第15話 二人で持って、写真の撮りっこ
小学校の時の給食にときどきついて来た。
あのころのへれんは、いまのへれんと違ってちょっとぼんやりさんで、何をするにもゆっくりゆっくりしていた。
「あぁほらほらへれん、速くしないととけちゃうよ!」
それはりんごのシャーベットで、袋の外から見るとりんごに見えないけど、ちゃんとりんごをつぶしたような形をしていて、皮もついている。
皮ごと食べられる。しゃりしゃりした感じがおいしいのだが、とうぜん、ほかのおかずやご飯を食べていると凍ったのがとけていくし、だからといって最初に食べると先生に怒られる……。
そこで、この袋に入ったシャーベットが出た日には、ごはんとおかずをかき込むように食べるのだが、へれんはおっとりしていて、いつものとおりゆっくりゆっくりゆっくりとご飯を食べていた。
だから、いつもわたしが催促して、へれんに食べるのを急がせていたのだけど。
へれん。
スパルタの、絶世の美女の王妃様から名まえをもらったへれん。
いまでは、わたしよりフットワークが軽く、何をするにもわたしより速く、要領よくできるようになったへれん……。
「給食のあれだよね」
「うん」
へれんも懐かしいのだ。
中学校からは、お弁当か、自分で食堂に行って食べるかになったので、給食はなく、食堂でもこのシャーベットは売っていなかった。
わたしはその袋を破こうとして、ふと、思いついた。
さっき、わたしがへれんを撮って「逆光」というのになってから、写真を撮っていない。
「ねえ」
へれんも袋を破っていない。
「これ、二人で持って、写真の撮りっこしない?」
「うんっ!」
へれんはとても
でも、ここだと屋台の前で人通りが多い。二人並んで写真を、というような場所はない。
それで、屋台のあるところのはずれまで行く。ステージとは反対側だ。
ここには、夕方までは、市のいろんなところから集まってきた
山車は帰ってしまったので、いまは何もない。ただ屋台のほうに行く人とそこから出てくる人の通り道になっているだけで、人が少ない。
そこのまん中に立つ。わたしが右で、へれんが左だ。
「二人でこうやろう」
わたしが言って、その袋を左手で左の胸の前に持つ。
「うん」
へれんは右手で右の胸の前に凍らせ焼きりんごの袋を持った。
へれんの肩が、わたしの肩よりちょっと上だけど、いまは気にならない。
「行くよ!」
わたしがまずスマホを自撮りモードにして手を伸ばした。
さっきと違って「逆光」にはならない。けど、わたしの手が短いからか、わたしの顔が入るようにすると、へれんの顔がぎりぎり入るくらいになる。ちょっとへんだ。
「もうちょっとくっつこ」
わたしが言う。へれんがちょっと右に寄って、おなかを横からくっつける。袋を持った手もくっつく。へれんの手はひんやりしていた。
へれんがおすましする。
そこを狙って、ぱしゃっ。
「もう一枚行こ」
へれんが言う。ナイスな提案。ふたりでまたおなかのところをきゅっとして、くっついて、ぱしゃっ!
しばらくして撮った画面が出る。よしっ!
さっきより笑顔! 二人とも。
それに顔の色もりんご色ってほどじゃないけどほんとに生きてる感じできれいだ。
それに……。
わたしが自分で撮ったのに、わたしがブスじゃない!
それは絶世の美女じゃないけど、それなら、名まえを絶世の美女からもらったへれんだって、それはきれいだけど、なんていうのかな、わたしと並んでいて普通にきれいなきれいさで。
わたしが、普通に撮れた。自撮りで普通の中学生に撮れた。
「うわー、ありがとー」
へれんが言う。
ほんとはわたしが言わないといけないのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます