Episode 20 格の違い

 掃討作戦に参加するため、龍夜たちはギルド《なにわ連合》による試験を受けていた


 鈴音父、鈴音母と、合格を貰い、試験は順調に進んでいると思っていたが、まさかの蓮見は試験を辞退

 不穏な空気を纏いつつ、龍夜たちは、次の聡の試験会場の本部6階の訓練所に来ていた


「ここが、なにわ連合の訓練所...」


「こんな光景、現実で見るとは思わなかったぜ」


 訓練所の様子は、本当に現実なのかと疑うくらいのファンタジー要素てんこ盛りだった

 数々のスキルを使い模擬戦をする者たち

 自分のスキルを伸ばそうと、限界に挑戦する者たち

 訓練所の使い方は様々だが、多くのスキル持ちの人達が己のスキルを磨くために必死に訓練をしていた


「じゃあ、早速試験を始めたいんやけどー」


 そう言って、あかりは訓練所をキョロキョロと見回す

 だれか探しているのだろうか


「あ、あいつーーーーー!!!またか!!!」


 あかりがそのだれかに、怒りだした

 彼女の言う、「またか」という言葉を聞くあたり、なにかあったのだろう

 あかりが頭を抱え怒っていると、いつの間にか下に降りていたエレベーターが訓練所の階に止まる

 そのエレベーターから、20歳前後の緑の髪のマッシュヘアーの若い女性が出てきた


「いやぁ、すまんすまん、寝坊したわぁ」


「美湖!!!!あんた寝すぎや!!ほんまに今回こそ怒るで!」


 寝ぼけた顔で入ってきた女性は美湖というらしい

 まだ眠そうな顔を擦り、あかりから怒られている


「だって、眠いんやもん。仕方ないやろ」


「今日は大事な試験っていったやろ!?こんな時くらい起きろや!!」


「えぇー?試験って言っても、どうせろくな戦力になんかならないやろ」


「おい、それは聞き捨てならねぇな」


 あかりと美湖の会話に割って入る聡

 ろくな戦力にならないと言われたことに、少し腹を立てている様子

 聡は、蓮見の辞退の件もあり、少し気が立っていた


「あんたが試験受ける人ー?

 大丈夫なの?モンスターと戦える?生き残れる?殺されない?

 あ、私【天谷美湖(あまがやみこ)】や、よろしゅうな」


 寝ぼけた顔から突然真剣な顔になり、聡に質問攻めをする美湖

 急な美湖の変化に聡は驚いていた


 ――――――――――――――――――――

【天谷美湖(あまがやみこ)】

(年齢)24歳

(好きな食べ物)練乳

(特技)早寝遅起き

 ギルド《なにわ連合》の幹部の一人

 あかりの従姉妹で、姉代わりのような存在

 普段は脱力気味で睡眠第一の生活をしているが、ここぞという時は、物凄い力を発揮する

 しかし、やる気が出るまでが遅い


 スキル

 《豪細剣(スパーダソッティーレ)》

 属性付与されたレイピアを使いこなす

 目にも止まらぬ速さで相手を切り刻む


 ――――――――――――――――――――


「俺はそんなヤワじゃねぇ。

 ごちゃごちゃ言わねぇで早く試験始めろよ」


 美湖の質問攻めに多少困惑しながらも、強気で返す聡

 その聡に対し、美湖は少しだけ口角を上げた


「あかりー?そう言ってるんだけど、もう始めていい?」


「ええでー、試験内容はあんたに任せるわ」


 ため息を吐きながら、美湖に試験を丸投げするあかり

 龍夜たちは、心配そうな目で聡を見つめていた


「お前ら心配が顔に出すぎだ

 行ってくる」


 緊張からか、口数が減っている聡

 龍夜達に心配をかけないようにしようとしていたが、逆にその対応がさらに不安にさせた


「ん、んーーー、じゃあ、試験内容は私に攻撃を3回当てること

 それでええか?」


「そんな簡単でいいのか?」


「簡単かどうかは、始まってからのお楽しみや」


 そう言って美湖はレイピアを構え、聡に走り出す

 いきなりの行動に、聡は戸惑うがすぐに戦闘態勢を取るが、もう遅かった


「ぐあっ!!」


「遅すぎや、眠なるでホンマに」


 一回目の瞬きで距離を詰められ、二回目の瞬きで、体が数箇所切られていた


「目にも止まらぬ神速、とかたまに聞くやろ?

 美湖は、それを体で再現出来んねん

 龍夜たちは今の攻撃見えたか?」


 あかりが龍夜たちに聞く

 その質問に、雅を覗いた全員が首を横に振った


「今の一瞬で14...いえ、15回切ってるわね」


「正解や、さすが剣士をやってるだけあるなぁ雅たん!!」


「その呼び方やめなさい。

 それにしても、さっきのだらけ具合からよくあそこまで変わるわね」


 それも含めて、美湖の強いところや、と話し出すあかり


 美湖の目に見えないほどの速さの剣技は、普段の彼女のだらけた性格も相まって、かなりの緩急がつけられている

 そのせいもあり、目に捕えることがさらに難しくなっていた


「なるほどな、最初から無意識的に彼女は遅いと刷り込まれているのか」


 彼女の速さに納得する龍夜に、そういうことや、と返答するあかり

 切られた聡は地面に倒れている

 あらゆる所から血が出ているのに、無理に立ち上がろうとしている


「聡さんはもう無理やな、試験止めるけどええか?」


「いや、まだ待ってくれ」


 聡の身を案じて試験を中断させようとしているあかりを龍夜が止める

 聡がこんなに簡単に負けを認めるはずがないと、龍夜は思っていた


「《操祈乱歩(そうきらんぽ)》」


 聡は《赤の象》戦で見せた技を使う

 念力で自分の体を動かし、攻撃へ転じる聡

 美湖に蹴りが一発当たる


「へぇ!やるやん!」


「まだまだこっからだ!」


 再び、蹴りで攻撃する聡

 しかし、先程の一発で見切られたのか、尽く避けられる


「ちっ、これならどうだぁ!」


 自分の体を動かしている念力と同時進行で床に転がっていた岩を動かし美湖へぶつける

 しかし、その岩も粉々に砕かれてしまった


「(このままじゃ魔力切れになっちまう、なんとかしねぇと...)」


「あれ?もうネタ切れかいな?」


「うるせぇ!まだだ!」


 聡を煽る美湖

 しかし、聡の頭は冷静だった

 再び蹴りで攻撃する聡


「それはもういいって!」


 見飽きたと言わんばかりに、聡の攻撃を避けようとした美湖に、蹴りが思い切り当たる

 この時、聡は自分が蹴る瞬間に、避けようとする美湖の体を念力で避けられないように動かしたのだ


「あちゃーー、もろに食らってしもた

 そんな技も隠してたんかいな」


「はぁ、はぁ、今思いついただけだ」


 そう言いながら、タバコに火をつける聡

「試験中に吸うなやー」と美湖は言いながら、聡に攻撃をしている

 目が慣れてきた聡は、その攻撃をギリギリのところで躱す


「そろそろ疲れてきたし、もうお終いにしよか」


 そう言って、レイピアを構え直し、集中する美湖

 床に転がっていた小石が周りに浮かび上がってきていた


「やめろ!!!美湖!!!」


「《連魔第二章・黄昏(れんまだいにしょう・クレプスコロ)》」


 あかりの制止が間に合わず、技を放つ美湖

 聡も美湖の技に危険を感じ、念力で美湖の体を動かしつつ、ギリギリで避ける

 一歩間違えれば、首が飛んでいた


「あ、危ねぇ...」


 技を避けられた美湖は、ため息をつきながら剣を鞘に戻す


「この技が初見で避けられたんは初めてや

 試験は合格

 さっきは、酷いこと言ってすまんかったなぁ」


「そりゃどうも

 いい経験になった、こちらこそありがとな」


 欠伸をし、先程の素早さが見る影もなくなり眠そうにする美湖

 それに対して、タバコに火を付け笑顔で返す聡


「聡さん!!凄かったですよー!!!」


 試験は合格という美湖の言葉を聞き、英美里が駆け寄ってくる

 それにつられて、龍夜たちも聡を労いに行く

 そんな龍夜たちを見ながら、あかりと美湖は話していた


「でも、良かったん?技避けただけで合格なんて」


「いや、ちゃんと三発当てられたで」


 見てみ、と言って自分の手の甲を出す美湖

 それを見て、納得するあかり


 聡は美湖の技を避ける寸前に、自分の体、美湖の体、そして、吸っていたタバコに念力を使っていた

 ギリギリで技を避け、美湖の右手の甲にタバコで攻撃をしていたのだ


「あいつ、神父なんやろ?

 神父が女の子に焼き入れるってどうなん?」


「天罰下りそうやな〜聡さん」


 あかりたちがそんな話をしているとは知らず、聡は龍夜たちと話していた

 しばらくしてから、あかりが話し始める


「ちょっと早いけど、今日の試験は終わり!

 明日試験の人は、今日と同じ時間に本部前にきてくれ!

 本部の中も10階以外はある程度見学してもええから、自由にしてくれ!解散!」


 明日の試験は、英美里、ひな、雅、龍夜、そして最後に智咲の順で行われる



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