Episode 11 奪還作戦

 龍夜と雅が鈴音のスキルで治癒されている頃

 攫われた智咲は、《赤の象》のギルド内にいた


「ボスぅ、連れてきましたぜぇ」


 傷の男がそう言い、柿澤の前に智咲を投げる

 柿澤を睨む智咲に対して、睨まれている本人は、下から上へと智咲を見る


「レアなバリアのスキル、それにこんな美少女ときた、最高な女だなてめぇは」


 昼間に会った柿澤は、声のでかい騒がしい男だと思ったが、今のこいつは、冷徹で静か。

 まるで別人の様だった

 柿澤の口ぶりから、バリアのスキル持ちは余りいないのか、とても珍しいスキルみたいだ


「あんたの目的はなに?私のスキルでなにがしたいの?」


 智咲は、龍夜たちは必ず助けに来ると信じ、少しでも《赤の象》、そして柿澤の目的を探ろうと彼に問いかける

 柿澤は、智咲の龍夜たちを信じているという目を見ながら、笑いながら目的を教える


「はははぁ!あいつらは助けに来れねぇよ

 富永の報告なら、お前を守るためにボロボロらしいなぁ!!

 来たとしてもその身体じゃ、俺の部下たちにすぐ殺されて終わりだぜぇ!」


 あの傷の男は富永というらしい

 それにこいつらは鈴音のスキルに気づいていない

 鈴音の治癒があれば、龍夜たちは完全に回復して助けに来てくれるだろう

 油断してくれているなら、少しは戦いやすくなるはず

 そう考えている智咲に、柿澤は続ける


「俺はなぁ、この世界になったこと自体は感謝してるんだ

 なぜかわかるか?

 力だよ!!この世界は力の強いやつが輝く!!

 欲しいものがあればその力で奪えばいい!!

 力さえあればなんでも出来る世界に変わったんだ!!最高だぜ!!」


 1人で高笑いをし、自らの拳を振り上げて智咲に見せつける

 その姿はまるで獣だった

 弱肉強食の世界で、敵を貪り、自らの餌に変える獣の様


「お前も分かるだろ!?圧倒的力の前に逆らえずひれ伏す弱者!!

 それを見てたらよ!俺は最高の気分になれるんだ!!!

 だが、それを邪魔するヤツらがいる!!」


 柿澤の趣味の悪い行動を邪魔をする奴らとは、このギルドから約3km離れたところに、ゴブリンの門があり、そこに居座っているゴブリンキングが居るらしい

 門が世界中に出現したことは分かっていたが、こんな近くにあるとは思わず、智咲は言葉が出なくなる


「この街の王は俺だ。あのクソゴブリンに堂々と居座られたらイライラするんだよ

 力の無いカス共が、俺にじゃなくゴブリンにビビってるのも腹が立つ

 そこで、てめぇのスキルだ!!

 バリアさえあれば、あんな野郎無傷で殺せる!!

 しっかり働いてもらうぜお姫様」


 柿澤の目的は、ゴブリンの破壊

 それと、ゴブリンキングの討伐だった

 門の周辺は、ゴブリンキングを囲むように100体以上のゴブリンが居るらしい

 柿澤のギルドはそれなりに実力者も集まっているが、ゴブリンを倒しながら、ゴブリンキングと戦うのは分が悪いと理解していて、智咲のバリアのスキルで確実に殺すという算段だった


「まだ世界中で誰も門を破壊したことはない。お前ごときに破壊出来るわけない」


 最速でレベル30を越えて、そこから更に強くなっているでだろう獅子山でさえ、門を破壊できたという情報は無いのに、不可能だという智咲に、一瞬真顔になり、大きな声を出し笑う柿澤


「だからだよ!!俺が一番最初に門を破壊する!

 そしたら、世界中が俺にビビる!!ひれ伏す!!

 はははっ!これで俺の世界の完成だ」


 この男は本当に自分の欲望に忠実らしい

 完全に目がイっている

 自分の目的のためなら、他者を傷つけ、奪い、殺す

 そんな男になぜこのギルドの奴らはついて行くのだろう

 智咲は、柿澤たちと出会うきっかけになった男、高橋信之を思い出しながら考える




「柿澤さーん!見回り終わりましたー!!」


 丁度智咲が思い出している男が柿澤の部屋に入ってきた

 高橋信之だ

 柿澤たちのやろうとしていることを、知ってか知らずか、元気よく部屋に入ってきた


「おう!ノブ!ご苦労だったな!!」


「ありがとうございます!!って、なんでコイツがいるんですか?」


「あんたのボスに誘拐されたのよ、最低なギルドね、ここは」


「誘拐って...柿澤さんはそんなことしねぇよ!!

 お前が自分から入りに来たんだろ!?」


 盲目的に柿澤を崇拝している信之は、智咲が誘拐されたということも、全く信じない

 あろう事か、智咲が自ら《赤の象》に入りに来たと勘違いしている始末

 こいつはやっぱりバカだと思い、話すことを辞める智咲


「そうだ、ノブ!

 頑張っているてめぇを精鋭部隊に入れたいと思ってるんだが、どうだ??」


「まじっすか!?頼んます!!

 こんな俺で良ければ、もっと柿澤さんの役に立たせてください!!」


「決まりだな。恐らく、近々戦闘があるかもしれねぇ、そんときは頼むぜ」


「おお!次はなんのモンスターすか!!俺のスキルでボッコボコにしてやりますよ!!」


 次に戦うとしたら、龍夜たちだろう

 人間相手に戦ったことの無い信之は、呑気にモンスターと戦うんだと思っている

 信之は、柿澤たちのやっている略奪や殺しについては全く知らなかった

 信之の中で柿澤は、モンスターからみんなを守るために戦っている、自分を救ってくれたヒーローだという認識になっている

 実際はその真逆だということに気づかずに、ギルドに身を置いていた


「本当におめでたい奴ね」


「なんだよお前!ほんっと口悪いよな!!」


 もっと人には優しくしろよ!柿澤さんみたいに!と的はずれなことを言っている信之を智咲は無視し、

 静かに目を閉じる


「(お兄ちゃん...みんな...)」




 ――――――――――――――――――――


 時は戻って

 出発前の龍夜たちは、作戦の確認をしていた


「先に出発用の車を確保して、そこから、奴らのギルド近くまで移動する

 鈴音のお父さんお母さんと、広樹は車で待機しつつ、念話で敵の位置の指示を頼みます」


「私は1人で、聡さんと英美里ちゃんと鈴音、蓮見さんの4人、それと龍夜とひなちゃんに別れて、見張りを各個撃破していく

 これでいい?」


「ああ、雅は1人でしんどいだろうが、絶対無茶はしないように」


 あら、誰に言ってるのかしら?と雅は髪を靡かせ、自信満々に言う

 全員にしっかりと作戦を伝え、出発しようとしているところで、鈴音母がみんなを止める


「ギルドが出来てからみんなに渡そうと思ってたんだけど、今が1番いいタイミングね」


 そう言い、鈴音母はみんなにと、隠れて自身のスキルで作っていた服を渡す


 真っ黒で帽子付きの丈が膝まであるコート

 所謂、フーデッドコートだ

 一人一人デザインが違っていて、例えばひなにはひなのスキルを模した雷の装飾品が付いていたりする

 他のみんなもそれぞれのスキルや、雰囲気にあったデザインが施されている


「うわぁ!!お母さん!!これめっちゃかっこいい!!」


「凄いなこれ、鈴音のお母さんが作ったなら耐久力もあるみたいだし」


「ふふ、みんなすっごく似合ってるわよ

 私はこんなことしか出来ないけれど、智咲ちゃんをお願いね...

 智咲ちゃんにも、帰ってきたら渡すんだから!」


 コートのあまりのかっこよさに、飛び跳ねて喜ぶ者、気恥かしがる者、ニヤニヤしながらコートを見つめる者、みんな反応は様々だった


 龍夜も、真新しいコートに身を包み、フードを被る

 目を瞑り、智咲の顔を思い浮かべる


「(智咲...待ってろよ、必ず助けるからな!)


 行くぞ!!!!!」


「「「おう!!!」」」


 龍夜の掛け声と共に、智咲奪還作戦が始まる

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