Episode 19 試験開始

 

 時刻は朝8時

 朝食を済ませた龍夜たちは、ギルド本部前にいた


「おーし!みんな揃ってるね!

 それじゃあ、試験を始めます!!!」


 本部の中からあかりと冬弥、それに大我が出てきてそう言い、説明を始めた


 大幅の内容は昨日話した通りだった

 初日の今日は、非戦闘員である鈴音両親、広樹、蓮見のスキルの有能性の試験

 試験場所は、鈴音父は《分析》のスキルを発揮しやすい本部の8階にあるコントロールルーム

 広樹は《念話》なので、他の人の試験に並行で行うらしい

 鈴音母は、ひなたちが行ったというお店の人が見てくれる

 そして、蓮見は6階の訓練所に行き、そこで訓練している人達にバフを掛けるということだった

 鈴音父、鈴音母、蓮見(広樹は並行)の順で試験を行うということで、龍夜たちも見学をしていいとの事だった

 そして、非戦闘員が終わったら、聡の試験を訓練所で行うという


「トップバッターはちょっと緊張しますね」


 普段落ち着いている鈴音父も少しばかりか緊張していて、メガネを上げる回数が増えている


「大丈夫ですよー!!この前も私たちを助けてくれたじゃないですか!」


 緊張のあまり、当たりをキョロキョロしている鈴音父を英美里が励ます

 英美里の言葉に、「頑張るよ」と微笑み返す鈴音父


「じゃ、そんな感じで!

 明日の概要は今日の終わりに話すで〜!!」


「頭取、そろそろ時間です」


「え、もお!?えーー、じゃあほないこか〜」


 まだ龍夜たちと話したがっていたが、冬弥の指示で行動を開始するあかり

 気だるそうに歩くあかりの後ろを、最初に支援を受ける鈴音父を先頭に龍夜たちはついて行く


 エレベーターに乗り、8階に着く

 ドアが開くとそこには、数え切れないほどのモニターとパソコン、そして30人を超える人達がいた


 龍夜たちがエレベーターから降り、室内へ入ると、見た目は30代後半のアフロの色黒の男が話しかけてきた


「おはようございます、あなた達が試験を受けるっていう人達ですね?

 僕は、ここの責任者で、一応なにわ連合の幹部をやっとります、【木吉和樹(きよしかずき)】って言います、今日はよろしくお願いします」


 ――――――――――――――――――――

【木吉和樹(きよしかずき)】

(年齢)23歳

(好きな食べ物)羊羹

(特技)機械全般

 色黒で、髪型はアフロ

 見た目に反して、とても礼儀正しく、真面目

 小さい頃からパソコンやスマホ、その他の機械を弄り過ぎて、声のトーンがAI並に変わらなくなってしまった

 ギルド《なにわ連合》の幹部の一人


 スキル

 《機真兵(マシーナソルダート)》

 触れた機械の使い方を即座に覚え、自分の思うままに動かすことが出来る

 そして、一度触れた機械の情報は、その機械を見ずとも頭に情報が流れ込んでくる

 ――――――――――――――――――――


 龍夜たちに笑顔で自己紹介をするが、見た目とは真逆の礼儀正しさと、機会じみた話し方に戸惑っている龍夜たち


「それで、僕らのところでの試験はどなたが?」


「わ、私です」


 木吉の問いに鈴音父は手を挙げて答える

「では、こちらに。まずはスキルの確認を」と、鈴音父を個室へと連れていく木吉


「あの人大丈夫かしら?」


「きっと大丈夫ですよ、俺たちは見守ってましょう」


「木吉さんはなー?めっちゃ凄いんやで!

 ここがどんな部屋かはあのモニター見たら検討はつくやろ?」


 そうあかりが話し始める

 龍夜たちも気づいていたが、このコントロールルームにあるモニターには、避難地区内の映像が細かいところまで映されていた

 そして、パソコンを弄っている人達は、龍夜達からすると訳の分からない文字列を打ち続けていた


「ここの機械はぜーんぶ木吉さんが管理してんねん

 あの人のスキル《機真兵》で、全ての情報があのアフロの中に入っとる

 あの人がおるから、避難地区は安心安全なんや」


 あかりの顔は真剣そのもので、どれだけあかりが仲間を大切に思っているかが伝わってきた


 あかりの話が終わると、個室から木吉と鈴音父が出てくる

 あかりは、「はやかったなぁ!」と言い、2人を出迎える


「合格でお願いします」


「おーけー!じゃ、次行くで〜!」


 木吉とあかりの会話に、龍夜たちはポカンとしている

 当人の鈴音父もだった

 龍夜たちは個室で何をしていたのか鈴音父に聞く


「ほぼ面接だったよ、機械系の」


 木吉は個室で鈴音父のスキルについて詳しく聞き、その後は、どの機械に入れるか、どの機械なら上手く扱えるか、などを聞かれたらしい


 それを聞いても尚、一瞬の合格の意図が分からず、戸惑っている龍夜たちに木吉が説明を始めた


「機械とは、知識です

 この機械はこう使ったら上手くいく、この機械はこういう事が出来る、逆に出来ない、という知識が無ければ上手く扱うことは出来ません

 ですから、作戦までに多くの知識を詰め込んでもらうということで、合格です」


「なるほどなぁー!!じゃ、次行こか〜!

 ありがと木吉さん!!」


 あかりが木吉の話を無理やり遮り、次に向かうように龍夜たちに指示を出す

 龍夜たちは急かすあかりについていき、再びエレベーターに乗る


「あかり、適当すぎじゃないか?本当に真面目に試験してくれてるのか?」


「ええねんええねん、あれで!

 木吉さん、機械の話するとマジで長くなんねん!

 澪とかこの間2日間寝ずに語られたらしいで...

 危ないとこやったわ〜」


 龍夜の問いかけにため息を吐きながらいうあかり

 なるほど、だからあんなに急かしてたのか、と納得した顔をする龍夜


「鈴音ちゃんのお父さんが可哀想やわ...作戦まで地獄やろな...」


「今の話、聞きたくなかったですね...」


 鈴音父のこれからする苦労を思い項垂れるあかり

 それに続き、これからくる地獄を想像し項垂れる鈴音父

 みんなは2人を苦笑いで見ていた

 そんな話をしていると、エレベーターは1階に着いた


「じゃ、次は鈴音ちゃんのお母さんの試験や!

 ちょいと街まで行くで〜!

 あ、こっから広樹くんは念話で私に話しかけてな!」


「了解しました!」

「あら、よろしくねぇ」


 あかりの言葉に2人は返事をする


「ここにもうすぐクレープ屋さん作んねん!

 出来た時は広樹くんも食べきてやぁ?」


「え!?あ、は、はい」


「あかり?念話で話してるんじゃないのか?」


 念話で広樹と話しているはずのあかりが、普通に広樹に話しかけているので驚いて聞く龍夜

 あかりはそんな龍夜をバシバシと叩きながら


「これも試験やねん!

 普通の会話と念話を同時に話せるかーちゅうな!」


 そんなことに意味があるのかと考えている龍夜の表情を読み取って、あかりが続ける


「意味はあるで。

 戦場では、一分一秒が生死を分ける

 念話で受け取った言葉をノータイムで伝えることが出来れば、それだけで情報の回りが早くなる

 それだけで、早く行動に移せるっちゅーことや」


 あかりにそう言われて、龍夜と広樹はハッとした

 広樹はそこまでの段階にいけていないし、龍夜自身も、そこまで考えたことは無かった

 そして、広樹の念話は今回の作戦に参加するとすれば、重要な情報伝達の役割になるだろう

 そこまで見越してのあかりの判断だった

 龍夜は、あかりとの場数の差を思い知らされていた


「凄いな、あかりは。

 こんな大勢をまとめて、俺なんかとは格が違う」


「そんなことないで?

 私は周りに恵まれているだけや

 ナベと大我、それにさっきの木吉さん、みんなが助けてくれるから、私も戦場を広い視野で見れるんや

 助け合いや」


 龍夜はあかりの言葉を聞き、昨日の智咲との会話を思い出す

 龍夜と智咲は、自分たちがみんなを守らないと、と考えていたが、あかりたちはみんなを守って、自分も守ってもらうという関係性でここまで成り立っている

 龍夜たちにも少なからず、その関係性は出来ているのだろうが、龍夜には守ってもらうという考えが無かったのだ


「そうか...」


「龍夜は良いリーダーやね!」


「俺のどこが、」


「あ!あそこや!着いたで〜!!」


 聞き返す龍夜の言葉を遮り、あかりは、試験場所の洋服屋に着いたことをみんなに伝える

 外には、その洋服屋の店長さんが待っていた


「みんないらっしゃーい!待ってたわよー!」


 元気よく龍夜たちを歓迎する店長さん

 年齢は見た感じ鈴音母と同じくらいで、茶髪のポニーテールの元気そうな人だ


「洋服屋Bロードの店長さん、【馬道百合(ばみちゆり)】さん!!

 私が着てるこの服も百合さんが作ってるんやで!」


 そう言って、着ているギルドの紋章が入った白いスーツを自慢げに見せるあかり

 デザインから質感まで高級品のような手触りだと、あかりに触れている女子たちが言う


 ―――――――――――――――――――――

【馬道百合(ばみちゆり)】

(年齢)35

(好きな食べ物)グラタン

(特技)家事全般

 避難区域にある洋服屋、Bロードの店長

 茶髪で後ろ髪を赤色のシュシュで結んでいるポニーテール

 いつも元気たっぷりの人で、洋服を見に来たお客さんに話しかけすぎてしまう


 スキル

 《大縫命(アテーナー)》

 加工されていない布に魔力を流し込み、属性を付与する

 魔力が流れた布は本人の願った通りの服になる

 質感も変えれるため、鎧なども作れる

 ――――――――――――――――――――


「百合さんの凄いところは、その伸縮自在性や!

 見た目は一見普通の洋服、だけど、百合さんの魔力が入ったこと服は、弱いモンスターの攻撃を弾く!逆に爪まで折れるほどや!」


「もう!あかり褒めすぎよー?

 宣伝ありがとっ♡」


 セールスマンのような饒舌ぶりで話すあかり

 しかし、その服の性能は物凄いものだった

 恐らく、この服を着て柿澤と戦っていたら、苦戦はしなかっただろう


「よろしくお願いしますねぇ」


「あなたが試験の人なのね!

 じゃ、早速こっちに来て!」


 挨拶をして、早速お店の中へと誘導されていく鈴音母

「いってくるわねぇ」という鈴音母を見た龍夜は目を擦った


「(あれ?一瞬鈴音のお母さんの背中から火が出てたような)」


 鈴音母は、《赤の象》との戦闘の前に、龍夜たちにコートを作って渡した

 しかし、その服は戦闘で破られてしまったり、傷ついたりしてしまった

 今の自分ではみんなを守れるほどの服は作れないと実感していた鈴音母

 そこに、あかりによる百合の服の自慢

 鈴音母は、柄にもなくこの試験に燃えていたのだ


 鈴音母と百合の後に続き、店の中に入る龍夜たち

 お店の裏に通され、中に入るとそこには、大量の布が床に置かれていた


「じゃあ、試験を始めます!

 試験内容は、この床に散らばっている布の中で1番の高品質の布を当ててください!

 制限時間は30分!!」


「30分!?」


 百合の試験内容に、龍夜たちは驚きの声を上げ、鈴音母は目を見開いた

 それもそのはず、床には200枚近くの布が散らばっていたのだから


「こんなの無茶苦茶だよ、」


「無理に決まってますー!!」


 ひなと英美里が無茶な試験内容だと講義をするが、

「試験内容の変更は無しやで」と、あかりに一蹴される

 その間、鈴音母はずっと黙っていた


「それでは始め!!」


 と百合が声を上げ、タイマーを押す

 開始と同時に鈴音母は布の山に飛び込んだ


「「「え!?!?」」」


 鈴音母の行動に、ひなと英美里と広樹が声を上げ驚く

 残りの者は静かに布の山を見つめていた


「智咲ちゃんはどれが高品質かわかる?」


 智咲にあかりが話しかける

 智咲は首を横に振り、答える


「あんな数じゃ、一枚一枚、一瞬しか触れません

 そんなので当てるなんて無理です」


「龍夜はー??」


 あかりは、智咲の返答に答えず、続けて龍夜に聞く


「俺はなんとなくだが、でも、それが正解かは自信が無いな」


 なるほどなるほどー、とあかりは言いながら、再び喋らなくなる

 そんな会話をしていると、あっという間に30分が経過した


「終了!!」


 百合のその声で、布の山から鈴音母が出てきた

 手には一枚の布が握られていた


「だ、大丈夫かな...」


 ひなが小さく心配そうな声を上げる

 鈴音母を信じるしかない、と他の全員は静かに待っている


「正解は分かった?」


「ええ、分かりました


 ここにある布、全部です」


 鈴音母のまさかの回答にその場にいる全員が驚いていた、ただし、龍夜と《なにわ連合》のメンバーを除いて

 なぜ?と聞く百合に、鈴音母は説明をする


「ここにある布の山には、全て魔力が流れていました

 百合さんが作る服はギルドの制服になるくらいの性能

 つまり、百合さんが魔力を流した全ての布が高品質になる

 だから、ここにある全ての布が高品質という答えです」


 鈴音母の説明で、少しの沈黙が流れる

 そして、百合が口を開く


「せいかーい!!お見事!!」


 正解だったということに、歓喜の声が上がる

 鈴音母は、ほっと胸をなでおろしている


「さすがや鈴音ちゃんのお母さん!

 魔力についてはこっちに来てから知ったのに、ほんとよく分かったなぁ!」


「だからこそよぉ、魔力について教えてもらった時、服を作る時に感じてたものが魔力だったのかぁって私なりに納得ができたのよ〜」


 龍夜たち仲間のことを大切に思いながら、服を作っていた鈴音母だからこそ、魔力に気づけたのだと分かった試験だった

 これで2人が合格

 今日は後、蓮見と広樹と聡である


「じゃ、次は神父のおじちゃんの番やね!

 訓練所いこか〜!!」


「あ、それなんですが、私は辞退しても宜しいでしょうか?」


「え!?」


 突然の蓮見の言葉に、全員が驚く

 あかりでさえ、驚きすぎて、変な声を上げていた


「おいジジイ!!てめぇ何でまた急に!」


 聡が蓮見に怒りを表し、話す

 それを気にせず話し出す蓮見


「私は皆さんの能力を上げることは出来ますが、モンスターが沢山いる戦闘では戦えない私は皆さんの邪魔になってしまいます

 ですから、今回のこの作戦は辞退したいのです」


 蓮見のいうことはもっともだった

 今回の作戦は三つの門の破壊と、その周辺にいるモンスターの掃討

 今までの戦いの比にならない程の数のモンスターとの戦闘だ

 その中で蓮見を守りつつ戦うことは出来なくはないが、そこに戦力をかけてしまうことで、周りにも少なからず負担がかかる

 それを考えての辞退だった


「言いたいことは分かるけどよぉ」


 タバコに火をつけ、まだ納得出来ていない聡が言う

 それに続けて龍夜が話す


「わかりました。本当は一緒に戦いたかったですけど、無理強いするのは違いますもんね」


「すみません、お役に立てず...」


「謝んじゃねぇ、クソジジイ」


「ほっほっほ、ついにクソまで付けられましたか」


 聡の言葉に冗談交じりで返す蓮見

 それをみるみんなの表情は浮かない顔をしていた


「まあ、君らがそれでええんやったら、ええで

 じゃ、神父のおじちゃんは辞退やな?」


 ええ、お願いします、と蓮見があかりに伝え、蓮見は掃討作戦への参加を辞退した


「蓮見さん...」


 ひなと英美里が蓮見に対してなんと声をかければいいか分からなく、下を俯いている


「辞退はしますが、作戦まで皆さんのサポートはさせて貰いますよ」


 という蓮見の言葉に、2人は顔を上げ、元気よくお願いしますと言っていた


「じゃあ、今日の試験は次の俺で終わりだな」


「せや!次はいよいよ戦闘訓練!!

 訓練所に向かうでー!!」


 蓮見の辞退で急遽聡の試験になる

 ここまでは非戦闘員の試験だったから、割と安心して見ていられたが、次の聡からの戦闘訓練は、全く安心ができない

 何故ならば、龍夜たちの試験の相手は、大阪最強のギルド《なにわ連合》の幹部たちなのだ

 果たしてどれほどの実力者が出てくるのか、全く想像ができない


 のんびりと前を歩くあかりの背を見て、今から試験である聡や、明日に試験が行われる龍夜たちも緊張をしながら、ついて行くのであった



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