指摘というのをやってやるかどうか迷う。

 「あ、あのっ」

 でも、そのすきを与えずに、紺地の浴衣のたね子が言った。

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