第二章 大阪編

Episode 16 大阪の女子高生

 

 龍夜たちは、《赤の象》との死闘の後、拠点を移動するために、大阪に向かっていた

 途中で上村の攻撃に合うが、スキルを発動しただいずがそれを撃退し、無事に大阪に入るインターチェンジを抜けようとしていた


「そこの車ぁ!!!ちょい待てやーー!!!」


 インターチェンジを抜ける前に、大きな声が聞こえる

 それに驚き、車を止める

 目の前を見ると、インターチェンジの前に肩まで伸びた紫色の髪をサイドに編み込んでいる高校生らしき女の子が立っていた


「そこの車!ちょい待ちぃ!外から大阪入るんやったら、身元確認せなあかんねん!」


 そういう彼女に対して、聡が車から降りて話をする


「見張りか?悪いな、俺たちは大阪に拠点を移すために来たんだ、俺は聡。神父をやっている」


「はぁ〜?その格好で神父さんやってるやなんて、誰も信じてくれへんぞ?」


「なにっ!?」


 彼女は、聡が自己紹介をし、自らを神父と名乗ったことに真剣に突っ込んだ

 やはり、誰から見ても聡は神父には見えないらしい

 車の中から、ひなと英美里が大笑いしている声が聞こえる


「あら、ホンマに神父さんやったんかいな、それはすまんかったな」


 ひなたちの反応に聡が本当に神父をしているのだということに気づく彼女

 続けて話す


「全員降りて、名前と職業言ってもらうでー!じゃなきゃ、ここは通されへん」


 そういう彼女の言葉に素直に従う

 まだ起きない龍夜を除き、全員が車から降り、自己紹介を始める

 最後の智咲が自己紹介をし終えた時に、龍夜のことを伝える


「ちょっと見てもええか?」


 彼女はその提案を承諾し、荷台に案内する

 龍夜の顔をじーっと眺める彼女

 すると、荷台から降りた後、すぐに聡たちに指示を出す


「魔力欠乏症や。急がんと死ぬでこの人」


 彼女が言った魔力欠乏症とは

 この、モンスターが溢れる世界になってから言われるようになった病気らしい

 スキル持ちには、《魔力(マジコ)》と言われている、ゲームで言うならばMPのようなものが少なからずあるらしい

 それは、レベルが上がるにつれて増えていくが、《魔力》の限界を超えても尚、スキルを酷使すると、龍夜のような症状になり、目が覚めぬまま、急に呼吸が止まる。

 その病気のことを魔力欠乏症といっている


「そ、そんな...お兄ちゃん...」


「この状態になってどれくらいや?」


「10時間弱だ。その口ぶりだと、なにか助ける方法があるんだよな?」


「もちろん!私のいる《なにわ連合》に丁度、魔力回復専門のヒーラーがおる、そいつに頼めばすぐ目覚めると思うわ

 連絡はしておくから、急いでなにわ連合の本部まで行くで」


 そう言い、車に乗り込む彼女

 それに続いて、全員車に乗る


「お前も着いてくるのか?」


「うちがいないとアポ取れないやろ?しゃーなしやで」


 念の為、鈴音に龍夜の治癒をお願いして、急いで、ギルド《なにわ連合》の本部へと向かう

 本部はここから車で15分くらいの近場にあるらしい

 幸い、道に車は無く、すぐにたどり着いた

 《なにわ連合》の本部は10階建ての大きなビルだった


「おはようございます!!!」


「おーう、みんなおはよーさん!」


 入口にいる見張りから挨拶をされる彼女

 見張りをしていたのは明らかに大人だったが、高校生の見た目をした彼女に対して敬語で話すということは、もしかしたら彼女はなにわ連合でも偉い位置にいるのだろう、幹部かなにかか?と考える聡


 ビルの中に入ると視線が集まる

 龍夜を聡の念力で浮かせて連れてきたのでそのせいだろう

 エレベーターが降りてきて、そこから救護班のような人達が出てくる

 彼女が連絡を聞き、準備をしていたのだろう

 すぐに担架に龍夜を乗せ、再びエレベーターに乗る


「3階の救護室まで運んで

 それと、澪みおをすぐ呼んできて」


 救護班にそう伝える

 彼女が呼んでくるように頼んだ者は、魔力回復専門のヒーラーで【叶澪(かなえみお)】というらしい


「じゃ、後は澪に任せて、私たちはご飯でも食べようや

 案内するで〜!」


 そう言い、エレベーターに乗り込む彼女

 彼女について行き、みんなでエレベーターに乗り込む

 智咲は龍夜に付き添うと言って、3階で降りた

 よっぽど心配みたいだ

 そのままエレベーターは9階まで上がり、レストランのような場所に着いた


「ここはなにわ連合御用達のレストラン!

 一流の料理人たちが毎日美味しいご飯を作ってくれるんや!

 なんでも好きなもの頼みぃ!」


 そういって、メニューを一人一人に渡していく

 味はまだ分からないが、料理の品数がかなり多い

 目算で100は超えていた

 すごい数の料理のメニューにみんなは悩みながらも、次々と食べたいものを決めていく


「久々にまともな料理だぁー!!」


「おい!俺のカレー食べただろ!!」


 久しぶりにまともな料理を食べれると嬉しそうにいうひなに、聡がツッコミを入れる

 注文をして、少しすると料理が目の前並んだ

 調理のスピードも早いらしい


「うわぁぁぁぁぁ!!」


「これ、凄すぎません!?」


「めっちゃいい匂いぃ!!」


「熱いうちに食べやぁ!絶品やでぇ〜!」


 英美里、広樹、ひなの順で感想を述べていると、遠慮なく食べろと促される

 それを聞き、がっついて食べ出すひなたち

 雅はその3人を見て微笑んでいた


「それにしても、龍夜の治療といい、食事といい、なにからなにまでお世話になってしまって、申し訳ないわね」


「ええってええって!困った時はお互い様!

 こんな世の中になってもーたんや、手を取り合って生きてかないと!」


 雅の謝罪に笑顔で返す彼女


「ところで、あなたは一体何者なの?」


 食事の手を止め、雅が彼女に問いかける


 すると、そのタイミングで、レストランに執事のような格好をした若い男の人が入ってきた


「頭取、救護室に運んでいた者が目を覚ましました」


「あぁ!よかったわ!じゃ、ここに案内して!」


 頭取と話しかけられたのは、先程から雅たちと行動を共にしていた彼女だった

 その会話を聞いて、聡がご飯を吹き出す。

 ご飯にがっついていたひなたちも目を丸くする


「な、なにわ連合の頭取ってことは、橘あかりか!?」


「そやで!私があかりちゃんやで!」


 驚いて聞く聡に向かって、可愛らしくピースをする彼女は、大阪の巨大ギルド《なにわ連合》の頭取、橘あかりだったのだ


 ――――――――――――――――――――

【橘あかり(たちばなあかり)】

(年齢)18歳

(好きな食べ物)もんじゃ焼き

(特技)弓道

 ギルド《なにわ連合》の頭取

 人懐っこく明るい性格で、周りからも懐かれやすい

 だが、その性格からか、恋愛は友達止まりで、彼氏が出来たことがないということが密かな悩み

 運動神経も良く、モンスターとの戦闘では、誰よりも早く駆けつけ、誰よりも討伐する


 スキル

 《弓神(ディアルコ)》

 自らの手に弓を生み出すことが出来る

 矢に、炎、氷、水、雷、光の5属性を付与することが出来る

 《神眼(オッジオディオ)》

 相手の筋肉の動きを捉え、動きを予測できる

 2km離れた場所までなら視界に捉えることが出来る

 ――――――――――――――――――――


「僕と蓮見さんは知ってましたよ、ニュースでたまに見かけてましたし」


「なんで早く言わねぇんだ広樹!!」


 みんな気づいているかと思ってと言う広樹に聡は頭を抱えながら、あかりに話す


「だったら、なんで頭取のお前が検問なんかしてたんだ?」


「頭取だからや、改修はしたけど、あそこはまだ危険なのは変わらない

 だから、頭取の私があそこに居なきゃみんな安心できんやろ?」


 あかりの言ったことに、驚きの顔をする聡

 高校生なのに立派にみんなを引っ張っていっているという事に関心すら持つ


 あかりは、上にふんぞり返り、部下を動かすようなリーダーではなく、

 自らが戦地に赴き、仲間や避難民のために体を張って戦うリーダーなのだ

 そんなあかりだからこそ、仲間も避難民たちも、あかりを信じてついてきていて、なにわ連合は大阪一と言われるまで大きくなっていたのである


「頭取、連れてきました」


 執事があかりにそう言うと、執事の後ろには、龍夜と智咲がいた


「龍夜ー!!!」


「龍夜さん!!」


「やっとお目覚めか、龍夜」


 龍夜の顔を見て飛びつくひなと英美里、それを見ながら、龍夜に笑いかける聡

 みんなが龍夜の目覚めを喜んでいる


「迷惑かけてすまない、それと、頭取。助けてくれてありがとう」


「ええってことよー!それにあかりちゃんでええで!たぶん歳近いやろ!」


 そう言いながらご飯を食べているあかりは、龍夜と智咲に、「あんたらも食べや!」とメニューを渡す


「悪いな...ついでと言ってはなんだが」


 龍夜はあかりに、大阪にギルドを作りたいのだが、いい場所は無いかと聞く

 すると、あかりはしばらく考え込んで話し出す


「うーーん、大阪にギルド作るんなら、辞めといた方がええで」


 あかりは、ご飯を食べる手を止め、龍夜たちに説明をする


 近々、なにわ連合とその傘下の中小ギルドで、モンスターの掃討、そして、門の破壊をするという大規模作戦が行われるらしい

 大阪の中心部を囲むように門は全部で3つ、それを一気に叩くという作戦だ

 門にはそれぞれ、ライオン型、山羊型、蛇型のモンスターがいるらしい

 あかりはそれを、レオーネ、カプラ、サーペントと呼んでいた


 その戦いに巻き込まれてしまうから、大阪には身を置かない方がいいとあかりは言う


「門は、未だに破壊されたことは無いのでしょう?破壊できる見込みはあるということ?」


 雅があかりに聞く

 あかりは、立ち上がり、もちろん!と胸を張り堂々と言う


「大阪中の猛者たちを集めてる。負けることはありえないと思ってるで!」


 自信満々に答えるあかりを見ながら、龍夜は考え込んでいた


「お兄ちゃん?」


「あぁ、すまん。ちょっと考え事をしてた」


 と、智咲に返すと、頼んでいた料理が運ばれてきた

 ご飯を食べながらも、考え込んでいるであろう龍夜を智咲は静かに見つめていた


 ご飯を食べ終えると、あかりが宿泊場所へと案内してくれた

 戦闘と移動の疲れから、みんなはすぐに部屋に行き、そのまま寝てしまったみたいだ

 有難いことに、全員個室を用意してもらったが、智咲は龍夜の部屋で寝ると聞かなかった


 宿泊場所にも、本部のレストランとまではいかないが、小さな食堂があり、龍夜はそこで休憩をする

 すると、部屋にいたはずの智咲がやってきて、龍夜の隣に座った


「何を考え込んでるの?お兄ちゃん」


 私にくらい教えてと言う智咲

 龍夜はしばらく悩み


「あのな?」


 考え込んでいたことを智咲に話し出す

 智咲は、静かに頷きながら聞き、


「お兄ちゃんがそう思ってるなら、私はいいと思うよ」


 と、静かに微笑んでくれた


 その後は部屋に戻り、すぐに布団の中に入り、一瞬で意識を手放した

 次の日の朝、みんなに食堂に集まって貰い、龍夜が話し始める


「みんなに、聞いて欲しいことがあるんだ」



 NEXT

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る