Episode 9 赤の象
「は?なに?あんた」
ギルドに入れという信之に対して、智咲が驚きの一言を発する
普段大人しい智咲からは想像もつかないほどの怒りの感情が乗ったその言葉に、龍夜と英美里は静かに顔を見合わせる
「だーかーらー、俺は信之っていってるだろ?
ちゃんと聞いとけよなー!
お前らのこと、うちのギルドのリーダーに紹介してやるから、着いてこいよ!」
そう言って、ドスドスと歩き出している信之
智咲は怒りつつも、呆れた表情でため息を吐き、
龍夜と英美里を連れて信之から離れる
「おいおい!!そっちじゃねぇぞ!
ちゃんと俺の後ろに着いて来いって!」
「はぁ?なんで私たちがあんたのギルドに行かなきゃならないわけ?そもそも、助けてもらったくせになんでそんな上からなのよ。」
智咲は、龍夜と英美里が危険を犯してモンスターと戦い助けたのに、終始上から目線で言葉を投げかける信之に、腹を立てていたらしい
兄である龍夜ですら、初めて見る智咲の怒りように戸惑っている
それ程、龍夜たちを大事に思っているからこその怒りであろう
信之は智咲が言っていることを理解していないのか、怒っていることにも気づかず、再び話を進めようとしている
「まあまあ、智咲さん!落ち着いて落ち着いて!」
「信之くん?だったか?君のギルドってのはどんなギルドなんだ?
何も教えてくれないで連れていこうとしても、俺たちはついて行かないぞ?」
「あぁ!それはすまんかった!じゃあ、説明しよう!
俺が入っているギルド《赤の象(ロッソエレファンテ)》はギルドリーダーの【柿澤慎二(かきざわしんじ)】さんを筆頭に、ここら一帯を拠点に活動しているギルドだ!」
信之はギルドとギルドリーダーのことから、その出会いについても暑苦しく語っていた
ギルドリーダーの柿澤は身長190cm越えの、プロレスラーの様な身体で赤髪の坊主頭らしい
ワーウルフに襲われていた信之は、柿澤に助けられて、ギルドで恩返しをしているとの事
柿澤のスキルは《剛力(ラリジリータ)》という、その名の通りとてつもない力で相手を殴って戦うらしい
「よし!じゃあ、お前ら着いて来い!!」
「まてまて!紹介してくれるのは有難いが、俺たちは食料調達をしにここに来た。
他にも仲間がいるんだ。
それが終わってからでもいいか?」
「なんだ!そういうことなら、俺も手伝うぜ!力仕事には自信があるんだ!」
自信満々に腕を折り曲げて見せる信之に、龍夜は助かるよとだけ声をかけて、智咲たちの方を見る
英美里はまだぽかーんとしていて、智咲に至っては不満があるのか少しお怒りのようだ
不機嫌気味の智咲を宥めながら、デパートに向かうことになった
もちろん、信之は龍夜たちの前を風を切るように歩いている
やっと思考が追いついてきた英美里が智咲と話しながら着いてきている
デパートに着いてからは大変だった
信之がモンスターを見つけたら、一直線に戦いに行くので、龍夜たちもモンスターと戦闘をする羽目になり、普段は2時間くらいで終わる食料調達に5時間以上かかった
おかげさまで、龍夜と智咲はレベルが30を越え、ギルド機能も開放されたが、教会に戻って、みんなに伝えることにした
時刻は午後1時半、デパートで調達した缶詰を昼ごはんに、信之が話し始める
「そういえば、お前らの名前聞いてなかったな!ギルドリーダーに紹介するんだ、教えておいてくれ!」
「おいおい、確かに自己紹介はしてなかったが、よくそれで今までいたな」
「やっぱりこの人少し変だと思います...」
龍夜たちは各々に自己紹介をしたが、智咲は無言を貫き通している
念の為スキルのことは伏せておいた
信之のことはこの数時間で少し理解出来て、悪い奴ではないということだけは分かったが、信之のギルド《赤の象》の人達のことはよく分かっていなかったのが理由だ
最近のニュースでは、スキル持ち同士の奪い合いも起こっていると言われていたので、警戒はしておいた方がいいからだ
人間と戦うなんて、まっぴらゴメンだが...
「じゃあ、そろそろ行くか!しっかり俺について来いよ!」
そう言って立ち上がる信之に、龍夜たちは渋々ついて行く
智咲はまだ機嫌が直らないみたいで、龍夜の少し後ろを歩いている
「(ここまで智咲が怒るのなんて、初めてだぞ...すごいな信之)」
そんなことを思いながら、デパートを出て、15分くらい歩いき、飲み屋街に入る
路地裏のBARを過ぎ、さらに奥へ行くと信之の所属ギルド《赤の象》へと着いた
暗い雰囲気のドアに、英美里がソワソワしている
「ここだ!ギルドメンバー以外中には入れないから、ちょっとリーダーに話を通してくる!待っててくれ!」
そう言って俺たちは外で待つ事になった
「これが大人の世界...!」などと言っている英美里と話しながら待つこと10分
目の前で見るとさらに大きく感じる屈強な男、この人が柿澤だろう
それと、もう1人眼鏡をかけた細身の男が出てきた
「よう、てめぇらか?ノブが見つけたって言う強い連中は
ノブから聞いてると思うが、俺が柿澤だ
そしてこっちが、副リーダーの」
柿澤がそう言うと、眼鏡の男が名乗る
「【上村誠(かみむらまこと)】だ。早速だが、場所を移そう」
柿澤たちは「着いて来い」とだけ言い、歩き出す
智咲は少し警戒しているのか、男たちをじっと見つめている
英美里は、強面の男たちに怯えて、「大丈夫ですか?大丈夫なんですよね?」と言いながら、龍夜の腕に掴まっている
見た目からの印象は一言で言うと裏社会のそれそのものだったが、信之の話を聞く限り悪い奴らではないだろうと思うが...
柿澤たちに着いて5分くらい歩くと、先程見かけたBARの中へと案内された
「まあ、座れよ」と柿澤に促され、ボックス席へと座る
英美里は、さらに悪くなった雰囲気で、挙動不審に周りを見回している
「ここは、俺たちのギルドメンバーが運営してるBARなんだ。なにか飲むか?」
「いや、大丈夫だ。それより、俺たちは信之に強引に連れてこられたんだ。早く話を終わらせて拠点に帰りたいんだが」
「まあ、そう言うなって。おめぇら強いんだろう?ノブから聞いてはいるが、地面を変化させる能力に、槍使い、それにバリアを使えるやつもいるんだってな?どれも強い能力だ」
龍夜たちのスキルは信之によって、ある程度報告されていた
いい能力だと褒める柿澤は、グラスに入ったワインを飲み干し、ある提案をする
「おめぇら、俺のギルドに入れ。強いスキル持ちは大歓迎だ!!他にも仲間がいるんだろう?そいつらも連れてきてもいい!!どうだ?」
「その誘いはありがたいが、他の仲間の意思もある。俺の独断では決めきれない。だから、今は断らせてくれ」
怯えている英美里を安心させるために、龍夜も強気で話す
こういう相手には弱さを見せるとつけ込まれる、と判断した結果だった
まだ、強い力を持つギルドであろうと、柿澤がどんなやつか分からない以上、安易に決めるのではなく、警戒しておくのが正解だろうと考える
「はは!冷静だなおめぇ。気に入ったぜ。
いい返事を期待している」
それだけ言うと、柿澤は上村を連れてBARを出た
龍夜たちは緊張が解けて、その場でため息をこぼす
「はぁー、なんだよあの人。顔怖すぎだろ」
「私はちょっと殺されるかと思いました...」
「お兄ちゃん、よく頑張りました」
龍夜が断ってくれたのを嬉しく思った智咲は、よしよしと龍夜の頭を撫でる
少し恥ずかしがる龍夜は、「帰ったらみんなに話さないとな」といい、立ち上がる
「柿澤さんかっけぇだろ!!早く入れよな!」
「あのなぁ、お前のせいでこんな面倒なことになったってのに...」
鼻息をふんふんと出す信之に対して、龍夜が言う
智咲が嫌っている理由が段々と分かってきた
信之は悪い奴ではないのだろうが、助けてもらった柿澤に対して、異常なまでの信仰心を感じる
話している時の上村からの見張られているような視線、品定めするかのような柿澤の視線、龍夜たちからの柿澤への印象は良くはなかった
「お兄ちゃん、こんなバカはほっといて帰ろう」
「おい!お前!今日で俺の事バカって32回言ってるぞ!!俺はばかじゃねぇ!!」
数えてたのかよ...
智咲はそんな信之を無視し、英美里と外に出る
龍夜も、「じゃ、また今度な」とだけ言い残し、3人は飲み屋街を出た
「今日は散々な1日だったな〜」
「いつもの5倍疲れた...」
「私も怖かったです...あんなギルド入りたくない...」
教会へ向かう帰り道、龍夜たちは、リュックにパンパンに入った食料を担ぎ、今日の出来事を話しながら帰る
智咲は信之に対してのストレスからか、項垂れながら歩いていて、それにくっつくように英美里が歩く
断ったのもあるし、もうあそこ近辺には行きづらいなぁ、また絡まれるだろうし
と考えながら小一時間かけて、ようやく教会へと辿り着いた
教会に着き、聡たちと話しながらしばらくゆっくりしていたら、雅班が帰ってきた
レベル上げの成果は上々だったらしい
雅がレベル33、鈴音がレベル28、ひながレベル30、広樹がレベル24、鈴音父がレベル21まで上がったらしい
一日でここまでレベルが上がることは珍しい
鈴音父のスキル《分析》で、監視カメラからモンスターを探しながら、倒していった結果らしい
これからはそのスタイルでレベル上げをすると効率も良くなるかもしれない
龍夜たちも報告をし、龍夜がレベル31、智咲がレベル30、英美里がレベル28まで上がったことを伝える
レベル30越えが4人になったことで、ギルドについて話す
雅と龍夜の意見は、教会を離れ、別の場所でギルドを作った方がいいということだった
しかし、この案には問題がある
それは、モンスターがどこにいるかも分からない現状で、この大人数で移動するにはリスクがあるということだ
幸い全員がスキル持ちだが、戦いに向いていない人もいる
龍夜たちのスキルなら、守りながら向かうことは可能ではあるが、長い移動だと、体力面で不安がある
スキルを使い続けると、疲弊してしまうからだ
みんながどうしたものかと悩んでいると
「お姉ちゃん、うちにちょっと大きな配達用の車がなかった?」
広樹が口を開いた
英美里と広樹の家はパン屋で、材料の運搬などに、少し大きめの車を使っていたみたいだ
荷台がパンを保管するため箱状になっている、所謂箱車というものだ
燃料が入っているかは分からないけど、と付け加えながら、不安そうに周りを見る
龍夜と雅はすぐに考え出す
先に雅が「この方法なら大丈夫かもしれない」と、みんなの顔を見て話す
まずは、車の免許を持っている大人組のうち、戦闘に向かない、鈴音母と蓮見のどちらかに運転を任せ、運転をしない方は助手席に座ってもらう
そして、龍夜のスキルで後ろ側を改造し、箱の上に戦闘要員が座れる場所を用意し、モンスターの警戒、必要ならば討伐をしてもらう
非戦闘員の鈴音父は、スキルで機械に侵入してもらい、モンスターが居ないかを索敵してもらい、広樹が念話でみんなに伝えるという役割だ
そして、智咲が車を囲むようにバリアを張るという作戦だった
「それだと、智咲の負担が大きくならないか?」
「そこは大丈夫。鈴音のお父さんに索敵して貰って、モンスターが居ない時はバリアを解除して移動するから」
「なるほど...それなら大丈夫そうか?智咲」
「大丈夫。その意見に賛成」
と、今日一日のストレスを癒すように、龍夜の膝の上でだいずを抱えている智咲がいう
みんなにも雅の意見について聞くが、全員賛成のようだ
「じゃあ、この作戦で移動しよう。目的地はどうする?」
龍夜が目的地について話し出した途端
爆発音と共に、協会の扉が破壊され
「バリア女はどこだぁ!!!お迎えに来たぜぇ」
と、顔に切り傷の跡がある男を筆頭に4人の男が入ってきた
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