第8話 まちがってることがわかっちゃった

 へれんも同じようにベーコンをかじった。二人で並んでまた歩き出す。

 今度は脂を垂らさずにすんだ。

 いや、垂れるかも知れないと思って、串をできるだけ体から離して、ベーコンの端っこをかじった。脂は地面に垂れたかも知れないけど、地面のコンクリートならば許してくれるだろう。

 得意そうにへれんの顔を見る。へれんはクールに脂身をはぎ取って食べている。

 「あのさあ」

 話をらす。目もへれんから逸らした。

 「講習ってどんな感じ?」

 きいてから、へれんの顔を見る。

 へれんも前を向いて、またベーコンの赤身を引きはがして食べている。

 「うん……」

 脂を垂らさずに食べているへれんの横顔は寂しそうに見える。でもそれはベーコンを食べるのに集中しているからだ。

 たぶん。

 白い明かり、色とりどりの明かりが、そのつやつやの頬を照らしている。

 「学校の授業とおんなじような感じだなあ」

 ぽつぽつと言う。

 「まあ、おしゃべりする子とかいないけどね」

 うっ。

 へれんにとって、わたしは授業中におしゃべりする子の一人なのかな。

 でも、授業中にわたしが話しかけたら、へれんだって答えてるじゃん……。

 「今日は何の授業だった……?」

 最後のほうをあいまいにごまかしてきく。

 「社会の歴史と地理と数学」

 あんまり楽しそうじゃない。

 それはそうか。お勉強が楽しいと思う子はいない。

 いや、へれんは違うかも。

 どの教科もできる子だし、それに、へれんは学者の家の生まれだ。

 初めてへれんの家に行ったとき、天井が高くて、入り口以外の全部の壁がぜんぶ本棚という部屋に圧倒された。

 上のほうの本を取るためにはしごが最初からつけてある。しかもその上のほうがはるかに遠くて薄暗く見えた。

 別の世界に来たようだった。しかも、そんな部屋がへれんの家には三つもあるという。

 そんなところで育った子だ。もしかすると勉強が大好きかも知れない。

 「そういえばさ」

 へれんは言ってからちらっとわたしを見る。

 また目を離して、続ける。

 「今日の授業でさ、わたしの名まえの理由がまちがってることがわかっちゃった」

 また脂身をかじる。それでわたしを見た。

 「その半分が、さ」

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