Episode 17 掃討作戦

「みんなに、聞いて欲しいことがあるんだ」


 大阪に来て、2日目の朝

 龍夜は、あかりから提供された宿泊施設の食堂にみんなを集め、話を切り出す

 みんなは静かに龍夜を見つめる

 龍夜が深呼吸をし、話始めようとしたその時


「掃討作戦に参加しないか?でしょ?」


「な!?」


 龍夜が話始める前に、龍夜の考えていたことを言ったのは、鈴音だった


「鈴音、なんで」


「龍夜くん、昨日その話を聞いてからずっと考え込んでたもん、分かるよ」


 それに、みんな分かってたんじゃないかな?と、みんなの顔を見ながら言う鈴音

 龍夜がそんなわけが無いとみんなに確認すると、ほぼ全員が何となくわかっていたらしい


「まじかよ...」


「お前は顔に出やすいもんな」


「そうね、分かり易すぎ」


 聡と雅が笑いながら言う

 俺そんなに分かりやすいか?と智咲に確認する龍夜

 そんな龍夜に智咲はただ微笑みながら頷くだけだった


「こほん...話を戻すが、みんなが察していた通り、この大阪の掃討作戦に参加したいと思ってるんだ」


「私は良いと思うけど、参加したい理由も教えてくれるのよね?」


 顔を少し赤らめ、恥ずかしさを抑えるように言う龍夜に雅が聞く

 これは、危険を伴う作戦に自分から首を突っ込むという事だ

 参加してもいいが、明確な理由は何だ、と雅は聞いていた


「理由は3つある」


 そう言い、龍夜は話始める


 1つ目は、あかりへの恩返しだ

 龍夜はあかりが助けてくれなければ、魔力欠乏症で死んでいたかもしれない

 あかりは、大阪中の猛者を集めているが、戦力は多いに越したことはないと言っていた

 命を救ってもらったあかりへの恩返しをしたいという事だ


 2つ目は、自分たちの安全のため

 今や、世界中にモンスターが溢れているが、大阪の設備はかなり整っていて、食事も休む場所もとても充実している

 他に安全そうな東京に行くにしても、車での移動でもかなり距離があるし、危険は多い

 それに、ここなら比較的安全にレベル上げも出来るし、非戦闘員の人たちも身を守ってもらえる

 だから、ここにギルドを作り、身を置くこともいいのではないか、ということ


 そして、3つ目は


「声を聞いたんだ」


 龍夜はみんなに話す


 スキルを得た日に聞いた声、そして、柿澤との戦闘の時に助けてくれた声

 そして、その子が助けてと言っていたこと


「あの声...あの子は多分俺のスキルなんだと思う」


 龍夜は声の主は自身のスキルなのではないかと考えていた

 だから、その子を助ける方法が分からないが、未だ誰も達成していない、門を破壊するという事が何かしらのアクションを起こすのではないか、と

 これが3つ目である


 まとめると

 あかりへの恩返し

 自分たちの安全

 自分のスキルであろう、その子を助けるための方法かもしれない


 その3つの理由から、龍夜は掃討作戦に参加したいとの事だった

 龍夜の話を聞き、みんなは静かに考えていた

 最初に声を上げたのは、雅だった


「賛成ね。

 龍夜のスキルもだけど、この世界になってから分からないことが多すぎる

 それこそ、門を破壊したら何か起こる可能性は高いと思うわ」


 それに続いて、ひなと鈴音と英美里と広樹も賛成と声を上げる

 その流れを鈴音両親が止める


「私たちは反対です

 聞いたところ、今回の掃討作戦で戦うモンスターはゴブリンや私たちが今まで戦ってきたモンスターたちより、遥かに強いと聞く

 それに、なにより君たちはまだ子供だ

 私たち大人が戦うことには賛成だが、君たちは守られる側なんだ

 ここは安全なのだから、わざわざ戦いに行かなくてもいいんじゃないか?」


 鈴音父が言ったことは、最もだった

 龍夜たちからしたら、この世界になってすぐからずっとモンスターと戦ってきたのだから、今はそれが普通になっていた

 しかし、鈴音父たち大人には、子供は守らなければいけない存在

 自分の子供も含め、その友達の龍夜たちまで戦場に行って危険を冒すこと自体が嫌なのだろう


「それは...そうですけど...」


 龍夜と鈴音、それに他の学生組は、顔を俯かせている

 鈴音父の思いも理解しているからだ

 その場は重い空気になる、が、それを断ち切るように聡が手を上げる


「俺は賛成だ」


「聡くん!!君は昨日反対と言っていたじゃないか!」


「すまんな、鈴音の父さん

 こいつらの顔を見てたら、気が変わっちまった


 こいつらは、もうガキじゃねぇ

 俺らと同じ、死線をくぐり抜けて、自分の意思で戦ってきた立派な奴らだ

 それに、ここに来る前の戦いで、俺も、こいつら自身も今のままじゃダメだと実感しちまった

 今以上に強くならないとこの先、生き残れないって感じてるんだ」


 人間との実戦を経験した奴らはそれをもっと感じてるはず、と付け加え、聡は言う


「あ、だから名前...」


 英美里がハッとした声で呟いた


 そう、聡は俺たちのことを最初はガキ、クソガキとしか呼んでいなかったが、柿澤たちとの戦いの途中からずっと名前で呼んでいる

 これは、龍夜たちを認めていて、信頼しているという聡なりの礼儀だった


「嬉しいなぁ、聡さーーん!」


「おい!!クソガキ!!抱きつくな!」


 ひなと英美里が聡に抱きつく

 恥ずかしかったのか、頬を赤らめて、それを引き剥がす聡


「ですが...」


「お父さん!!!私は龍夜くんに賛成だよ!」


 未だ納得出来ていない鈴音父に、鈴音が立ち上がり言う


「龍夜くんたちが居なかったら、私だけじゃ、お父さんたちを助けれなかった

 それに、私も、お父さんだって、龍夜くんの提案でスキルを手に入れれたでしょ?

 戦う力を貰ったのだって、龍夜くん達のおかげなんだよ...

 それに私は、龍夜をそばで支えたい!!!」


「あら、それは告白かしら?」


 鈴音の最後の言葉に、雅がツッコミを入れる

 自分の言ったことの意味に気づき、鈴音は顔を真っ赤にして手で隠して座った

 言葉の意味に気づいていない龍夜は、鈴音に「ありがとな」と素直な気持ちを言っていた


「あらあら、鈴音ったら色んな意味で成長していたのね」


「くっ...私は許さんぞ...」


 鈴音の気持ちに、鈴音の両親はそれぞれ反応をしているが、鈴音父はまた別の悩みが増えたみたいだ


「はぁ、分かった。私達もその案に乗ろう」


 一呼吸置いて、鈴音父が掃討作戦への参加を賛成してくれた

 これであとは、あかりに参加したいと言うことを話すだけだ


「おっはよー皆の衆!!元気に眠れたかーい!」


「やっと来たわね」


 丁度いいタイミングであかりが食堂へと入ってきたが、「雅はあかりが来ることが分かってたのか?」といつの間にかあかりを呼び捨てで呼ぶことに決めた龍夜が聞く


「何言ってるのよ、私たちが話してる間、食堂の入口をソワソワしながら見てたのよあの人」


「やっと来たわね」とは、「やっと入ってきたわね」という意味だったらしい

 話に集中していたので、気づいていたのは雅だけだったらしい


「いやー、雅たんにはバレてもーてたか!

 すまん!話は聞かせてもらたで!」


 雅たん呼びにツッコミを入れたかったが、すぐさまあかりが話し出した


「掃討作戦への参加、もちろんOKや

 こっちから頼もうかと思ってたくらいやし

 でも、君らがうちの条件をクリア出来たらやな!

 さすがに全然戦えない人たちを戦場に送り出す訳には行かんし」


 やはり、ある程度の実力が無いと掃討作戦には参加出来ないらしい

 これはあかりなりの思いやりだろう

 戦いたくない人に無理やり戦わせたり、実戦経験も乏しい人を戦場に連れて行っても無駄に犠牲を増やすだけだと


「条件って?」


 雅があかりに聞く

 あかりはしばらく悩んだ後に、閃いたという顔をしてニヤニヤしている

 これは多分、良からぬことを考えている顔だ


「試験しよか!!

 スキルありの戦い!!うちの幹部と!」


 龍夜たちは幹部と聞いて少し驚いたが、その試験を突破できなければ、掃討作戦には参加出来ない

 すぐに、分かったと言い、真剣な顔つきになる


「あのーー、私は回復系なんですが...」


 鈴音が弱々しそうに手を上げる

 鈴音の治癒は戦闘というより、補助や救援向きだ

 戦闘試験では評価のしようがないだろう


「じゃあ、鈴音っちはー、」


 鈴音は鈴音っちと呼ばれているのか、と呑気に考える龍夜とは真逆で、緊張している鈴音


「じゃ、澪に着いて行って、実践しよか!

 ちょうど今からモンスター駆除に行くし!

 ナベー!!!!!」


 あかりがナベと呼ぶと、昨日会った若い執事の男が食堂に入ってきた

 名前は、【渡邉冬弥(わたなべとうや)】というらしい


 ――――――――――――――――――――

【渡邉冬弥(わたなべとうや)】

(年齢)20歳

(好きな食べ物)辛いもの全般

(特技)あかりの身の回りの世話

 暗い藍色の髪で、瞳の色も同じ

 昔からあかりの家に仕えていた執事

 あかりとは小さい頃から一緒にいて、主従関係にあるが、それ以上の仲である

 あかりを第一に考え常に行動している


 スキル

 《黒銃(ネロピストーラ)》

 闇の属性を纏った球を打つ銃を使う

 弾丸に触れると、触れた箇所から徐々に石になり崩壊していく

 ――――――――――――――――――――


「お呼びですか、頭取」


「ホンマその呼び方やめーやナベ

 この子澪んとこ案内してあげて!今からデスマウス討伐やろ?

 一緒に連れてったって!」


「承知しました。では行きましょう」


「は、はい!!」


 鈴音は、頑張ってくるねとだけみんなに伝え、渡邉に着いて行った


「ほい!じゃあ、試験の参考にしたいから、他のみんなのスキルも教えてや!」


 龍夜たちはあかりに自分たちのスキルの説明をした

 柿澤の時は警戒していたが、あかりの人柄なのか、なんの躊躇も無く話せた


「なるほどねぇ、じゃあ、鈴音ちゃんも3日くらい帰ってこーへんし、2日に分けて試験しよか!」


 そう言ったあかりは試験の概要を説明した


 1日目に、非戦闘員である鈴音両親、蓮見、広樹のスキルを観察する

 能力に合った部隊があれば、掃討作戦に参加してもらう

 そして、その後は聡の試験をする


 2日目に、英美里、ひな、雅、龍夜の順で試験を行う

 戦闘向きの者たちの試験は、幹部自ら相手をするということだった


 そして、智咲の試験は


「バリアなんて聞いた事あらへん

 こっち来る前に戦ったっちゅう柿澤って奴も、レアスキルって言ってたんやろ?

 私もそう思うわ、多分東京のギルドにもおらへんで」


 そう言ってあかりはスマホを取り出す

 そして、《ギルドナビ》というアプリを開く

 そこには、登録されているギルドや、所属している人達のスキルの情報などが細かく書かれていた


「こんなもんあったんだな」


「全然知りませんでした」


 聡と英美里が不思議そうにあかりのスマホを覗く


「え!?知らへんかったの!?

 絶対入れとった方がええで!

 個人情報やけど、ギルド同士なら、これが証明になるし!」


 そう言うあかりに促され、全員がスマホに《ギルドナビ》を入れる

 ギルドを作るつもりではいたが、ギルド名を考えておらず、みんなで悩むが、鈴音が帰ってきてから話そうということになった


「よし、じゃあこれで大まかな説明は以上や!

 試験は明日から!全員心の準備しときや!」


 あかりの言葉に、みんなそれぞれの覚悟を決める

 試験を乗り越えなきゃ、掃討作戦には参加出来ない

 頑張るしかないぞ


「みんな、明日からがんば」


 ドガーーーーン


 龍夜がみんなに明日から頑張ろうと言おうとしたところで、外から大きな爆発音が聞こえた


「な、なんだ!?」


「あちゃあ、あいつ帰ってきてもーたか...」


 どうやら、あかりの知り合いらしい

 しかし、あの爆発音は...


「あかりぃ!!!作戦に参加したいって奴らがいるらしいな!!!」


 荒々しい声で食堂に入ってきたのは

 長く赤い髪を後ろに括った、タトゥーまみれの男だった

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