Episode 10 人間vs人間

 爆発音と共に、協会の扉が破壊され


「バリア女はどこだぁ!!!お迎えに来たぜぇ」


 と、顔に切り傷の跡がある男を筆頭に4人の男が入ってきた


「敵襲だ!!!みんな固まれ!!」


 突然の敵襲、教会の扉はボロボロに崩れ落ちている、

 恐らく、スキルによる攻撃だ

 それに、あいつらが言っているバリア女とは智咲のことだろう

 ニタニタ笑いながらこちらに近づいてくる男を警戒しながら龍夜は考える


 智咲のスキルを知っているってことは、今日会った《赤の象》の奴らか?なぜここが分かった?

 帰っている時に付けられていたのか?

 モンスターにだけ警戒していたから、全く気づかなかった

 迎えに来たということは、智咲のスキルに目をつけたのか?

 だとしても、俺たちがギルドに入るのを断ったその日に攻めてくるなんておかしいだろ

 やはり、思っていた通り危ない奴らだったか

 くそ!もっと警戒していれば...


「さあ、行きましょうかぁ。バリアのお嬢様ぁ」


 語尾を伸ばす変な話し方をする男は、智咲を舐めるような目で見ながら、手のひらから爆発音のような音を出し、こちらに近づいてくる


「お兄ちゃん...」


「大丈夫だ、智咲。あいつらの目的が智咲なんだったら、俺たちは全力でお前を守る」


 連中の恐ろしさに当てられて、体を小刻みに震わす智咲

 それもそのはず、龍夜たちはモンスターと戦うことには慣れてきていたが、人間相手になど戦ったことも無く、戦うことになるとも思っていなかったからだ


 連中は目の前にいる奴らで5人、もしかしたら、教会自体囲まれている可能性もある

 数が把握しきれていない以上、迂闊にスキルを使う訳にもいかない、と龍夜が考えていると


「お前らは何者なんだ!!人間同士で殺し合うなんて一体何がしたいんだ!」


 と、聡が大声で奴らに聞いた

 この時聡は、相手の情報を少しでも引き出しつつ、時間を稼ごうとしていた

 聡の目論見通り、相手はご丁寧に自己紹介をしてくれる


「おっとぉ、自己紹介がまだだったなぁ!俺たちはギルド《赤の象》の隠密部隊。【鰐(クックディーロ)】だぁ!!

 ボスの命でそこに居る、バリアのスキル持ちのお嬢ちゃんを貰いに来たぁ!!」


「お前たちの勧誘は保留にしただろう!断ったわけでもないのに、ここまでする必要があるのか!!」


「ははぁ!分かってないようだなてめぇらぁ!!

 柿澤さんは、欲しいものはすぐ手に入れないと気が済まない人なんだぁ!!

 なんでそのお嬢ちゃんを欲しがってるかはわかんねぇがなぁ!!」


 龍夜の疑いは確信に変わった

 柿澤は、見た目通りの悪人だった

 自分が欲しいものは何がなんでも手に入れるために、人を殺せる人間

 気に入らないやつは、殺す

 逆らうやつも、殺す

 この世界になって、それが当たり前になった柿澤も、目の前にいる部下たちも、なんの躊躇いもなく殺しにかかってくるだろう


「くそ...雅!!智咲と戦えない人達を頼む!!」


 龍夜は、奴らと戦う覚悟を決め、非戦闘員と智咲を雅に守るように伝える

 龍夜の横に、ひな、聡、英美里が並び、戦闘態勢を取る


「ははぁ!お前らには用はねぇんだわぁ!」


 顔に切り傷のある男がそういった途端、その男の後ろにいる、前髪で目が隠れたマスクの男が、少し前に出た

 マスクの男が手を前に出すと同時に、彼の指から無数の針がものすごい速さで飛んでくる

 後方にいた智咲たちと雅には、智咲のバリアのおかげで針は届かなかったが、前方の龍夜たちは避けきれず、針に当たってしまう

 針には、麻痺毒が塗られており、体の自由が聞かなくなり、龍夜たちはその場に倒れる


「くそ、体が...!」


「やべぇぞ、こりゃ...」


 体が麻痺しているせいか、スキルも満足に使うことが出来ない

 倒れている龍夜たちの横を、顔に傷がある男はゆっくりと通り過ぎる

 龍夜は男の足を掴もうとするが、体が言うことを聞かず、届くことは無い


「てめぇらはぁ、俺たちが来たときで詰んでたんだよぉ!

 さぁ!!早くそのバリア女を寄越しなぁ!!」


「そうはさせないわ!!」


 龍夜たちを通り過ぎ、こちらに向かってきている男の前に雅が立ち塞がる

 剣を構え、相手の動きを見る


「こりゃ美人な姉ちゃんだぁ!!だが、てめぇの相手をしてる暇はねぇんだわぁ!」


 そういって、雅に丸腰で走り出す男

 雅も人を切る覚悟はまだ出来ていないのか、戸惑いの表情をしている

 その隙を見逃す訳もなく、男は雅の居合を軽く避けた後、地面を爆発させる


「ぐあぁぁぁ!!!」


「本当はてめぇも持って帰りたいところだがぁ...うちのボスはぁ、自分が欲しいもの以外を持って帰ってきたらブチギレるんだわぁ」


 雅の髪を掴んで持ち上げ、「また今度迎えにくるからよぉ」とだけ言い残し、智咲たちの元へ歩き出す男


「おいぃ、バリア女ぁ。てめぇの仲間殺されたくなきゃ大人しく着いてこいぃ」


 男のその一言を聞いた智咲は、床に倒れている龍夜たち、ボロボロで重傷を負っているのに、無理やり立ち上がろうとしている雅を見つめ

「わかった。」とだけ言い、バリアを解除する


「おりこうさんだぁ」


「やめて!!!智咲ちゃんは渡さない!!!」


 智咲と男の間に割って入る鈴音

 ボロボロの雅が「やめろ...鈴音...」と言っているが、鈴音は下がるつもりは無い

 智咲を守るという気持ちが、鈴音の恐怖を消している

 殺される覚悟を決めて力強く両手を広げて立ち塞がる鈴音に対し男は


「まあ、1人ぐらい見せしめに殺しとくのはありだよなぁ!」


 といい、鈴音の首を掴み持ち上げる

 空いている手をバチバチと鳴らし、鈴音を爆発させるつもりだ


「やめて!!!!!!」


 その声で、教会内が静まり返る

 龍夜たちの絶望の目が智咲に集まる


「大人しく着いていくからやめて...これ以上みんなに手は出さないで...ください...」


 涙を流しながら、そう言う智咲に、男がニヤリと笑う

 男は、鈴音を離し、智咲に近づき腕を強く掴む

 下を向き、何も言わず、男について行く智咲


「智咲!!!!おい!!待てお前ら!!智咲を離せ!!!!」


「あぁ、そうだったぁ!てめぇは生意気だから痛い目見せろって言われてたんだったぁ」


 男はそう言うと、龍夜の倒れている地面を爆発させる

 龍夜の叫び声と共に砂埃が教会中を舞う

 爆発で、教会の壁まで飛ばされた龍夜は力無く智咲に手を伸ばすがそれが届くことは無い


「いやぁ!!!お兄ちゃん!!!!!!」


「智...咲...」


 智咲の叫ぶ声に合わせて男たちの高笑いが聞こえる

 龍夜と雅は重傷

 ひなと英美里と聡は麻痺にやられて動けない

 広樹と蓮見と鈴音の両親は戦闘向きのスキルではない

 その場で奴らと戦えるものはもういなかった


 完全なる敗北


 男たちは智咲を連れて、外へ向かう


 意識を失う寸前、必死に智咲へ手を伸ばす、龍夜は見た

 智咲が、男たちが外へ向かっている中、龍夜の方を向き、小さな声で確かにそう言った


「たすけて...お兄ちゃん...」





 智咲が《赤の象》のヤツらに連れていかれて、2時間後

 奴らが教会を出てすぐ、鈴音は涙を流しながら龍夜と雅の治癒をしていた

 麻痺毒が抜けた、ひなは、泣いている英美里と広樹に付き添っているが、動けなかった自分の無力さを感じ、暗い顔をしている

 聡は、外でタバコを吸っていて、大人組は、どうしたものかと話し合いをしている


「早く起きて...龍夜くん、雅...」


 かなりの重傷だったのか、2時間かけて治癒を施し、傷は塞がったが、まだ意識が戻らない

 この中でも、頭一つ抜けて強い龍夜と雅がやられたということは、相手は相当強いと、みんなの中でも絶望が伝染していっている


 ようやく2人が目を覚ましたのはそれから1時間後のことだった


「智咲...くそっ!!」


「やめなさい、龍夜。物にあたっても意味ないじゃない」


「そんなことわかってる!!!」


 目を覚ました龍夜は酷く取り乱していた

 それもそうだ、自分の大事な妹が、危ないヤツらに連れていかれたのだ

 正気を保てるわけがない

 いつも気だるげに余裕の表情でいた龍夜の姿はどこにもなかった

 龍夜の焦りや苛立ちがみんなにも伝染していって、雅までイライラしだしている

 そんな雰囲気を壊すように、教会の中に、空腹を誘惑するような香ばしいスパイスの効いたとてもいい匂いが漂ってきた


「うーーい、お前ら出来たぞ〜」


 そう言って、タバコを吸いに行っていたかと思われていた聡が教会の外から大きな鍋に入れたカレーを持ってきた


「かれー??」


 ひなと英美里と広樹が頭の上に?を浮かべていると

 龍夜が立ち上がり、聡の胸ぐらを掴み、怒鳴る


「こんな時に呑気にカレーなんか作ってたのか?あんたは!!!なにもできなかったくせに!!」


「離せ、ガキ。それはお前もだろーが」


 龍夜と聡が睨み合う

 それを蓮見と鈴音父が止めようと駆け寄るが、雅に止められる


「智咲が攫われた!!!早く助けに行かないといけない!!!あんたはそれが分かってるのか!?」


「だからこそだろう!!!」


 龍夜の怒鳴りを、それを越える声でかき消す聡


「俺たちだって、悔しく思ってんだ!!

 この1ヶ月で俺を含めて、全員。お前ら兄妹にどれだけ助けられたと思う!!

 お前だけじゃねぇ!ひなや雅や鈴音、他の連中も自分の非力さにクソほどムカついてる!!

 もちろん俺もだ!!

 お前の大事な妹でもあるが、俺たちにとっても自分てめぇの命より大事な仲間なんだよ!!


 ...だからこそ、今は食って疲労を回復させなきゃならねぇ。乗り込むんだろ?あいつらのギルドに。」


 聡の言葉に龍夜は絶句する

 カレーを作っていたのは智咲を助けに行くために、みんなの疲労を回復させようと思っての行動だった

 龍夜を、智咲を、それにみんなを大事にしているという、聡の本音を聞き、龍夜は涙を流した

 カレーの入った鍋を机に置き、聡は付け加える


「みんなで助けに行くぞ。」


「はい...!聡さん...すいません...」


 泣いている龍夜の頭を撫でながら、「クソガキの面倒はクソ野郎が見ないとな」と言いにっこり笑う聡

 その笑顔はこの1ヶ月間で初めて見せた、純粋な笑顔だった


 そんな二人を見て、その場にいる全員に覚悟が決まる

 ひなは、力強く立ち上がり


「絶対、私の親友は返してもらうんだから!!」


 と、言い、それに続くように、鈴音、英美里、広樹も声を上げている

 それを見ながら、雅は少し微笑みながら言う


「珍しく料理した聡さんのカレー、智咲ちゃんにも食べさせないとね」


 龍夜は、本当にこの人たちに出会えて良かったと心に思いながら、みんなに「ありがとう」と言った





 カレーを食べながら、智咲救出への作戦を話し合うが、問題が沢山ありすぎる

 

 第1に、戦力差。

 相手は殺しに慣れていて、信之から聞いていた話ではこちらの人数の倍以上いる

 教会に攻めてきた奴らは、精鋭部隊と言うのだから、段違いに強いだろう

 爆発のスキルの男と、麻痺毒の男しかスキルは確認できなかったが、他の奴らも危険なスキルだと思っていた方がいい


 第2に、相手がギルドだということ

 ギルドはギルドメンバーしか、中に入ることが出来ない仕様になっているから、こちらから攻めるにしても、立てこもられたら手の打ちようがない

 どうにかしておびき寄せるにしても、柿澤は自分が動くより人を動かすような人間だ

 中々前線に出てくるとは思えない


 第3に、智咲を助け出した後だ

 教会の場所は割れているから、ここにはもう逃げ込めない

 元々教会からの移動は考えていたが、《赤の象》と戦って、疲弊しきった状態で、更に遠くまで移動するなんてかなり危険だ

 逃亡場所も考えないといけない


 この大きな3つの問題のせいで、話し合いが一向に進まない

 頭を抱えている龍夜に、鈴音父が口を開く


「ギルド付近に監視カメラとかがあれば、私のスキルで、敵の見張りの位置は把握できるかと」


「そうか!それで見張りを全員倒していけば、柿澤たちもギルドから出てくるんじゃない??」


「うーーん、そう簡単に出てくるか?」


「これならどう?鈴音のお父様に監視カメラとそれに加えて、街道アナウンス用のスピーカーにもスキルを使って貰って、見張りを各個撃破し、奴らを挑発する」


「すると、見張りもやられ、むかついた奴らはギルドから出てくる!!ということですね!!」


 単純な作戦だが、奴らのプライドの高さからすると、効果はあるかもしれない

 問題はギルドリーダーの柿澤、副リーダーの上村、そして5人の精鋭部隊

 見張りを倒せても、この7人を相手にしなければならない

 対する龍夜たちは、戦えるのが、龍夜、ひな、雅、英美里、聡の5人。

 ここでも、人数差が出てきてしまう...と思っていると


「私(俺)が2人相手をする」


 と、雅と聡が口を揃えて言った


 雅と聡が精鋭部隊を2人ずつ相手をし、残った1人を英美里に鈴音、蓮見の治癒&バフのスキルで戦ってもらい、龍夜とひなで柿澤と上村と戦うということだった


「さすがに、2人に負担が大きすぎないか?」


「大丈夫よ。次は遅れは取らないわ」


「俺もだ。無様な格好を晒された借りは返さないとな」


 大丈夫だという2人に続き、英美里も答える

 中学生には酷な戦いになるだろうが、鈴音と蓮見さんが付いていてくれるなら安心だ


 これで2つの問題が解決した

 残る1つの智咲を助けたあとに関しての議題で、また再び頭を悩ます


 あのーー、と広樹がゆっくりと手を上げる


「龍夜さんと雅さんが寝ている間にネットニュースで見たんですけど、大阪のなにわ連合が、大阪に向かう高速道路の整備を途中まで終わらせたって...」


「じゃあ、大阪に向かえば安全に逃げ切れるってことだねっ!」


 それは、龍夜たちからするととんでもなく、絶好のタイミングだった

 なにわ連合は、大阪近辺のモンスター退治や、壊された道の整備に力を入れている

 龍夜たちの場所から10kmほど離れたところに大阪に向かう高速道路があるので、それに沿っていけば、危険なく大阪へといけるということだ


「最高だ!よし、この作戦で智咲を助けて、大阪へ向かうぞ!!」


 みんなは龍夜の言葉に立ち上がり、意気込む

 作戦決行は、今から2時間後、午前3時に奴らの元へ乗り込む


「待ってろよ、智咲!!」



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