Episode 7 辛い別れと新たな覚悟

 龍夜たちは、商店街のゴブリン戦の後、モンスターと出会うことはなく、無事に教会へと戻った

 しかし、スキルを得てからたった一日で多くの戦闘をしたため、みんなの疲労は限界に達していた


 教会についてから、少し休み、今は午後9時

 みんなで床に座り、豪華とは言い難い、非常食での晩御飯を食べながら、報告会をしていた

 新しく加わった、鈴音の両親、双子の英美里と広樹、そして、商店街での大量のゴブリンとの戦闘

 みんなの自己紹介と、ゴブリンを倒した時に、スキルを奪取できたことの説明を終わる頃には、午後11時を過ぎていた


 鈴音が、体をぐーーっと伸ばし、眠そうに欠伸をしながら話す


「ふぁーーー、今日は本当に色々あったね」


 まだ寝てはいけないと、ウトウトしながら、眠い目を擦っている英美里は


「皆さん、本当に助けてくれてありがとうございました」


 そんな英美里をみながら、みんなは「気にしないで」とか、「これからよろしくね」など、各々で話しかけている


「それでよぉ、龍夜。お前がさっき言っていた、スキル奪取の事だが」


 先程、スキル奪取について説明したが、聡は、まだ聞きたいことがあるのか、酒を飲みながら、龍夜の近くに座る

 聖職者有るまじき行為である


 話を聞いていなかったのか?と思いながらも龍夜は最初から説明をする


 ゴブリンの大群との戦闘

 その時に、気配を感じさせず、鈴音の前に突如出てきた1体のゴブリン

 そのゴブリンを倒すと、頭の中で声が流れ、スキルを奪取しましたとウインドウが出てきた、と

 一応、ステータス画面を見たら、自分の保持している《変化》のスキルの下に、ちゃんと《隠密》と表示されていた

 《変化》を手に入れた時とは違い、頭の中に使い方などは流れてこなくて、どうやって使うのかは分からないと加えて説明をした


「んなもん、心の中で、隠密〜〜って唱えたら使えんだろ」


 酔っ払っているのか、少し投げやり気味で聡がいう

 そんな便利に使えたら、ここまで困っていないと思いながらも、心の中で唱えてみる

 すると、


「おわぁ!!」


 と、驚きの声を出し、龍夜のことを探し出す聡

 まさかと思い、心の中で『隠密解除』と唱えると、

 またもや、聡が同じ反応をして「出てきた!?」と驚いているので、隠密を使えたのだと確信する

 まさか、酔っぱらいの言っていたことで、スキルが使えるようになるなんて、と思ったが、使えないよりはましだ

 楽にスキルを試せたということで、よしとしよう


 龍夜と聡の会話を見て、面白いと笑う者、馬鹿だなという目で見る者、別の話に夢中になっている者、みんなリアクションは様々だった

 双子は眠り、みんながようやく落ち着いてきて、就寝しようとしている時に、ひなが立ち上がり


「ちょっと、気分が悪いから外の空気吸ってくるね」


 と、言う

 危険だから、まだ起きている智咲と一緒に行けと言ったが、「大丈夫大丈夫!」と流され、ひなは外に行った


 智咲は、ずっと龍夜の横に座っていたので、ひなの行動を見て、さらに龍夜の方に寄り、龍夜にしか聞こえないほどの小さな声で


「ひな、やっぱり家に行ってから様子がおかしい。少ししたらひなのところに行こう?」


 教会に戻ってからも、ひなの様子は変わることなく、周りから見たら元気そうに見えたが、龍夜たちの目はごまかせていなかった

 多少は一人の時間が必要だと、智咲はひなを気遣って、時間を置いてから行こうとのことだった


 そういえば、学校からずっと一緒だったから、1人になるなんて無かったのか

 と、龍夜は考えつつ、智咲の合図を待った


 15分くらい経った後に、智咲の合図が出たので、起きていた大人組、鈴音の両親と神父2人に、少し席を外すと言ってひながいるであろう外に向かった


 足音を立てないように歩きながら、教会の入口の扉をゆっくり開ける

 開けた先に見える、小さな塀の下で驚いた顔をして涙を流しているひながいた


「ふ、2人ともどうしたの?ねむれなくなった?」


 と、止まらない涙を流しながら、バレないように下を向きながら聞くひな

 智咲は、何も言わずに近づき、ひなのことを優しく抱きしめる

 すると、ひなは、龍夜たちが自分の心配をしていて、ここに来たのだと気づき、溜め込んでいたものを話す


 泣きながら、嗚咽混じりで話すひなを見る

 相当無理をしていたということが伝わってきた


 ひなが自分の家に入ると、龍夜たちと同じように家が荒らされていたらしい

 だが、決定的に違うことがあった

 ひなの両親は2階でゴブリンに殺されていたというのだ

 龍夜と智咲は、驚きと悲しさで、声が出ず、静かにひなの話を聞く


 その後、ひなは、学校を休んでいた、兄の琥太の部屋にいくが、血痕だけ残して、兄の姿は無かったという、

 パニックになる寸前だったらしいが、みんなを待たせてしまったら、さらに犠牲者が増えると思い、今まで無理をして我慢していたらしい

 そこまで説明し終えると、ひなは、両親をそのまま置いてきたことに後悔をしているとだけ言い、話を終えた


 そのままひなは、智咲の腕の中で泣き疲れて寝てしまった

 龍夜たちが、教会の中にひなを運び入れると、ひなの異変に気づいていた、聡と雅が扉の前で静かに待っていた

 聡は龍夜たちに何も言わずに、その場を去り、雅は、ひなの頭を撫でて、「気づいていたのに、無理をさせてごめん」とだけ声をかけて、鈴音が寝ている場所に戻った

 龍夜と智咲は、ひなを挟むように横になり、智咲はひなを抱きしめて眠った

 見張りは、聡が何も言わずにやってくれていて、ようやく、長い一日が終わった


 午前7時、龍夜は目を覚ます

 見張りを交代してくれていた雅がおはようと声をかけてきた

 まだ寝ている智咲とひなを眺め、ひなのためにできることは無いだろうかと考える

 そんな龍夜に気づいたのか、雅が提案をする


「ひなは、もう一度家に帰りたいんじゃない?」


 昨日言っていたことを聞いてしまってごめんなさいと一言入れて、雅が話す

 後悔をしているなら、絶対に行くべきだと


「俺もそう思うが、ひなが言ってくれないとなんとも...」


 龍夜と雅が話している時に、ひなが起きた

 その会話が聞こえていたのか、ひなは


「私、帰りたい。帰って...お父さんとお母さんとしっかりお別れしたい。」


 涙を流しながら、弱々しく真っ直ぐに龍夜を見つめるひなに、「分かった。俺と智咲と3人で行こう」と返事をして、準備を始める


 智咲を起こし、今話したことを伝える

 すぐに飛び起きて、急いで準備をしている


 ひなに、了承を得て、ひなの家族のことをみんなに伝える

 鈴音は、気づけなかった自分を情けなく思い、ひなに謝り抱きしめる

 ひなは、どうしたらいいのかわからないという表情で助けを求め、雅が鈴音を引き剥がす

 ある程度の説明をして、昼までには戻ってくるとみんなに伝えて、教会を出る


 教会の扉を開けると、外には、とても似合わない神父の姿をした聡が待っていた


 龍夜たちが頭に?を浮かべていると


「お別れするんだろ?俺が聖書読んでやるよ」


 と、聡なりに、ひなに気を使っているのか、少し恥ずかしそうな表情で言う

 ひなは、聡の優しさを感じ、お礼を言い、「でも、すっごく似合わないね!聡さん!」と、恥ずかしがっている彼をさらに追い詰める一言を言い、4人で教会を出た


 空は快晴、道すがら、モンスターに遭遇することも無く、何事もなくひなの家に着いた

 ひなが龍夜と智咲を両親のところまで案内してくれた

 小さい頃からお世話になっていた人達の亡骸をみて、智咲は膝から崩れ落ち、龍夜は俯いている

 ひなから聞いたものの、実際に遺体を目の前にした時の悲しみは比べるまでもなく、今までの思い出が蘇って、涙流す

 ひなも、再び会った両親の遺体に触れながら、涙を流し、


「なんでこんな世界になっちゃったのかな...なんで、お父さんとお母さんは死ななきゃならなかったのかな...」


 痛かったよね、私がもっと早く助けに行けてたら、と言葉をかけ、少しずつ別れの言葉を口にする


「お父さんとお母さんが産んでくれた大事な命、絶対に無駄にはしないからね。私は2人の娘だもん、絶対に生き延びてみせるよ、沢山愛してくれてありがとう。」


 ひなが立ち上がり、両親に別れを告げ、龍夜たちの方を向く

 その表情は、この恐ろしい世界を生き抜く覚悟を決めたのか、しっかりとした強い意志を感じる表情だった

 龍夜たちは、なにも言わずにひなを抱きしめる

 龍夜たちのその行動に驚いたのか、ひなは再び我慢していた涙が溢れ、大声で泣く


 ひなが泣き止むまで待って、1階に降りると、玄関のところに聡がいた


「まだやることがあんだろ?ほらよ」


 と、聡からひなたちへ、百合の花を2本ずつ、人数分渡された

 また、頭に?を浮かべている3人に


「馬鹿ガキ共が...」


 と言い、「ご両親に会ってもいいか?」とだけひなに聞き、承諾を得ると、ふてぶてしい歩き方で2階へと向かっていった


 聡を追いかけるように、龍夜たちも2階へ上がると

 ひなの両親の遺体を目の前にして、聡がとても悲しそうな表情をして


「お前らはそこに立っとけ。やった事ねぇし、じじいの見様見真似だが、文句は言うなよ」


 それだけ言うと、聡は、聖書を読み出した

 やった事がないと言う割に、読み慣れていて、聡の低い声も相まって、とても聞きやすかった

 聖書を一通り読み上げ、聡は胸から十字架と百合の花を2本ずつ取り出し、ひなの両親の胸の上に優しく置いて目を瞑る

 龍夜たちが、普段の聡からは想像もつかないほどの姿に驚いていると、「ほら、お前らも」と言い、手招きをしてくれた

 龍夜たちも目を瞑り、ひなの両親たちとの思い出を振り返りながら、ゆっくりと別れを告げる

 龍夜たちがその場を離れ、最後にひなが両親の元に花を置く


「私の友達ね、いい人ばっかりなんだよ...?だから、私は大丈夫。2人は安心して眠ってね」


 と言い残し、ひなの家を出た

 家を出ると、ひなはまだ吹っ切ることは出来ずとも、少しだけ元気になっていた

 龍夜は、本当に強い子だひなは、と前の方を歩き、聡を弄るひなを見ながら思う

 今思うと、聡が何故か大荷物で来ていたのが不思議だったが、この為だったのかと、意外と優しい人なんだなと考える

 横を歩いている智咲が、「今はまだきついだろうけど、少しずつ」と言い、その言葉に頷き、少し賑やかさを取り戻した4人は教会へと戻る


 教会に着いたのは、お昼過ぎで、残っていた人達は先に昼ごはんを済ませていた

 帰ってきた途端、みんなはひなに駆け寄り、大丈夫?無理しないでね、などの言葉をかけていた

 鈴音の父親と、蓮見は、鈴音の家から持ってきていたノートパソコンでニュースを見ている


 まだこんな事態になって2日目だが、電気も水道も使えることはありがたい

 もし、この先使えなくなってしまったら、さらに生活が苦しくなるだろう

 そんなことを考えながら、龍夜はニュースを見に2人へ近づく

 龍夜に気づいた蓮見は、これを見てくださいと言い、パソコンを龍夜に向ける


 蓮見が見せたのはリアルタイムで放送されているニュースのチャンネルだった

 崩れたビルに、大量のモンスターと、自衛隊が戦っている、昨日見たような映像だったが、2つ違うことがあった


「これは...」


 その映像には、銃や戦車で戦う自衛隊の横に、格好は自衛隊だが、どう見てもスキルを使って戦っている者たちが映っていた、

 ニュースキャスターも、スキルについて解説しており、龍夜たちがスキルを得た時と変わらない説明をしている、それが1つ目

 2つ目は、このモンスターが現れる現象が、日本だけでなく、世界中で起こっているということだった

 現在確認されている国が、

 日本、アメリカ、中国、イギリス、フランス、韓国、スペイン、オーストラリアの8ヶ国だ


「日本だけでは無かったのですね...」


 蓮見がそう言うと、龍夜たちの動揺に気づいたのか、みんなが駆け寄ってくる

 映像を見て、それぞれの反応を示している


「でも、スキル持ちが増えたら、モンスターとも戦いやすくなるんじゃない?」


 と、雅が映像を見ながら話す

 みんなも同じことを考えていたみたいで、このままいけば、徐々にモンスターの数も減ってくるのではないかと、言う者もいる


 だが、現状、龍夜たちに自衛隊のような強い武器はない

 映像のような大型モンスターが目の前に現れたら、スキルだけでは到底敵わないだろう

 龍夜は、少し考えた後に、覚悟を決めたように、よしっと気合を入れ、みんなに1度集まるようにと指示をする


「これからの方針を決めたいと思うんだ」


 龍夜のその一言で、話し合いが始まった

 映像で見たこと、この2日間のことを思い出しながら、龍夜は話す


 龍夜がみんなに話した内容はこうだ

 自衛隊のような武器がない自分たちは、スキルで身を守るしかない

 レベルアップで感じたように、レベルを上げるとスキルの能力が少しだが上がるということ

 スキルを持っていない人が多いから、その人たちにもスキルを得てほしいということ

 それを踏まえて

 鈴音の両親、双子の英美里と広樹、蓮見にスキルを取得させつつ、龍夜、智咲、ひな、鈴音、雅は、自分たちのレベルを上げて、更にスキルの能力を底上げしたいということだった

 それが、自分たちの身を守ることに繋がる、と。


 龍夜の意見を聞き、少し考えた後に、全員が頷いた

 ひなと鈴音は、やるぞー!と元気に声を上げている

 雅はなにか考え込んでいるようだ

 鈴音の両親は戸惑いながらも、意見には賛成のようで、聡は、蓮見と話している

 智咲はというと、


「じゃあ、リーダーはお兄ちゃんだね」


 と、みんなに聞こえる位の声で龍夜に言った


「は!?なんで俺!?」


 智咲の一言に動揺していると、「龍夜がこの作戦を考えたんでしょ?」と、雅が追い討ちをかける

 それに乗った、ひなと鈴音が「さんせいさんせーい!」と手を挙げて跳ねている

 双子はうんうんと、大きく頷き、

 大人組も、「それでいい」と口を揃えて言っている


「俺には無理だ!第一、高校生に任せるのはどうなんだ!?」


 と、自分には向いていないと、否定をする龍夜

 その龍夜を見て、タバコに火をつけた聡が話す


「この2日間で、お前という人間のことは全部は理解しちゃいねぇが...みんな、お前だから、付いてこれているってのは分かる」


 お前がやれっと言い、煙を吐く聡に、みんなが再び声を上げ、聡の言った言葉を肯定している

 龍夜だからついてこれた、龍夜がいてくれたから、頑張れたなど、

 自分に否定的な龍夜と違って、みんなは龍夜のことを心から信頼しているみたいだった


 みんなの気持ちを聞き、本当に俺でいいのか?と改めて確認する龍夜に、智咲が言う


「みんな、お兄ちゃんがいいんだよ」


 と、

 それを聞くと、龍夜の心に熱い何かがじーんと染み込んできた

 今まで、のんびり、やる気のない生活を過ごしていた龍夜は、こんな俺じゃとか、俺なんかが、と自分の存在にとても否定的だった

 でも、世界は変わり、モンスターが蔓延る恐ろしい世界になってしまったが、その世界で、みんなが自分を頼りにしてくれているということで、今までのままではいけないと気づく。

 龍夜は、みんなが生き残るために...自分がみんなを守れるために...と、今までの自分をぶち壊す覚悟をした


「わかった!!!こんな俺だけど、みんなを守れるように頑張るよ。みんな!ついてきてくれ!!」


 龍夜がそう言うとみんなが笑顔で拍手をする

 この辛く苦しい世界を生き延びようと、新たな覚悟を胸に秘める


 そんな龍夜たちを不敵な笑みで見ている者がいると知らずに

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