Episode 22 第一試合

「じゃ、そろそろ訓練所いこかー!」


 そう言って本部の中に入るあかりに、龍夜たちは着いていく


「みんな頑張ろうね!」


 緊張しているのか、少しぎこちなく歩くひなが言う


「が、が、が、頑張りましょうぅ!!」


「英美里、緊張しすぎ」


「ふふ、そうね。あまり緊張してたら、本来の力を発揮出来なくなるわよ」


「雅さんは落ち着きすぎなんですよぉー!!」


 緊張感があるのか無いのか、いつの間にかいつも通りに会話を始めていた

 これなら安心だろう、と龍夜は後ろを歩くみんなを見ていた


「あかり、俺の相手があかりなのってやっぱ、リーダー同士だからか?」


「それもあるけど、一番の理由はべつにあんねん」


 そう言うあかりの顔は、先程までのふざけた調子はなく、真剣な顔付きだった

 その周りを歩く幹部たちもだ

 龍夜は、あかりの雰囲気に圧倒され、会話を止めた

 そのタイミングでエレベーターが開く


「今日はおふざけ無しや

 あんたらが戦力になるのか、しっかり判断させてもらうで」


 エレベーターから全員が降りたところで、あかりは振り返り言う

 先程の龍夜に見せた雰囲気で、みんなにも緊張が走る


「みんなぁ!今日はこのフロアは貸切や!

 すまんが、のいてくれるかー?」


 訓練をしていたギルドメンバーに、大きな声を出し訓練を止めるように指示するあかり

 その声に反応し、訓練をしていた人たちはすぐさま移動を始めた


「そういえば、今日試験が何とかって言ってたな」


「作戦参加希望者でしょ?大丈夫かしらね」


 移動するギルドメンバーから、所々会話が聞こえる

 訓練を中断させたからか、龍夜たちへの当たりは余り良くない


「すまんな、騒がしい連中で」


「いや、大丈夫だ。それよりあの人たちは誰だ?」


 龍夜があかりに問いかけたのは、訓練所の四方にいる人達の事だった


「試験中、もしどちらかに危険があった時に止めれるようにや

 防御系スキル持ちの人達に待機してもらっとる」


「なるほどな」


 ということは、あかりたちも本気で戦う気満々ってことだよな?

 これは尚更油断出来ないな


「じゃあ、あとは木吉さんにまかせるわ」


 あかりはそう言って、冬弥たち幹部を連れて、龍夜たちとは反対の壁の方に歩き出す

 すると、訓練所内にアナウンスが響き渡った


「えー、任せれました木吉です

 ここから、試験の進行を行います

 第1試合の方々は中央に来てください」


 機械的な声で淡々と進行していく木吉

 呼ばれた英美里は、緊張で歩き方がカクカクしている


「英美里、がんばって」

「英美里ちゃんがんばれぇー!!」


「イ、イッテキマス」


 カクカクと振り返る英美里に龍夜が近づく


「英美里ちゃんの実力は俺のお墨付きだ!

 やれるだけやってこい!」


「っ、 はい!!!」


 龍夜の激励に、一瞬で緊張が解ける英美里

 これなら、普段の彼女の実力を出さそうだ


「英美里っていうんや!さっきも自己紹介したけど、松原楓子や!よろしくなぁ!」


「よ、よろしくお願いします!」


 少し男勝りな口調で話しかけてきた楓子に、しっかりと挨拶を返す


「両者準備はよろしいでしょうか?

 それでは第1試合、松原楓子VS水原英美里

 試合開始!!」


 試合開始の合図の後にゴングが鳴る

 それと同時に、英美里は槍を出す


「え?」


 槍を構えた体勢で英美里の動きが止まる

 視線の先の楓子は、まだ武器も何も出していなかったのだ


「は、早くスキルを使ってください!」


「ええんやこれで

 試合って言ってるが、一応これは試験や

 スキル使ってもーたら、実力確かめる前に倒してまうやろ?」


 楓子のその言葉に、英美里は珍しく苛立ちを見せた


「どうなっても知りませんよ!!」


 丸腰の楓子に、思い切り槍を振る

 しかし、軽く躱されてしまう

 聡と戦った美湖ほどでは無いが、楓子も負けず劣らずの動きの速さだった


「くっ!スキルも使ってないのになんで!?」


「甘い甘い、スキルに頼ってばっかじゃ、魔力切れした時に死ぬで

 だから、私たちは体術も磨いてるん、や!!」


 楓子の蹴りが英美里の腹部に思い切り入る

 レベル差もあるのか、かなりのダメージを食らっていた


「さすがにこれで終わりじゃないやろ?

 ほれ、全力出してみぃ」


「わ、わかりました

 でも、絶対スキルを使ってくださいね」


 立ち上がりながら、楓子に警告をする英美里

 その言葉には負けているのは英美里なのに、何故か妙な圧があった

 それを楓子も感じ取り、体勢を整える


「凍槍・悲譚雫(とうそう・ひたんしずく)」


 英美里がそう呟くと、槍を氷が包んでいく

 刃先に氷の結晶に見立てた刃が美しく輝いていた


「あれが英美里の必殺技か」


「初めて見たけど、中々ね」


 英美里の必殺技をまだ見た事のなかった龍夜と雅がまじまじと英美里を見ながら話す


「へぇ!いいもん持ってるやん!

 さすがに、これはスキル使わなやばそうやな


 《着替人形(ベスティーラバンボラ)》!!」


 楓子が自身のスキル名を叫ぶ

 すると、楓子の体から光が溢れ、大きなクマのぬいぐるみが顕現した


「おめかししよーな、ソフィア」


 ぬいぐるみの着ていた服が、メイド服に変わる

 その間に突っ込んできていた英美里を、ぬいぐるみが受け止める


 しかし、槍を受け止めた箇所から凍り始める

 楓子はそれに気づき、ぬいぐるみに指示を出す


「縮め!ソフィア!」


 すると、槍を掴んでいたぬいぐるみがキーホルダーサイズに縮み、蝕んできていた氷から逃れる

 そして、再び元のサイズに戻る


「あと少しだったのに!」


「危なかったぁ!

 ソフィア、また着替えるで!」


 楓子の言葉で、再び人形の衣装が変わる

 次は、胸に炎のロゴが入った服だった


「氷には炎、これは鉄則や!」


 楓子が人形に攻撃の指示を出す

 すると、人形の口から炎が吐き出された


「炎か、英美里には相性最悪だな」


「やばいよやばいよー!!

 え、英美里ちゃん!!がんばれー!!」


 冷静に2人の戦いを分析する雅の横で、大慌てしているひな


「《悲譚雫・壁(ひたんしずく・へき)》!!」


 英美里が、槍を地面に突き刺す

 すると、地面から氷の壁が伸びてき、楓子の炎の攻撃を防ぐ


「そんなのもあるんかいな!

 でも、炎の前では持たんやろ!!」


「持ちません!!

 だから、これで決めます!!」


 英美里は、槍の刃先を自分の後方に持っていき、地面に触れさせる

 炎の攻撃が止んだ瞬間走り出し、槍が触れている地面を凍らせながら走る

 そして、それを楓子の人形に下から上へと振り上げる


「《悲譚雫・麗(ひたんしずく・れい》!!!」


 人形は下から上へと物凄い勢いで凍っていった

 英美里が振り上げた所は、凍った人形の氷の柱が出来上がっていた

 あまりの美しさに、その場にいる全員が柱をじっと見ている


「はぁー!これはやられた!

 うちの負けや、降参降参!!」


 楓子の降参を聞き、その場に座り込む英美里

 今の戦闘で、魔力が大幅に削り取られたみたいだ

 その英美里に、楓子が手を差し伸べる


「すみません、お人形さん凍らせてしまって」


「あぁ、大丈夫大丈夫!

 一旦スキル解除したら、また使えるし!」


 そういうと、氷の柱の人形を消し、再び目の前に顕現させる楓子

 その行動に、英美里はショックが隠せなかった


「じゃ、じゃあ、まだ戦えたってことですか!?」


「んー、まあな!

  でも、さっきも言ったやろ?これは試験や!

 ウチの目的はあんたの能力を見ることだった

 お世辞抜きで凄い能力や、だから降参したんやで」


 自信持ちぃ!と言って英美里の背中を叩く楓子

 彼女はそう言うが、英美里は、本当は自分が負けていたのだと、実感して俯いている


「ほら!早く仲間の所へ戻り!

 合格や!!お疲れさん!」


 合格を貰えたが、実力の差に落ち込む英美里

 龍夜たちの待機している場所にとぼとぼと歩きながらいく


「英美里ちゃん!!!めっちゃ凄かったよーー!」



「赤の象戦の時より強くなってるじゃねーか」


 戻ると、労ってくれる仲間たち

 嬉しく思うが、複雑な気持ちだ


「でも、本当は負けてたかもしれません...」


「何言ってんだ、合格は貰ったんだ

 実力の差を感じたなら、掃討作戦までにどんどん強くなればいい、そうだろ?」


 龍夜の言葉で、我慢していた悔しさが込み上げてくる

 気がつくと英美里は涙を流していた


「...はい!!!

 絶対絶対強くなります!!!」


 悔し涙を流す英美里に、ひながもらい泣きして駆け寄っている


「第1試合終了!

 これより、第2試合を開始します!

 準備をしてください!」


 木吉のアナウンスが流れる

 第2試合はひなだ

 呑気にもらい泣きしているが、大丈夫なのだろうか


「よし!!!!じゃあ、行ってくるね!!」


「ひな、無理はするなよ」


「大丈夫!!絶対勝ってくるよ!」


 そう言ったひなの背中は、なんだか心細そうに見える

 聡がひなに近づき、思い切り背中を叩いた


「いったぁ!!!!」


「元気があるのがお前の取り柄だろう!

 いってこい!!」


 聡なりの激励だったのだろう

 ひなはにっこり笑った

 先程のような緊張感のない笑顔ではなく、精神を集中させている自信のある顔で


「いってきます!」



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