第3話 溝が、それでまた広がった
わたしは制服のスカートのポケットからスマホを取り出す。
「あーっ!」
送ってきたのはへれんだ。
それはいま撮ったわたしの写真だった。
何かきこうと口を開いてこっちを見ているセーラー服の女の子。
……抗議しているようでもあり、何かをふしぎだと思っているようでもあり……。
なんだか、ひたむきな顔だ。
それは、自分ではもちろん、親とかが撮っても撮れない顔だ。
わたしは、親が撮ったのでも自撮りでも、学校の集合写真とかならなおのこと、「これがわたし?」と思うような、気の抜けた顔にしか写らない。
いや、もっとはっきり言おう。
写真に写ったわたしはブスだ。思い切りブスだ。
だから、写真がほんとうに「真」の姿を「写」すのなら、わたしはブスだってことになる。写真を見るたびに「わたしってブスだな」と思わなければいけないから、わたしは自分の写真はあんまり見たくない。
へれんが撮るとそれが違う。
美人とは言わないけど、なんか女子中学生らしい女子中学生に写る。どうかすると、ほんとうのわたしより「生気」というのがいっぱいな女子に写る。
「えい!」
だからわたしもそのスマホを顔の前に両手で掲げてへれんを撮る。画面の中でへれんは予期したようにぱっと笑顔を作ってくれた。わたしがお返しにへれんを撮るだろうということはわかっていたのだ。
撮った写真をすぐにへれんに送り返す。
「あー」
でも、後ろが屋台で、照明が明るすぎて、へれんの顔は暗く、表情はかすかにしか写っていない。
制服の肩のところのしわがきらきらと白く写っているだけで。
それと、頬の線がやわらかく浮き上がっているだけで。
「ああ、そこからだと逆光だね」
へれんが言う。
「逆光」。そのとおりだ。
でも、わたしなら、「後ろが明るすぎたね」とか「顔が暗くなっちゃったね」とかしか言わない。「逆光」なんてことばは知っていても思いつかない。
「こんど逆光にならないところで撮って」
へれんは笑った。わたしも笑う。
でも、へれんとわたしのあいだの溝が、それでまた広がった。一センチぐらい、確実に。
そう感じたから、わたしからへれんの近くに寄る。
来年にはこのへだたりがどうしようもないくらい広がってしまう。
だから、いまはせめてへれんの近くにいたい。
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