Episode 12 刺客

 時刻は午前3時

 ギルド《赤の象》付近の廃れた飲食店の前にて


「よし、ここに車を置いて、広樹たちは中で見張りの情報を頼む」


「わ、わかりました。」


「みんな、鈴音、無理をしないようにね」


 非戦闘員の広樹、鈴音の両親は、ここで待機してもらう

 監視カメラが近くに複数あったので、作戦通り、見張りの情報を念話で随時報告してもらう

 鈴音父のスキル《分析》は機械の中に入って、操作を行える

 先に得た情報では、《赤の象》の周り、北、南西、南東の3つに別れて見張りを配置しているみたいだ

 北に龍夜とひな、南西に雅、南東に聡と英美里たちに別れて移動してもらうことになる


「みんな、危険な時は逃げることを優先してくれ、絶対な?」


 それぞれの顔を見て龍夜が話す

 鈴音父たちにも、危険になったら念話で知らせるよう伝える

 広樹の念話は、念話を送っている相手との送受信ができ、一人一人なら会話が可能になる

 かなり負担がかかる事になるが、一人一人の情報をみんなに伝達してもらう


「みなさん、気をつけてくださいね」


 広樹がそう言うと、龍夜たちは任せろと言って、その場から走り出す

 コートのお陰で暗闇では見えずらく、身を隠すのにはもってこいだ


 龍夜たちが走り出して5分弱、早速広樹から通信が入った


 [雅さんが見張りと戦闘開始!見張りの人数は5人です!]


 雅のところが1番遠い場所だったはずだが、どんだけ早く着いたんだよと思いながら、雅の安全を祈る


 ――――――――――――――――――――


「貴方たち、《赤の象》でしょ?」


「誰だお前!!!くそ!!敵襲だ!上に報告しろ!!」


 見張りの1人を切りつけ、残った者に話しかける雅

 敵は敵襲だとギルドに報告するが、それも龍夜たちの狙い通りだ

 敵襲だとわざと知らせて、ギルドの中から精鋭部隊と柿澤たちを引っ張り出すためである


「直接恨みはないけれど、貴方たちも同罪よ」


「敵襲!!!剣を持った女1人!!ものすごく強い!!応援頼...む?」


 残っていた者をあっという間に切りつけ、最後の1人の首を刎ねる

 智咲を絶対助けるために、戦うと決めた時から、人を殺すことを覚悟していた雅は、静かに目を瞑る


「ごめんなさい...」


 初めて人を殺した

 つい最近までは普通の高校生だったはずなのに

 とてつもない吐き気が込み上げてくる

 これで自分も奴らと同じく人殺しになった

 そう実感してしまったからだ

 人を切った感覚はモンスターと変わらなかった

 一つだけ違うことは、死体が消えないことだけ

 目の前に、自分が殺した人達が転がっている

 我慢していた吐き気が再び込み上げてき、雅はその場に吐く


「情けない...覚悟は決めてたじゃない。こんな所龍夜たちには見せられないわね...」


 雅は広樹に戻るとだけ伝え、その場を離れた


 ――――――――――――――――――――


 一方その頃、英美里たちも見張りたちと戦闘を始めていた


「ちっ!思ったより数が多いな...英美里!!大丈夫か!!」


「はい!!蓮見さんと鈴音さんのお陰でなんとか!」


 英美里と聡、そしてそのサポートに蓮見と鈴音で見張り10人と戦っていた


「くそ!!どっから飛んでくるか分からねぇ!」

「なんだよこいつら!!強すぎる!!」


 聡の念力で瓦礫やそこら辺に止めてある車、電柱などをあらゆる方向から飛ばす

 大抵の奴らはそれで対処しているが、聡の攻撃を躱した者は英美里が槍で攻撃をする

 レベル上げの時に聡と英美里が組んだ時の陣形だ

 敵にはかなり効果があるのか、手も足も出ていない

 少し時間がかかったが、見張りを無傷で倒した


「こっちは終わった!!他の状況は?」


 [雅さんは、いまこちらに戻ってきています!龍夜さんたちは後2分くらいで敵と対面します!

 聡さんたちも1度戻ってきてください]


「了解!」


 ――――――――――――――――――――


 雅と聡たちが見張りを撃退しているなか、龍夜たちはようやく、敵と対面した


「他の見張りからの報告で受けていた奴らだな?俺たちのギルドに攻め込むなんて命知らずなやつらだ!」


「そりゃどーも、こっちは妹攫われてイラついてるんだ。手加減なんてしないぞ?」


「智咲を返しなさい!!!」


 ひながそういうと同時に、敵は煙玉のようなものを投げた

 一瞬で視界が奪われる

 敵は4人、雅たちからの報告では、見張りは、少しスキルが使えるだけのゴロツキばかりだったと聞いていたが、1人だけ他と比べて出来る奴がいるみたいだ

 おそらく、先程話していた奴が見張りの中のリーダー的存在なのだろう


 龍夜はひなに目で合図をする

 龍夜の意志を読み取り、敵がいたであろう場所に雷を放つ


「あ”あ”ぁあ!」


 こちらが見えないだろうと油断していたのか、あっさりと2人倒せた

 雷の勢いで煙が晴れると、倒れた敵の少し後ろに見張りのリーダーともう1人がいた


「これはこれは、中々強力なスキルだな。油断していたこいつらが悪い」


「そういうお前もすぐ同じになるんだけど、な!!」


 龍夜は瞬時に地面を変化させ、落とし穴を作る

 リーダーの横にいた1人は穴に落ちていったが、スキルなのか、リーダーは空中に浮いている

 これはこちらも油断出来ないなと思っていると、広樹から通信が入る


 [こちら広樹!!!敵襲です!僕らの居場所がバレてしまいました!!誰か応援に!!]


 そう言ったところで、念話が途切れた


「おい!!広樹!!なにがあった!!おい!!」


 広樹たちの元への予想外の敵襲に焦る龍夜に、自慢げに話しかける見張りのリーダー


「ははははは!!精鋭部隊の方々が動いたのだ!!お仲間さんは大丈夫かな??」


 広樹たちが心配だが、目の前のこいつを放っていく訳にはいかない

 雅と聡さんたちが戻っていると言っていたから、みんなを信じるしかない...


「龍夜!!どうする!?」


「信じよう。雅たちなら必ず間に合ってるはずだ」


 頼むぞ、雅、聡さん

 と、心の中で呟き、敵に視線を移す


「まあ、仲間の心配をしたところで、お前たちはここで死ぬがな!」


 そういった途端に、敵の頭の上に雷が落ちる


「が、があ」


「智咲が待ってる、あんたに時間なんてかけてらんないのよ」


 意気揚々と喋っていた見張りのリーダーに容赦なく強烈な雷を浴びせるひな

 龍夜も今から戦うと思っていた矢先の出来事だったので、ぽかーんとしている


「龍夜もタラタラしすぎ!!急ぐよ!!」


 そう言い、龍夜の手を引くひな

 ひなのやつ、レベルアップでここまで強くなっていたのか、怒らせないようにしないとな

 と、考えながら戻る龍夜たちに、再び通信が入る


 [すみません!!龍夜さん!!

 雅さんが来てくれて、鈴音さんのお父さんが少し怪我をしましたが、こちらは無事です!!

 龍夜さんたちはそのまま敵のギルドの方へ向かってください!!]


 雅が間に合って、精鋭部隊の2人と交戦しているという通信だった

 その報告に龍夜たちは安心し、柿澤達がいるギルドの方へ向かって走っていった




 ――――――――――――――――――――


「へぇ、あいつらまだ俺に歯向かう元気があったのか」


 龍夜たちが攻めてきたとの報告を受ける柿澤は、ニヤリと笑いながら、智咲の方を見る


「おい!てめぇの仲間がこっちに攻めてきたってよ!!てめぇを助けるためだ!!ばかだよなぁ!!」


 柿澤から龍夜たちが助けに来たのだと伝えられ、智咲は少し驚いた表情を見せるが、すぐに真顔に戻す


「(やっぱり助けに来てくれた...!

 でも、どうしよう...ここにいる以上、お兄ちゃんたちは助けに来れない

 どうにか外に出ないと...)」


「大好きな仲間が来たのなら気になるよなぁ?

 俺がここに立てこもってもいいが、隠れてるだけなんざ、俺のプライドが許さねぇ

 雑魚相手に俺が逃げてるみたいだからなぁ!!」


 そう言い、柿澤は鉄製のグローブを手に装着する

 これは、対ゴブリンキング用に作った特製のグローブで、柿澤のスキル《剛力》の力に耐える硬さを持っている、柿澤専用の武器だ


「俺自ら奴らを殺してやる。もちろんてめぇの前でなぁ!!!!」


「ぐっ!!」


 そう言いながら、智咲の髪を引っ張り上に持ち上げ、智咲の顔を舐めるように見る

 智咲は痛がりながら、その視線から逃れるように目をそらす


「とびきり楽しいショーの時間だ」


 柿澤はそう言い、智咲を投げ飛ばす

 龍夜たちの思惑とは少し違かったが、智咲を連れて外へ出ていった




 ――――――――――――――――――――


 精鋭部隊の2人と戦闘をしている雅


 相手は、教会でボロボロに負けた

《爆発(エスプロジオーネ)》の

【富永裕二(とみながゆうじ)】と、

もう1人は《投擲(ジェッターレ)》のスキルを持つ【成田智昭(なりたともあき)】だ


「おいおいぃ!また俺に会いたくなって来ちゃったのかぁ!?」


「そんなわけないでしょう?貴方みたいなブサイクに興味なんてないわ」


「すぐその減らず口にぃ、俺のをぶちこんでやるからなぁぁ!!」


 高らかに笑い声を上げた富永は、地面を爆発させた

 辺りに地面の破片が飛び散る

 雅は、爆発とともに後ろに飛び、富永たちと距離を取った


 富永が爆発を付与した石や物を成田が投げるというコンビネーションに苦戦する

 近距離戦を得意とする雅に対して、かなり相性の悪い相手だった


「おいぃ、成田ぁ。あの女は俺のものだぁ

 あんまり傷つけるなよぉ!!」


「分かってますよ富永さん!でも、多少は俺にもお零れくださいよ?」


 卑劣な会話をしながら攻撃を仕掛けてくる富永たち

 雅は攻撃を避けながら、距離を少しづつ縮めているが、飛んでくる爆発物が多すぎて、なかなか近づけない


「避けるだけじゃぁ、俺たちは倒せねぇーぞぉ!!」


 爆発物が徐々に、雅にかすり始める

 どうにかしないと、このままじゃやられると思っていたら、広樹からの念話が入る


 [雅さん、僕に考えがあります]


 広樹の考えとはこうだ

 富永と成田の雨のように打ってくる攻撃に対し、広樹が成田に念話で話しかけ、投げるのを止めさせるという事だった

 念話は広樹の声でしか届かないが、突然頭に流れ込んでくる声に成田は少なからず動揺して、攻撃の手が一瞬だが止まる可能性がある、と

 あくまで可能性の話なので、賭けになってしまいますが、と広樹は続ける


 雅は、広樹に[それでいきましょう]とだけ伝え、爆発物をギリギリに避けながら、成田の方へと走り出す


 [一旦攻撃を止めろ!!!!]


 広樹は成田の頭の中に念話を送り叫ぶ

 広樹の読み通り、成田は富永の方を見て、手を止めた


「おいぃ、成田何やってんだぁ?早く投げろぉ!!」


「い、いやでも今」


 突然投げるのを止めた成田に、富永が驚き再びなげろと指示を出す

 それに戸惑った成田は行動が遅くなってしまう

 その隙を見た雅は、瞬歩で一瞬のうちに成田の前に現れ、切り裂く


「くそぅ!!使えねぇやつだぁ!」


「仲間が切られたのに、そんな言い方なのね」


「仲間ぁ??こんなゴミ、俺の仲間なわけねぇだろぉ?

 こいつらなんてなぁ、道具以外の何物でもないぃぃ!!」


 そう言って、雅に近寄り爆発を起こす富永

 それを瞬歩で後ろに下がり避ける


「またボコボコにしてやるよぉ!!次は泣いてもゆるさねぇからなぁ!!」


「無理よ、貴方には。」


 そう言って、居合の構えを取る雅


 教会で富永と対峙した雅は人間と戦うことに躊躇していた

 モンスターと戦うのには慣れたが、同じ人間と殺し合うなんてありえないと思っていたから

 しかし、その戸惑いで智咲が攫われ、龍夜が傷つき、泣いている仲間たちを見てしまう

 文武両道で生徒会長でお嬢様だった完璧人間の雅にとって、初めて感じたとてつもない悔しさ、自分の非力さ


 その全てを受け止め、彼女は覚悟を決めて、この場に立っている

 その佇まいは、戦場に舞う戦の女神の様


 雅のその姿から放たれる強烈な殺気に富永は萎縮する


「まて!!まてまてまて!!やめてくれ!!」


「あら?貴方、ちゃんと喋れるんじゃない」


 力強く踏み込み、目で認識出来ないほどの速さでの一太刀

 瞬きをする頃には、雅は富永の後ろに立っていて、剣は鞘に収まっていた


 《奥義・天凛月華(てんりんげっか)》


 胴体を真っ二つに斬られ、ズルズルと崩れ落ちていく富永を背に



 凛と佇むのは...



 剣姫(プリデッラ・スパーダ) 伊集院雅




 NEXT

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る