Episode 23 波乱の第二試合

 第1試合の英美里の試験が終わり、次は第2試合、ひなの番だ


「ひなさーん!!頑張ってくださーい!!」


 楓子との戦闘で、凹んでいた英美里は、ひなを元気よく応援していた

 立ち直れてはいないだろうが、試験は合格したのだから、多少無理をしてでも気持ちを切り替えているのだろう


「両者、中央へ」


 木吉の機械的なアナウンスが響き渡る

 その声と同時に、ひなと大我が訓練所の中央に歩く


「言っとくが、ひなちゃん

 俺は女だろうが手加減はせぇへんで?」


「助かります、全力で来てください」


 大我のちょっとした挑発に、冷静に返すひな

 昔からスポーツは得意だったから、こういう戦闘試験も、スポーツの大会とかと一緒のようなものだろう

 幼なじみの龍夜ですら、ひなのここまで集中した表情を見るのは初めてだ


「それでは第2試合 日高ひなVS大皇寺大我

 試合開始!!」


「《神成剣(カミナリソード)》!!!」


「うお!!いきなりかいな!」


 開始の合図と同時に、ひなは必殺技を出す

 自らに雷を打ち、そのエネルギーを剣に変える


「速攻で終わらせますよ!!」


「出来るもんならやってみや」


 剣を大きく振り、雷を帯びた剣圧を飛ばす

 スキルを使わずには対処出来ないと判断した大我は、すぐさまスキルを使う


「《炎魔羽衣(えんまはごろも)》」


 ひなのように、自身に炎を纏う大我

 しかし、ひなとは決定的に違うところがあった


 ひなの必殺技神成剣は、自身に放ったエネルギーをコントロールして剣のようにしているだけだが、

 大我のこの技は、炎を鎧に変え、元々そこにあった物体として扱うのだ

 エネルギー切れの心配も、コントロールの必要も無い

 それだけで実力差は圧倒的だった


 ひなの剣圧を防ぐことなく、鎧で受け止める大我

 自身の渾身の攻撃を、軽く防がれたひなは、悔しそうに唇を噛む


「だったら、これはどーですか!!


 神成剣・モード扇子(カミナリソード・モードフェン!!」


 すぐ次の手を打つひな

 大剣を扇子の形にし、雷を帯びた突風を飛ばす

 炎と風の相性は良い

 風で炎が散らされて、威力は落ちる

 有利な属性で攻めるひなの起点は素晴らしいものだった


 相手が、大我でなければ


「なんで!?」


「風で俺の炎を飛ばそうと考えたまでは良かったんやけどな

 残念!俺の炎の鎧はもう物体として存在してんねん

 俺が解除しない限り、誰にも消せへんで」


 またしても、攻撃を防がれてしまう

 次の手を考えるひなに、大我はその時間は与えまいと、攻め始める


「おらおらぁ!!

 早く次の手考えねぇと、終わっちまうで!!」


「くっ!!なんか、なんかない!?」


 大我はひなに、休みなく炎のエネルギーの塊を飛ばしている

 ひなは、それを自身の雷のエネルギーの塊で相殺するだけで手一杯だ


「(こいつ、俺がこんだけ攻撃してるのに、まだ魔力切れを起こさへんのか?)」


 大我はふと疑問に思った

 大我たち《なにわ連合》と龍夜たちの実力にはかなりの差がある

 それは、先の試合でも一目瞭然だった

 先に戦った、聡、英美里は、自身の奥の手の技を使い、その後はかなりの疲労を見せていた

 対して、未だに大我の攻撃を相殺するひなは、一向に魔力切れを起こす気配がない


 それを、離れてみていた龍夜と雅も気づいていた

 この間の《赤の象》との戦闘

 みんなが魔力切れで疲れ切っているのに対し、ひなは全く疲労を感じさせない素振りだった

 しかし、それは無理をしていたのではなく、ただただ、日高ひなという者は、魔力の量が桁違いに多かったのだ


「ははっ!!ひなちゃん!!

 舐めてたで!お前、めっちゃ強いやん!!」


「それはどーもっ!!

 防戦一方ですけど...ねっ!!」


 大我の攻撃をかき消し、もう一度自身に雷を放つひな

 次は何をしてくるのかと、期待した表情で大我は見つめる


「雷乱舞(トオーノセバージア)!!」


 ひなの叫びと共に、大我を囲むように五つの雷雲が現れる

 一つ一つの雷雲から、雷が大我を目掛けて降り注ぐ

 さすがの大我もこれだけの量を防ぐことは出来なかった


「ええなぁ、ええなぁ!!!!」


 口から垂れる血を拭い、恍惚とした表情でひなに叫ぶ大我

 彼の体中から、楽しいという感情だけが伝わってくる


「これは...」


「頭取、止めますか?」


 激しく興奮している大我を見て、危険を感じ、止めるか迷うあかり

 まだ迷っているのか、判断を決めかねている

 そしてすぐにあかりは後悔する


「じゃあ、これは防げるかいな!!!!」


 大我が、炎で出来た斧を顕現させ、斧にエネルギーを溜め始める


「あかん!!!大我!!やめぇ!!!」


 その動作に気づき、あかりが制止するがもう遅い


「愚煉炎魔(ぐれんえんま)」


「ひなちゃん!!今すぐ逃げて!!!」


 止まらない大我を諦め、すぐにひなに退避しろと指示を出すあかり


「嫌です!!!!逃げません!!」


 ひなは、あかりの指示を無視し、大我の大技を受ける覚悟を決める

 そして、ひなもありったけの魔力を前に出した両手に込める


「喰らえやぁぁぁああ!!!」


「神雷砲(ディオトオーノキャンノル)!!!!」


 お互いの大技がぶつかり合う

 どちらも凄まじい魔力で、訓練所全体が揺れる

 しかし、このぶつかり合いは、すぐに幕を閉じる


 ひなの技が大我に飲まれる

 ここまで戦い、ついに魔力が切れてしまった

 大我の技は止められない、しかし、魔力が切れてしまったひなには防ぐ術がない


「(あ、これ、死ぬ...)」


 目の前に広がる大きな炎の塊が自分へと近づいてくる

 本能から死を悟ったひなは、目を瞑った


 訓練所内に、大きな爆発音が響き、大量の砂埃が視界を奪う


「うそ...やろ」


 あかりは膝から崩れ落ちる

 こんな事態が起きないために、わざわざ止めに入る人間を用意していたにも関わらず、あまりにも力が大きすぎて、それも間に合わなかった


 直撃は避けられていない

 確実に死んでしまった、殺してしまった、

 と、思っていた


 龍夜たちの方からは見えていた

 大我の大技が、ひなにぶつかる寸前、とてつもない竜巻が起き、大我の膨大な魔力が込められている技を相殺した


「い、生き...てる...

 って、このバリアは智咲!?」


 すぐに危険を察知し、智咲はひなにバリアを何重にも掛けて張っていた

 しかし、大我の攻撃はひなに届くことは無かった


「にゃぁーーお」


 ひなの前にはいつの間にかだいずがいた

 静かに大我を睨みつけるその姿は

 自分の仲間を傷つけるなと言っているようだった


「おいおい、まじかよ」


 猫が自分の大技を止めたという事実に、動揺を隠せない大我

 しかし、大我が動こうとした瞬間に、冬弥が大我の頭に銃を向ける


「まじかよはこっちのセリフや大我」


 両手を上げている大我に、近づくあかり

 その表情からは、今まで見た事のない怒りを表していた


「お前、殺そうとしたな?

 なにしてんねん、笑えんで」


「す、すまんあかり、つい夢中になっちまっ...て...?」


 言い訳をしようとしていた大我にあかりは思い切りビンタをする


「笑えんで大我!!!人が死ぬとこやったんやぞ!!!」


 泣きながら大我に怒鳴りつけるあかり

 怒りと悲しみ、どちらも含めた表情だった


「すまんかった...」


「謝んのは私やない、ひなちゃんにや

 はよ行くで」


 あかりをここまで怒らせ、悲しませてしまったということに酷く反省する大我

 その大我を連れ、あかりはひなの元に歩き出す


「ひなちゃん、いまさっきの大我の失態。

 私の管理責任や、本当にごめんなさい。」


「い、いえ!!全然大丈夫です!!

 私もあかりさんの警告無視しちゃったし!」


「いや、命が助かったから良かったものの、ありえない行動だった、

 試験っちゅーのに、判断する立場の私たちが、ひなちゃんを危険に晒したのは大変なことや。

 本当にごめんなさい。」


 再び深々と頭を下げるあかり

 隣で大我も悪かったと深く頭を下げる


「だ、大丈夫ですって!!

 頭あげてください!!」


「いや、本当に悪かった!!

 俺に出来ることならなんでもする

 詫びさせてくれ」


 そう言い頭を下げる大我に、ひなは戸惑いながら、考える


「じゃ、じゃあ、レストラン1ヶ月無料で!!

 それでチャラにしましょう!!」


「そんなんでええんか?」


 ひなの提案に、大我が頭を下げたまま顔を上げて聞く

 ひなは、コクコクと頭を大きく縦に振る


「ひなちゃんがそれでええなら、今日からひなちゃん含め、心配かけてしまった龍夜たち全員のレストラン代は無料にする

 もちろん、大我はレストラン代の分しっかり詰め詰めで働いてもらうで」


 あかりの決定に、喜ぶひなと、最後の言葉を聞き、絶望の顔に変わる大我

 それで今回の件はチャラとなった


「俺たちまでいいのか?」


「ええに決まっとる

 龍夜たちにも謝らせてくれ。

 本当にすまんかった」


「気にするな、無事だったんだから大丈夫さ」


 龍夜たちにも頭を下げるあかりを、龍夜が必死に止めていた



 そして、気になる第2試合の結果だが、ひなは、文句無しの合格を貰った

 大我とここまでやり合えるのは、ギルド内にも限られている

 十分すぎる強さだった


「よかったぁーーー、もうヘトヘトだよ〜」


 大量の魔力を消費したひなは、疲労でフラフラとしていた


「ところで、その猫ちゃんはなんなん?」


「だいずさんです」


 大我の攻撃を止めただいずに対して、あかりが疑問をぶつける

 すかさず智咲がだいずの紹介をする


「わかった、だいずさんやね、

 で、だいずさんは、なんやの?

 猫なのにスキルが使えるんか?聞いたことないで」


「やっぱりそうなのか?

 俺達もここに来る前に知ったんだ

 俺は気を失ってて見てなかったが、《風》のスキルを使うみたいだ」


 やはり、猫がスキルを使うという事例は無いらしい

 だいずが特別なのか、それともまだそういうことが起こっていないだけなのか、龍夜は考える


「なんにしてもすごいなぁ、大我のあの技止めたん初めて見たで」


 だいずを撫でながら、話すあかり

 先程までの怒りの感情は消え去っていて、今はだいずに癒されている顔をしている


「(だいずさんも、戦力として考えた方がええかもな

 なんかあったら、私たちを助けてな?)」


 だいずに、そう心で語りかけると、あかりは立ち上がった


「気を取り直して、次行くで!

 なにわ連合側は、さっきのような失態はないように!!!」


 あかりの言葉になにわ連合側が返事をする

 それだけ言うと、あかりは元いた壁際へと歩いていった

 それを見て、龍夜たちも自分たちの場所に戻る



「えー、波乱の2回戦でしたが、切り替えていきましょう


 第3回戦の方々は準備をしてください」


「雅、」


「ごめんなさい、集中しているから、話しかけないで貰えるかしら」


 激励を送ろうとした龍夜の言葉を遮り、雅は訓練所中央まで静かに歩いていく


「(この気持ちは、ちゃんと隠さなきゃ...)」


 龍夜に言えるはずのない気持ちを抑える

 ここで彼に支えてもらってしまうと、自分が弱くなってしまうと感じている雅

 だからこそ、この試験で、自分の気持ちにも整理をつけたいと思っていた


「負けない。」


 雅は静かに目を閉じた




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異世界現実 isekai real クワエ @kuwaedao

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