Episode 14 衝突

 信之は最期に英美里に、「ごめんな」と言って息を引き取った

 英美里から見た信之は、自分に対してではなく、他の誰かに向けての謝罪だったのだろうと感じ取っていた

 敵だったが、自分たちのギルドのやっていることに気づき、助けてくれた信之を助けられなかったことに嘆く英美里

 鈴音は涙を流す英美里を抱きしめ、「英美里ちゃんは悪くないよ」と言葉をかける


「そろそろ、行きましょうか」


 蓮見が2人に声をかける

 壁の向こうでまだ戦っている聡が心配だ

 惜しむようにその場から立ち上がる英美里

 その目は新たに覚悟を決めた目だった


「さて、この壁をどうするかですが...」


 蓮見が悩んでいると、英美里は再び槍を出し、凍槍に変化させる

 そして、壁を凍らせ、槍で砕いて向こう側への道を作る


「行きましょう」


 信之の遺体を背に、3人は聡の元へと駆ける



「聡さん!!!」


 凪と戦闘中の聡に鈴音たちの声が聞こえる

 英美里のボロボロさを見て、敵との戦いを終えてここに来たのだと瞬時に理解する


「ジジイ!!俺にスキル使ってくれ!!

 それと、麻痺受けちまったから鈴音も頼む!!」


「まったく、オジサンの体に鞭を打つなんて...なんて人使いの荒い子だ」


 そう言いつつも、しっかりとスキルで聡にバフをかける蓮見と、分かりましたとだけ言い治癒を行う鈴音

 助かるとだけ言い、再び凪に蹴りを入れる聡だが、それも防がれてしまう


「くそっ!切りねぇな」


 鈴音のおかげで、麻痺が回復した聡は、《操祈乱歩》を解除する

 これでまだしばらくスキルは保つ

 聡は攻撃方法を変えることにした

 凪が干渉できない、車や、そこらへんに転がっている鉄くずや、ガラスの破片などを念力で動かす


 凪は、前後左右から飛んでくる物を防ぐために、筒状に地面を操り自らを囲む

 それが聡の狙いだった


 「上ががら空きだぜ?」


 そのまま凪の頭に鉄パイプを叩き込む

 不意の攻撃に、凪から声が漏れ、そのまま気絶する


 「がっ」


 「ん?」


 凪から発せられた声を聞いて聡は気づいた

 倒れている凪のお面が取れていて、顔を確認すると聡の疑惑が確信に変わる


 「お前、女だったのかよ!!!」


 聡が見たのは、フードを被ってて分からなかったが、肩まで伸びた綺麗な水色の髪をした20歳くらいの女性だった


 聡は、女であると分かった凪にトドメは差さなかった

 聡曰く、「女には手は出せねぇ」と言っていたが、気づいていない時はしっかり手を出していたのに、と英美里と鈴音に冷たい目で見られている


 凪に治癒をしてやってくれという聡に、鈴音は驚きつつもすぐに取り掛かる

 鈴音が治癒を施している間に、広樹に報告をした


 「[こちら聡、英美里たちと合計で4人の精鋭部隊を倒した。これで全部のはずだ

 龍夜たちの様子はどうだ?]」


 すぐに広樹から連絡が入る


 「[龍夜さんたちは、ギルドの前に待機しています。まだ柿澤が出てこないようで...]」


 「[わかった、じゃあ作戦通りに頼む]」


 と、見張りと精鋭部隊を倒したということをスピーカーで流すように頼んだ聡

 広樹も了解とだけ伝え、すぐに作業に取り掛かる


 「ん、んん」


 広樹に伝え終わったタイミングで凪が起きる

 凪は、敵である自分に治癒を施している鈴音たちを見て驚きながら聞く


 「なぜ、私を助けた?」


 「敵だろうがなんだろうが俺は女は殺さねぇ。助けたんだから、お前のギルドの情報を吐いてもらうぞ」


 「.....」


 凪は分かったとだけ答えて話し出した


 凪はこのギルドに入ったのはつい最近らしい

 このモンスターの溢れた世界で、妹と逃げながら、固まって避難していた集団の中で過ごしていたが、ゴブリンの群れに遭遇して妹とはぐれてしまったという

 妹は必ず生きていると信じて探し回っていたところで、柿澤に能力を買われ、妹の捜索を手伝うという契約でギルドに入ったらしい

 ギルドに入ってから、柿澤のスキルを何度か見ているが、凪が言うには、まだ何か隠しているはずだという

 上村についてのスキルは一切分からないとの事だった。使っているのを見たことがないという

 見張りと精鋭部隊は、聡たちが倒したもの達で全員らしい


 「これが私が知ってる情報全部だ」


 聡は凪に分かったとだけ伝え、凪からの情報を広樹に伝え、龍夜たちに伝えるように指示をする


 「じゃあ、俺達はそろそろお前のボスのところに行くが、お前はどうする?」


 「私はいい、お前たちがこのギルドを潰す以上、ここにもう用は無い」


 妹を探すためだけの契約だけの関係だったため、あっさり柿澤を切り捨てる凪

 鈴音のおかげで十分に回復したのか、立ち上がり、小さな声でお礼を残し、その場を立ち去っていった


 「龍夜くん達が心配です、それに雅も治癒してあげなきゃ!早く戻りましょ!」


 そう言ってすぐさま歩き出す鈴音の後ろをついて行き、聡たちは広樹たちの元へと戻る



――――――――――――――――――――


 その頃、龍夜たちは、ギルド《赤の象》の前に立っていた

 ギルドの扉に触れると、バチバチと電気が走り中へ入るのを拒まれる


 「出てこなきゃ、文字通り手も足も出ないな」


 「広樹くんたちが上手くやってくれるといいけど...」


 広樹達から聡たちの戦いの結果と報告を貰っていた龍夜達は、広樹達のスピーカーでのアナウンスを待っていた


 「<ガガガ あーあー、テステス

 おい!!!聞こえてるか柿澤!!!

 お前の部下たちは全員倒した!!大人しく智咲さんを返しやがれ!!!

 それとも怖くてギルドから出てこれねぇか!?>」


 声の主は広樹だった

 普段大人しいはずの広樹から聞いたことのない言葉が数々飛んでいる

 ひななんて、目が点になっている


 「(広樹、智咲に助けられた時から、智咲のこと気になってる素振りがあったもんなぁ)」


 「こ、これ本当に広樹くん!?ちょっと怖いんだけど!」


 「結構ムカついてたみたいだな...」


 広樹の怒りの声が周辺のスピーカーから物凄い声量で聞こえてくる

 龍夜たちも広樹の豹変ぶりに苦笑いしていると、

 ギルドのドアが開いた


 「うるせぇガキだな、てめぇの仲間か?

 言われなくても出てくるつもりだったが、これじゃあ、挑発に乗ってきたみたいだなぁ」


 多少のムカつきはあるのか、昼間のヘラヘラした表情は無く、真顔で話す柿澤が出てきた

 その横には上村が智咲を拘束している


 「智咲ぁ!!!」


 叫ぶひなに対し、龍夜は冷静に柿澤に話しかける


 「柿澤、お前の部下たちは全員倒した

 大人しく智咲を返せ。」


 「ははぁ!!どうだったぁ!?初めて人を殺した感想はよぉ!!!」


 柿澤の言った「人を殺した」という言葉に智咲の顔がどんどん青くなってきている

 自分のせいで龍夜たちが人を殺したという責任を感じてだ


 「お前らが殺しに来たから、殺した。それだけだ。

 俺たちの世界は変わった。仲間を、智咲を守るためなら...俺は敵を殺す」


 「良い目だ!!!こりゃ殴りがいがあるぜ!!

 上村!!!てめぇはその女見とけぇ!!」


 「はぁ、また俺に面倒事を押し付けるのか...」


 「てめぇの能力なら、バリア女守りつつ戦えるだろうが!!!」


【上村誠(かみむらまこと)】のスキルは未だに情報がない

 柿澤の口ぶりからすると、智咲を守りつつひなと戦えるというのだから強力なスキルなのだろう


 「ひな、頼めるか?」


 「任せて!智咲に当たらないように新技も考えてきたから!!出来るかわかんないけど!!」


 自信満々にいうひなは、早速その新技を披露する

 雷を自身に纏い、そのエネルギーで自分より大きな大剣を作る

 その名は


 「《神成剣(カミナリソード)》!!」


 「「「「技名ださっ」」」」


 その場にいた全員がひなのネーミングセンスの無さにツッコミを入れる


 だがしかし、それも束の間、ひなが大剣を一振りすると、その剣先から無数の雷の剣圧が飛ぶ

 それを上に飛んで避ける柿澤と上村

 龍夜もすかさず、戦闘態勢に入り、路地裏の壁を変化させ、逃げられないようにドーム状にする


 「そんな壁なんざ、俺の前じゃあ紙切れ当然だ!!」


 そう言って龍夜の方へ走ってくる柿澤を、球形に変化させた地面に閉じ込める

 柿澤の言っていることは正しく、いとも簡単に閉じ込めていた地面が破壊される

 次に、足場を沼にし、柿澤の下半身を固めるがそれもあっさり突破される

 《剛力》のスキルは本当に力に特化したものらしい

 龍夜の戦術が尽く突破されていく


 「おらおらおらぁ!!!そんなもんかよてめぇ!!!」


 勢いよく入ってきた柿澤は、龍夜の腹を思い切り殴る

 柿澤の元の筋力とスキルが合わさって、かなりの威力になっているその拳は、龍夜を飛ばし、ドームの壁をも突き抜ける


 「ぐはぁっ!!」


 蹲り、その場に血を吐く龍夜

 鈴音母のコートが無ければ腹を貫通するほどの威力だっただろう

 フラフラと立ち上がる龍夜に近づく柿澤


 「まだまだこれからだぜぇ?」




 柿澤に殴られ、ドームの外まで飛ばされる龍夜

 それを見て、ひなは、龍夜を心配するが、目の前の敵に集中することを選ぶ


 「(大丈夫、龍夜なら必ずなんとかしてあいつを倒してくれるはず...私は智咲を取り戻さないと!)」


 「はぁ、面倒だ。」


 「さっきから面倒面倒って、じゃあ、諦めて智咲返しなさいよ!!」


 「これも仕事なんだ...だから、しっかりやらなきゃいけない」


 そう言って、どこからとも無く背中からいきなり鎌を取り出す上村

 智咲からも見えていない角度から取り出したため、智咲も驚いた顔をしている

 ひなは、上村の能力が分からないので、構えて出方を見ている


 「そう構えるな。大丈夫だ、一瞬でお前は死ねる」


 上村がそういった途端、上村の鎌を持っていた手が黒い渦になっていた

 そして、ひなの背後から鎌が現れ、一瞬で首元に近づく、

 それをひなはギリギリのところでしゃがみ避ける

 仲間の中で1番運動神経が良いひなだったからこそ、避けることが出来たのだ

 他の者なら一瞬で殺されていた


 「ほう?今のを避けるか、なら、これはどうだ?」


 今度は休憩無しに、四方八方から鎌が出ては消えを繰り返し切りつけてくる

 さすがのひなも、完璧に避けることは出来ず、身体にどんどん切り傷が出来てくる


 「くっ!!」


 「ひなぁ!!!!」


 「おっと、バリアを発動したら殺しますよ」


 ひなにバリアを張ろうとしていたことが直ぐにバレ、智咲はただ見ることしか出来なかった


 「安心...して、智咲!!絶対、助けるから!!」


 そう言ったひなの大剣が、2本の扇子に変わる


 「神成剣・モード扇子(カミナリソード・モードフェン)!!」


 その扇子を思い切り振るひな

 すると強風が吹き荒れ、その風に雷の斬撃も乗る

 上村がその攻撃に対処しようとした瞬間

 智咲は自身にバリアを張る

 上村の手を離れた智咲は、バリアでひなの攻撃を防ぎながらひなの元へ向かう


 「行かせませんよ」


 上村は黒い渦を智咲の前に出現させ、智咲を再び連れ戻そうとする


 「させないわよ!!!」


 ひなは扇子を上に振り上げ、黒い渦を消し去った


 「ひなぁ!!ひなぁ!!」


 時間で言うと1日も経っていなかったが、久しぶりに感じるひなの胸に飛び込む智咲


 「無事でよかった、智咲。でも、もう少し待っててね」


 智咲がこちらにいる以上、もう手加減はしないと、再び大剣に変化させるひな

 だが、何故か上村はにこにこしながらひなたちを見つめていた


 「潮時ですね...また怒られる...はぁ、面倒臭い...」


 そう言った上村は、掛けていたメガネを砕き、項垂れている


 「さようなら」


 「ちょ、待ちなさい!!!」


 突然そう告げた上村を黒い渦が包み込み、そのまま消えてしまった

 ひなは止めようとしたが、一瞬で消えてしまったため、智咲と共に立ち尽くす


 「逃げ...た?のかな、柿澤を置いて?」


 「なんだったのよあいつ...もしかしてだけど、柿澤の仲間じゃなかったの?」


 「分かんない。それよりお兄ちゃんが心配!!」


 逃走した上村のことはあとから考えることにした智咲とひなは、柿澤と戦っている龍夜の元に向かう




 「おいおい、意外と歯ごたえ無いなてめぇ」


 「お兄ちゃん!!!!!!!」


 そこには、柿澤に左手と右足をぐにゃぐにゃに折られて、倒れている龍夜がいた。



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