Episode 13 それぞれの覚悟

 《奥義・天凛月華(てんりんげっか)》


 胴体を真っ二つに斬られ、ズルズルと崩れ落ちていく富永を背に



 凛と佇むのは...



 剣姫(プリデッラ・スパーダ) 伊集院雅


 富永を倒した雅は、その場に倒れる

 富永たちから受けていたダメージは思った以上に大きかった

 それに加えて、スキルを酷使したため、疲労により倒れたのだ


「雅さん!!!」


 広樹と鈴音の両親は、急いで雅に駆け寄る

 周りに敵が居ないことを確認し、ゆっくりと雅を持ち上げ、車の中へ運ぶ


「[雅さん、精鋭部隊2名撃破!!負傷と、スキルの使いすぎのため気絶しています!鈴音さん達まだですか!?]」


 鈴音に雅の治癒をして貰おうと念話で呼びかける


 [こちら鈴音です!ごめん広樹くん!こっちも精鋭部隊と戦闘中!!そっちに戻れない!!]


 焦っている声で返事が返ってきた

 こちらに向かっていたはずの鈴音たちも精鋭部隊と戦っていた



 ――――――――――――――――――――


「ごめん広樹くん!こっちも精鋭部隊と戦闘中!!そっちに戻れない!!」


 広樹たちの元へ向かっている途中、聡たちを行く手を阻むように、突然目の前に大きな壁が現れた

 更に壁が地面から出てきて聡は英美里、鈴音、蓮見と分断されてしまった


 「こんくらいの能力なら、相手は精鋭部隊だろうな」


 壁をコンコンと叩きながら、今から来るであろう敵のことを考える

 静かにタバコに火をつける聡の元に2人の男がやって来る


 「あー、この人教会にいた神父さんだよねぇ?ねぇ、そうだよねぇ?」


 「....」


 「ゆっくりタバコも吸わせちゃくれねぇか」


 聡の元に現れたのは、麻痺毒のスキル持ちの男と、教会の時にいた狐のお面にフードを被った男だ


 「ねぇねぇ、神父さん?殺さないでいてあげたのに、なんで来ちゃったの?殺されたいのー?」


 「教会の時よりえらい喋るなお前」


 「お前じゃない、僕は大和だ」


 麻痺毒の針を飛ばすスキルを持つ男【瀧大和(たきやまと)】は、いきなり針を飛ばしてきた

 聡は念力で瓦礫を動かし、盾にする

 しかし、聡を飲み込む様に地面から壁が現れる

 それを、念力で自分を動かし、咄嗟に避ける


 「おい!凪!!なに外してるんだよ!」


 そう言い、横にいる【遠山凪(とおやまなぎ)】の頭を叩く瀧

 それを見て不快に思いながらも、考える聡


 「(あの凪って奴のスキルは多分地面操作系だ。くそ、そんなもん龍夜を相手にしてるようなもんじゃねぇか)」


 再び飛んでくる針の攻撃を同じように壁の後ろに隠れてやり過ごす聡

 しばらくすると攻撃が止み、瀧がまた話し出した


 「ねぇ、神父さーん。時間稼ぎも面倒臭いからさぁ、もういいかな?」


 瀧がそういうと、聡が壁にして隠れていた瓦礫が、急にドーナツ型の円形に変わる

 聡はそれに反応出来ず、麻痺毒を帯びた針が聡に刺さる


 「ぐっ!!」


 「やーっと当たったー!!凪もやれば出来るじゃーん!」


 麻痺して倒れている聡の視界の奥では、瀧が凪にハイタッチをしようとしてそのまま頭を叩く光景が映っている


 「お前...絶対そいつから嫌われてるだろ...」


 動かない身体で少しでも反抗しようと嫌味ったらしく聡が言う

 短気なのか、瀧は聡の一言で苛立ちを見せ、物凄い形相で聡を睨む


 「神父のくせに口悪いね、もう殺しちゃおう」


 そう言って瀧は、倒れている聡の首を掴み、ナイフを取り出す


 麻痺で動けない

 けど、瀧は遠距離から聡を殺す術は持っていない

 油断して自ら近づいてくるのを聡は待っていた


 ナイフが聡に向かって振り下ろされようとした瞬間、聡は瀧の腕を掴む


 「お前!なんで動けて!?」


 「《操祈乱歩(そうきらんぽ)》

 一か八かの賭けだったが上手くいったな。やっぱり俺はギャンブル運がいいらしい」


 聡は念力で自分を操作していた

 これは、麻痺毒を受けてから考えついた、念力の操作を器用に行える聡だからこそできた技だ


 「くっ!!離せ!!!離せよぉ!!!」


 「悪いな、仲間が待ってんだ」


 そう言い、聡は瀧の首元に瀧自ら手に持っているナイフを刺す

 大量の血が飛び散る

 それを浴びながら、凪の方を向く聡


 「俺は神父だが、救いようのねぇ奴には祈らねぇ。

 さて、次はお前さんだ。」


 「.....」


 「何も喋らないならそれでいいが

(瓦礫は形を変えられたが、車の時は壁を作って攻撃してきた。

 おそらく、こいつのスキルは地面操作系じゃなく、多分土自体を操作する能力だ。


 それにしても、こいつからは俺を殺そうという意思が感じられねぇ、なぜだ?)」


 土を自在に操る凪に対し、念力で自身の体を動かしている聡にはタイムリミットがある

 ゆっくり戦っていたらスキルが使えなくなって、また麻痺毒で動けなくなる

 急いで決着をつけるために、聡は念力で凪の前まで飛んで蹴りを入れる

 凪は、その蹴りを壁を作りガードをする


 「これは...なかなかめんどくせぇ相手だわ。」



 ――――――――――――――――――――


 聡と分断された、英美里、鈴音、蓮見

 鈴音は壁を叩きながら聡を呼ぶ


 「聡さん!!聡さん!!」


 壁の奥からは返事は無い

 無事なことを祈るしかない


 「分断された彼ならもうすぐ死ぬよ〜、あっちにも僕らと同じく精鋭部隊が2人行ってるからね」


 鈴音の声に返事をしたのは、聡では無かった

 自分を精鋭部隊と名乗る金髪【原崎優吾(はらさきゆうご)】と、その後ろに、この戦いのきっかけを招いた高橋信之がいた


 「信之さん...」


 「英美里ちゃん!?なんでこんな所に!?」


 「あれれ〜?2人は知り合いなんだ?じゃあ、話は早いね!」


 アイツらを殺せ、という原崎の言葉に信之は顔を青くしていう


 「なんでっすか!原崎さん!!英美里ちゃんは今日知り合った友達っすよ!?


 英美里ちゃんと、その仲間の人たち!!ここはモンスターが出て危険だから早く逃げろ!!」


 状況が理解出来ていない信之。

 精鋭部隊の人数は5人のはずだったが、雅と聡のところに2人ずつ、目の前にも2人の計6人になっている

 口ぶり的にも信之は最近精鋭部隊に入ったってことかと、英美里は考えていた


 「ノブ〜?何を言っているんだ?

 モンスターは、あいつらさ」


 「原崎さん、さっきから冗談がすぎるっすよ!!

 英美里ちゃんたちはどう見ても人間でしょ!」


 「信之さん...そこをどいて下さい!!!!智咲さんを返して!!!」


 そう言って槍を構える英美里。その後ろに鈴音と蓮見がサポートの体勢を取っている


 それをみた信之は気づく、気づいてしまう

 智咲が本当に誘拐されていて、

 見張りから伝えられた敵襲とは、智咲を取り戻すためにきた、目の前にいる英美里達だということに


 「そんな...あいつが言ってたことマジだったのか...?」


 戸惑っている信之に、大笑いしながら指示を出す原崎


 「さあ、ノブ?アイツらは僕らを殺すつもりだよ?殺される前にこっちが殺さないとね?」


 そう言い、原崎は英美里たちの方に向かって走り出す

 それを見て、蓮見は英美里に祈りを捧げてバフをかける


 ガキンッ!!


 鉄と鉄がぶつかる音に英美里は驚く

 原崎も自分と同じ槍だったのだ


 「君は槍使いだね?だったら、僕も同じく槍で戦ってあげる〜」


 原崎優吾のスキルは《刃(ラーマ)》というスキル

 自分の右手を刃がある武器に変化することが出来る

 原崎の右手は槍に変化していた


 「君が槍使いで良かった〜!!僕は殺す相手の得意の武器で殺すって決めてるんだ〜!!

 なんでか分かるかい〜?」


 原崎の問いかけを無視する英美里に、原崎は続ける


 「得意な武器で負ける時の顔ってさ〜、最っ高に絶望した顔でたまらないんだよね〜!!!」


 英美里と原崎の戦いをぼーっと見ている信之

 信じていた恩人の柿澤は、人を誘拐する男で、目の前にいる原崎の口ぶりから、人も殺しているという事実を受け止められないでいる

 自分は今まで柿澤を信じて着いてきていたが、知らぬ間に殺しの手伝いもしていたという、自分のやってきたことへの恐怖が頭の中を駆け巡る


 「俺は...俺は...」


 蓮見のバフ、鈴音の治癒で力を増している英美里だが、中学生の女の子と成人近くの男性では力の差が出てきてしまう

 原崎の槍を捌くことしか出来ない

 英美里が苦戦をしていると


 「おぉぉぉぉおおー!!!!」


 信之が原崎にタックルをしたのだ

 突然の信之の行動に原崎は対処出来ず、硬化のスキルを使っていた信之の突撃が横っ腹に思い切り入る


 「おい、ノブてめぇ!!!なにしやがる!!」


 「原崎さん!!こんなのは間違ってるっす!!敵はこんな世界にしたモンスター!!俺たちが戦うのは人間じゃない!!」


 そういう信之の前に、原崎は立ち、物凄い勢いで信之を切り裂く


 「え....?」


 その光景に、英美里たちは絶句した

 腹を切り裂かれ、物凄い量の血が辺りに飛び散る


 「なにを...なにをしてるんですか!!!」


 英美里は、原崎に向かって槍を突き出すが、簡単に避けられてしまう


 「君!!!大丈夫!?今治癒するからね!!!」


 鈴音は信之に駆け寄り治癒を始める


 「傷が深い...英美里ちゃん!!ごめん!!そっちに手が回らない!!」


 「大丈夫です、鈴音さん。この人は私が絶対.....


 倒します!!!!!!」


 「倒す〜??無理無理〜!!申し訳ないけど、今まで戦ってきた相手で君が1番楽だよ〜!」


 余裕そうに笑う原崎を英美里は睨み、「これでもですか?」と、言う


 その瞬間、蓮見のバフとは違う、薄い水色の光が英美里の槍を包む

 槍には視認できるほどの冷気が帯びていて、先端には氷の結晶の形の刃が付いていた


 「ちっ!まだスキルを隠してたのか〜?」


 「えぇ、このスキルは今日手に入れたスキル。《氷結(コンジェレメント)》

 昼間に龍夜さん、智咲さん、そして信之さんと一緒に、たくさんのモンスターと戦ったおかげで手に入れたスキルです!!」


 「英美里...ちゃ...」


 涙を流しながら、信之の方を見て話す英美里に、信之も一緒に涙を流し、彼女を呼ぶ


 「すぐに終わらせるので、ゆっくり待っていてください」


 信之の声に答える英美里は、そのまま原崎に切りかかる、それを受け止める原崎


 「見た目が変わっただけで、逆にパワーは落ちてるじゃん!!こんなもんで僕...が...?」


 英美里の槍と接触していた部分が凍りだす

 自分の右手を武器にしていた原崎の体を氷がどんどん侵食していく


 「やめて!!寒い!!痛い!!さむ」


 氷は原崎の全身を包み込む

 原崎はそのまま息を引き取った


 「《凍槍・悲譚雫(とうそう・ひたんしずく)》」


 静かに涙を流しながら、槍を手から消す英美里

 そこには以前の様なパン屋で働く少女の姿はなく、仲間を助けるために戦う覚悟をした麗しい少女の姿があった


 蓮見は、その姿を見て小さく拍手をし、頑張ったねとだけ声をかけ、肩に手を置く




 戦いが終わり、鈴音が治癒をしている信之の元に駆け寄る英美里

 涙を流しながら彼女は話す


 「信之さん...敵の私をなんで助けてくれたんですか?」


 その問いに、信之は力無く答える


 「話したと思うけどさ、俺、柿澤さんにモンスターから助けてもらったんだ。

 それであの人を慕って色々手伝いをしてたんだけど...

 やっぱり智咲が言うように俺は馬鹿だった。

 何も知らずに、人殺しの手伝いもしてたんだ、最悪だよな...」


 「そんなことはないです!!

 信之さんは、ちょっと空気が読めないところはあるけど、人一倍優しい人だって、今日ですぐ分かりました...」


 「はは!空気読めないはひどいなぁ...」


 そう言って笑う信之の治癒を鈴音は止める


 「鈴音さん!!なんで!!」


 何故治癒を止めたんですか、と鈴音に叫ぶ英美里を、蓮見が止める


 「鈴音さんの治癒は傷は塞げても、血を補うことが出来ないんです。」


 「血が流れすぎたんですよ...ね?なんとなく自分でも助からないって...分かってます...」


 「ごめん...なさい...」


 涙を流し、下を向く鈴音に、「気にしないでください」と言い、信之は続ける


 「人殺しの手伝いをしてきた俺が...最後に英美里ちゃんの戦いの手伝いを出来たんだ...悪くないかも」


 英美里が信之の名前を呼ぶ

 その声はどんどん遠くなっていく


 「(あぁ、死ぬんだな俺...)」



 信之の家は、お寺だった

 口うるさい住職の父親に、優しい母親、それと弟と妹が2人、どこにでもあるような仲の良い家庭で育った

 ある日、ワーウルフが寺の中に入ってきて、母親が食い殺された

 父親は、信之と弟妹の3人を守るために必死に戦ったが、モンスター相手に手も足も出ず、すぐに殺された

 信之は、ワーウルフの恐怖から弟と妹を置いて逃げてしまった

 必死に走った、足が傷だらけになるくらい走った

 もう走れないと足を止めると、弟と妹を置いてきてしまったことに気づく、

 急いで寺まで戻るが、そこには食い散らかされた家族の姿と、家族の血を舐めているワーウルフの姿があった

 「このまま俺も死のう」と諦めたその時に、柿澤に助けられて、今に至る


 ぼやけて見える泣いている英美里の顔が、妹の顔と重なる


 「ごめん...な...」


 信之は最期に一言そう言った



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