Episode 18 それぞれの一日
「あかりぃ!!!作戦に参加したいって奴らがいるらしいな!!!」
赤く長い髪を後ろに括り、全身タトゥーまみれの男が荒々しい声を上げて、食堂へと入ってきた
「大我!!!さっきの音はなんや!
あんたまた何かしでかしたんじゃないやろな!?」
「そんな怒んなって!可愛い顔が台無しやで?」
大我と呼ばれた男は、あかりの頭を撫でながら、龍夜たちの方に視線を移す
「こいつらか?作戦に参加したいっちゅー奴らは?」
「あんたは黙っとき!!
ごめんなぁ、こいつ馬鹿やねん
あ、こいつは、【大皇寺大我(おおこうじたいが)】や!
見た目通りヤバいやつやから、あんま仲良くせん方がええで」
――――――――――――――――――――
【大皇寺大我(おおこうじたいが)】
(年齢)18歳
(好きな食べ物)お好み焼き
(特技)UFOキャッチャー
あかりの幼なじみで、冬弥とも昔からの知り合い
雅の父の会社伊集院財閥と並ぶ大企業、大皇寺財閥の社長の長男で、次期社長候補
気に入ったやつにはとびきり優しくなるが、嫌いな奴は殺す勢いで嫌い
あかりのことを嫁に貰うと言っていて、毎度冬弥と喧嘩をしている
スキル
《炎魔(フィアマディア)》
炎を様々な形に操れる、温度調節も可能で、温度と魔力によって色が変わる
基本は手から放出するが、ここぞという時は専用の武器を使う
――――――――――――――――――――
「おいおい、ひでーこというなや、って!!
雅!!お前雅やろ!!」
久しぶりやなぁと言って雅に近づく大我
「話しかけないで頂戴、貴方の頭の悪さが移るわ」
それを冷たい目で見る雅
「ガーン、俺ちゃんショック...」
「まあまあ、バカは置いといて、みんな明日よろしゅーな!」
あかりに引っ張られて連れていかれようとしている大我は、あかりの手をスルりと抜け、雅に耳打ちをした
「後でちょっと話そーや雅」
「嫌よ」
「そんなこと言うなて!じゃ、19時に本部まで来てやー!」
そう言って元気に歩いていく大我
彼の後ろ姿を見ながら、雅はため息をついていた
「雅、知り合いなのか?」
「ええ、ちょっとね...」
大我と雅の関係が気になった龍夜が聞く
みんなも気になるという目線で雅を見ていた
「はぁ、昔ね」
そう言い、雅は大我との関係を話し始めた
大我と雅の親同士は親友で、お互いに企業を設立して対抗していた
どっちの企業が日本一になれるかという勝負をしていたのだ
そして、半年に一度会食をし、そこでお互いの企業について語らうという会があったらしい
雅も大我も親に連れられ、その会食に参加していた時に出会ったのだという
「それ以上の関係はないわ」
「なーんだ!雅さんのフィアンセかと思ったのにー!!」
再びため息を吐く雅に対し、英美里が残念そうに言う
「やめてちょうだい」
雅が真顔で英美里に言うものだから、英美里はごめんなさいと言って凹んでいた
「まあ、何はともあれ、明日を乗り切らなければ、俺たちは掃討作戦に参加すら出来ない!
各自今日はもう解散で!
ゆっくり休んで、明日がんばろう!」
龍夜がそう締めくくり、少し波乱のあった朝の集まりは終わり、みんなはそれぞれ明日に向けて、今日を過ごす
聡は、避難民が暮らす地域を歩いていた
「おぉ、こりゃすげぇな」
避難地域と言っていたが、道は整備され、建物は立て直されていて、店も沢山並ぶ至って普通の街のようだった
飲食店に雑貨屋、それに休憩スペースまである
戦わない人には前と同じ生活をさせたいという、あかりの計らいであった
ギルドに所属している者たちが、飲食店や雑貨屋で働いている
物資の調達もギルドの仕事だ
これだけの人数を不自由なく生活させられているのは、《なにわ連合》の人数の規模と、傘下のギルドたちのおかげだろう
街には、円形上にバリケードが張られていて、モンスターは簡単に侵入出来にくくしているらしい
そのお陰で避難民も安心して普通の生活が送れているみたいだ
「お、あったあった」
聡は、コンビニを探していた
コンビニを見つけて、すぐに中に入る聡
探していたものは、彼の相棒
「65番、2箱くれ」
そう、タバコだった
大阪に来る途中でタバコのストックが切れ、ヤニカスである聡にとっては最悪の状態であった
「ふぅ〜〜」
念願のタバコを吸えて、聡は柄にもなくニコニコしている
久しぶりに吸うタバコの煙は最高に美味かったみたいだ
タバコのヤニで少しクラっと来たが、それもタバコの醍醐味
満足した聡は、宿泊所へ戻るのだった
同じ刻
ひなと英美里と広樹も、街をぶらぶらしていた
「あ!!これとかどーです!?」
「えぇー!!なにこれ可愛い!!」
鈴音たちは、街にある洋服屋を見ていた
鈴音の母と似たようなスキル持ちの人が、洋服屋をしていたのだ
どれも魔力で作っているため、防護性も高く、なによりここは、女性用の服が多かった
「英美里ちゃんこれ似合うんじゃない?」
英美里を着せ替え人形のようにするひな
それを広樹はため息をつきながら見ている
「女の子はよくこんなものでそこまで騒げますね」
「広樹にはこの楽しさは分かんないよ!」
英美里は、ため息を吐く広樹を一蹴し、服を選び始める
気になるものを見つけ、それを手に取り眺める
「龍夜さんは、こんな服どう思うかなー?って思ってるでしょ!」
「ひ、ひなしゃん!?そ、そ、そんなこと思ってません!!!」
英美里は心の声をひなに当てられて動揺しているのか、上手く言葉が出ていなかった
「応援してるからね!英美里ちゃん!」
「だ、だから、そんなんじゃないですってぇー!!!」
女同士の戦いが始まったことを龍夜は知らない
一方その頃、大人組は食堂でティータイムをしていた
「いやぁー、この世界になってから戦闘続きで、そろそろ腰に限界が来そうです」
「蓮見さんもですか...実は私もなんです...」
「あらあら、2人ともまだ若いじゃ無いですか」
「鈴音さんの治癒で痛みは和らぐんですが、腰痛自体はどうも治らないみたいで」
腰をさすりながら蓮見は言う
鈴音の治癒では、持病は治らないみたいで、戦い続きの今、だいぶ苦労しているみたいだ
どうにかならないものかと、2人が項垂れていた所に、あかりが話しかけてきた
「お兄さん方!ウチには元整体師のギルドメンバーも何人かいますぜぇ!」
「「な、なんと!?」」
「今なら、お安くしとくでぇ〜、どないしまっか?」
「「よ、よろしくお願いします」」
「はいよぉ!!おふたり様ご案内〜〜!!」
「あらあらぁ」
あかりの商売テクニックにまんまと乗せられ、2人はそのまま腰痛を治す旅に出かけた
それを鈴音母は微笑んで見送る
みんなが解散した後、龍夜は自室に戻っていた
「(ここで、俺のスキルのあの声の子のことも分かるといいんだが)」
あの女の子が誰なのか、果たして、門を破壊することでなにかヒントは得られるのか
それを龍夜はずっと考えていた
「お兄ちゃん?」
部屋のドアが開く音が聞こえ、顔を上げると、智咲が部屋に戻ってきた
「智咲はみんなとどっか行かなくてもいいのか?」
「私はお兄ちゃんといる方が1番楽しいから」
龍夜は智咲のその言葉に泣きそうになるのを堪える
なんて良い妹なんだ
智咲のお兄ちゃんになれて、俺は幸せ者だ!
「お兄ちゃん、ごめんね。」
龍夜がそんなことを考えていると、智咲が急に謝りだす
「ん?なんで謝るんだ?」
「《赤の象》との戦い、私何も出来なかった。
攫われて、みんなに助けて貰って、みんなを怪我させて...
みんなを守るって決めて、このスキルにしたのに、守られてたのは私だった」
そう言って、下を向いて泣き始める智咲
龍夜が寝ていた時に雅たちに話していたが、まだ自分の中に思うところがあるらしい
泣きながら話す智咲の言葉を、一言一句取りこぼさないように聞く龍夜
「それにね、柿澤にお兄ちゃんが殺されそうになった時、私、必死にスキルを使ったの、
でも、柿澤の攻撃で何回もバリアが壊されて...
バリアが壊れる度に、自分の心まで壊されている気分だった。
ダメだよね、こんなんじゃ私は誰も守れない」
止まらない涙を繰り返し手で拭う智咲を龍夜は優しく抱きしめる
「俺も、柿澤に歯が立たなかった
智咲を取り返すって意気込んでたのに、結局は訳の分からないスキルが発動して倒せただけだ
あれが無ければ、俺は殺されてた
俺自身、全く強くなんてなかったんだ
一緒に強くなっていこう。次からは、みんなをしっかり守れるように。」
「うん...!!」
智咲はそう返事だけをして、龍夜の腕の中で声を上げて泣く
それにつられて、龍夜も静かに涙を流していた
2人はそのまま泣き疲れて寝てしまった
時刻は19時
時計を見る雅は、本部のレストランへと足を運んだ
「おーい!雅!こっちや、こっち!!」
相変わらずの荒々しい声で、レストラン中に響くように呼ぶ男、大皇寺大我
雅は、この男に呼ばれ、レストランへ来ていた
「来てくれてうれしいわぁ!ほれ、なんか頼みや!」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
雅はさっと食べるものを決め、店員に注文をする
そして、すぐに大我の目を見て話を切り出す
「で、なんの用かしら」
「ご飯食べてからでもえーやん!俺腹減ってんねん!」
そういう大我を、早く話せと言わんばかりに無言で見つめる雅
「わーかったよ、話す話す」
雅の圧に耐えかねて、大我が話を始める
「親父が死んだ。モンスターに殺されてもーた」
「!?」
机を叩き、雅が立ち上がる
なかなか動じない、あの雅が動揺しているのだ
大皇寺財閥の社長が死んだということは、それほどのことだった
大我は続けて話す
「財閥は形だけ俺が継いだ、けどこんな世の中や、金がいくらあっても足りへん
そこで俺は考えたんや
っと、その前にお前の父ちゃんは今どこで何してるん?」
大我は自分の考えを話す前に、雅のお父さんのことを聞いてきた
ここで父のことを聞いてくるということは、何かしら事業に関することなのだろうと、雅は考え
今の両親の状況について、素直に話した
「そーかー、お前の父ちゃん居てくれたら、まだ楽やったんやけどなぁ」
そう言い、大我は自分が計画していることを雅に話す
その計画とは、《異界ポイント制度》というものだった
今は大多数の会社もお店もモンスターに滅茶苦茶にされていて、正直、世界中でお金を稼ぐことも使うこともなくなってきている
そこで、モンスターの討伐や、復興の手伝い、《なにわ連合》のような飲食店での働きなど、様々な行動に対し、《異界ポイント》を与える
そして、その《異界ポイント》を使って、武器の購入や、食料の交換などが出来るというようにしたいとの事だった
「貴方にしてはいい案ね
それで、私のお父様とどう関係があるのかしら」
「自分で言いたかないが、俺は実績がほとんど無い。だけど、お前の父ちゃんの後ろ盾があれば、コネを使えるだけ使って、世界中にこの制度を設けられるっちゅーことや」
昔からの知り合いだが、大我のこのような真剣な顔つきは初めて見た雅
しかし、一つ疑問に思った雅は、大我に聞く
「一つだけ聞かせて。その制度を設けて、貴方になんのメリットがあるというの?」
「それがあかりの夢に繋がるからや
あかりは、あの優しい性格とその強さでここまでギルドを大きくした
もちろん俺らの力もあっての事やけど、それでもあかりの存在っちゅーのが大きかったんや
だけど、一つのギルドでこの生活をするには無理がありすぎる
だから、世界中にこの制度を設けさせ、避難民にも守られるだけやなくて、やれることはやって貰って、こっちの負担を減らしつつ、且つ、生活を安定させていく方針にしたいんや」
このままじゃ、あかりが潰れちまう、と大我は悲しそうな顔で言う
この男なりに、あかりを思っての考えだと雅は理解し、大我に話す
「分かったわ。お父様に連絡が着いたらすぐにそな話をして行動してもらうように頼むわ」
「ほんまか!?
そんときは俺にすぐ連絡してくれ!
ほい!これ俺のケー番!」
雅は電話番号を差し出され、少し嫌な顔をしたが黙って登録をした
それに大我は気づき、ニヤリと口角を上げる
「それにしても、雅はあんな男が好みなんやな〜」
「はぁ!?」
「龍夜っちゅーやつ?お前らんとこのリーダー
好きなんやろ?」
大我の突飛押しもない一言に顔をみるみる赤くする雅
それを見て大我は腹を抱えて笑っている
「やっぱり!!!まっさか、お堅い雅さんも年頃の女の子やったんやなぁ!」
「だまれっ!!!」
小学生のように弄ってくる大我に、思い切りグラスを投げる雅
ここがレストランだと言うことを忘れるくらい慌てているところを見ると
大我の言っていることは本当なのだろう
「私は...そんなんじゃない...」
「え?」
顔を赤らめながら、目には涙を浮かべ、下を向く雅
雅の意外すぎる行動に動揺してしまう大我
大我の言っていることは正解だった
しかし、大我は知らなかった
雅の親友である鈴音も、龍夜のことが好きだと言うことを
雅が鈴音のために自分の気持ちを押し殺し、支え続けていたことを
そして、この世界になって、どんどん成長していく龍夜を見て、気持ちが押され切れなくなってきている雅のことを
雅は走ってレストランを出た
涙を拭いながら
「(よりにも寄って、あいつの目の前で泣いてしまうなんて、我ながらマヌケだ)」
まだ止まらない涙を必死に拭いながら本部から出る
雅はそのまま、宿泊所へ戻り、すぐに部屋に戻り就寝した
それぞれの一日を過ごし、夜が明ける
今日は試験日和と言わんばかりの、眩しすぎるほどの太陽が照っている
時刻は朝8時
朝食を済ませた龍夜たちは、ギルド本部前にいた
「おーし!みんな揃ってるね!
それじゃあ、試験を始めます!!!」
掃討作戦に参加するための試験が、今始まる
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