Episode 6 助け助けられ

 家族の安否を確かめるために、それぞれの家に向かう龍夜たち

 まずは教会から1番近い、龍夜と智咲の家に向かう事になった

 周囲を警戒しながら、みんなとスキルの話をしながら向かう

 まだ分からないことが多いが、スキルを使った時のお互いの感覚や、反動などの意見交換をし、少しは理解が深まっていた


「見えてきた!あれが俺たちの家だ」


 教会から歩いて15分弱、いつもは短く感じる帰宅路が、とても長く感じた

 向かっている途中に、何度か母さんに電話をかけたけど、繋がらないままだった

 この時間には家に帰ってきているはずだが...


「お兄ちゃん、いこ」


 そう言って俺の手を掴む智咲は、不安からか少し震えていた


「ひなたちは外の見張りを頼む」


 智咲を心配そうに見つめる鈴音たちは、こくりと頷くだけで、俺たちの緊張を感じとってか、何も言うことは無かった


 ゆっくりと家の玄関を開ける

 まだ家を出て半日も経っていないのに、なんだか、とても久しぶりに帰ってきたように感じる


「ひっ!」


 学校のゴブリン騒動からここまでで、智咲から初めて悲鳴が出る


 それもそのはず、玄関から見えるその景色は、壁に引っかき傷が大量にあり、居間へのドアは破壊されてボロボロ、床も所々泥が付いていて黒くなっていて、もうぐちゃぐちゃだ


「お兄ちゃん...」


 不安で震えている智咲が俺の手を強く握る

 考えたくもなかったが、今朝まで綺麗だった自分の家が、見る影もなく、ここまで荒らされているとは

 思ってもいなかった

 不安に押しつぶされそうになりながらも、2人は歩を進める


「とりあえず、母さんたちを探そう」


 居間にキッチン...はだれもいない

 食器棚は倒され、床に割れた皿が散らばっている

 いつも3人でご飯を食べていた机は粉々になり、見る影もなかった

 次に風呂とトイレ、こちらにも誰もいない

 狭い個室なのか、居間と比べるといくらかは綺麗な方だったが、便座は破壊されていた

 次は2階

 探す場所が減っていく事に、龍夜と智咲の顔はどんどん青くなっていき、握る手には、冷や汗が滲み出ていた


 2階右側、龍夜の部屋はかなり荒らされていた

 元々散らかってはいたが、散乱したプリント、破られた教科書、強い勢いで踏まれたであろう、粉々になっているゲーム機、棚まで倒されていて、この状態だと何も探せなかった

 そして、最後は2階左側の智咲の部屋

 2人は顔を見合わし、息を飲み、部屋のドアゆっくり握りしめて開ける


 すると、その緊張を破るかのごとく中から声が聞こえた


「にゃー」


「だいずさん!!!」


 智咲のベッドの下から猫のだいずが出てきた

 その姿を見た瞬間に、智咲は足の踏み場もない部屋を器用にだいずに向かい駆け寄っていく

 しばらく智咲に撫でられて甘えているだいずは嬉しそうに喉を鳴らしている

 見る限り、家の荒らされようとは打って変わって、怪我はしていないようだ

 だいずはおかえりと言わんばかりに、龍夜と智咲に擦り寄るが、ここが最後の部屋だったので、2人の顔は暗くなる

 そう、2人の母親、加藤亜月の姿は家になかったのだ


「だいずさんが無事でよかった。けど、お母さん...」


「家の中を見る限りじゃ、帰ってきた感じはしないな、まだ会社にいるのか?」


 玄関の靴箱にも母さんの靴はなかったし、家は荒らされているだけで、血が付いたりはしていなかった多分帰ってきていないのだろう

 心配だが、他のみんなの家も回らないといけない

 ここで時間をかける訳には行かないよな


 智咲と龍夜はリュックにだいずの餌や、災害時の為に備えていた非常食や水など、本格的に教会へ避難するために必要なものを入れて、変わり果てた自分たちの家を出る


「わぁーーー猫さん!」


 外に出た瞬間、鈴音がだいずさんに食いついた

 だいずさんは人懐っこいので、鈴音の顔をじーっと見ながら気持ちよさそうに撫でられている


「だいずさんです」


 目をキラキラさせてだいずさんを見る鈴音に、智咲が名前を教えてあげている

 今日1番のみんなの気の緩んだ笑顔に、俺まで緊張が解れる

 猫って素晴らしいなまじで


「うちの家の守護神だ、無事でよかったよほんとに」


「それで、亜月おばさんは?」


 心配そうなな顔で聞いてくるひなに、母が帰ってきていないことを伝える

 多分、まだ会社の方にいるのだろうと、付け加えて

 この話を終わらせる


「それじゃ、次はひなの家」


「う、うん、じゃ、皆さんよろしくお願いします!」


 鈴音たちもいるからか、敬語混じりでいうひな

 ひなの家は龍夜たちの家から歩いて5分程の近さだ

 これといった話すことも無く、歩いているとすぐに着いた


「じゃ、行ってくるね」


「おい、ひな。俺も付いていこうか?」


 自分の家に入るだけなのに、先程の龍夜たちと一緒で、表情が曇るひな

 その動きからは、不安なんだとひしひし伝わってくる


「いや!大丈夫!家の中とか見られるの恥ずかしいし!なんかあったら叫ぶね!」


 そう言って走っていき、すぐに家の中に消えていった

 龍夜たちは外で見張りをしながら、ひなは大丈夫だろうかと、話している


「もう20分くらい経つわよ?遅くないかしら」


 雅が心配そうな顔で言う

 ひなの家は龍夜たちと同じくらいのどこにでもあるような普通の一軒家で、2階もあるが、さほど大きくは無い

 家を隅々まで見ているのか、それとも何かあったのか、みんなの表情が固くなる


「じゅ、準備に手間取ってるとかかな?」


「ちょっと俺みてくる」


 龍夜が鈴音の言葉を少し遮るようにそう言って中に入ろうとした途端に、玄関が開いて、ひなが出てきた

 いつもと変わらずニコニコと笑っている

 どこも怪我はなさそうで、心配損だった


「いや、ごめん!待たせました!」


「大丈夫だったか?ひ」


「ほんとごめん!準備に手間取ってさ!いやー、

 色々持っていきたいもの多くて時間かかっちゃった!鈴音さんたちもすみません!」


 龍夜の心配を遮り、何かを隠すようにみんなに駆け寄っていくひなの手は小刻みに震えていた


 幼なじみの龍夜だからこそ分かる、ひなの変化に、中で何かあったのではないかと考えていると、そこに智咲が近づいてきた


「ひな、様子がおかしい」


 10年以上一緒にいる智咲は、ひなが家から出てきた時、一瞬曇った表情をしていたことにすぐ気づいた

 でも、ひなが悟られないように隠しているので、龍夜に報告するだけで、追求しようとはしなかった


「あぁ、でも今は言いたくないみたいだ。後で聞いててくれ」


「わかった。でもその時にはお兄ちゃんも一緒に聞いて」


 智咲とひなは小さい頃から一緒に育ってきたが、性格はほぼ真逆だ

 ひなは、誰かが悩んでいたら、自分から話を聞きにいき、全力でその人の力になるという感じで

 智咲はその逆で、どんなに仲の良い人でも、その人が自分から言ってくれるまで待つタイプなのだ

 全力でその人の力になるというところは一緒なのだが、今は状況が状況だから、ちゃんと話を聞いてこいと龍夜が促すと、智咲もなにか思っているのか、2人で聞こうと言う


 今はひなの兄である琥太もいないし、自分がひなの兄代わりになってあげないとな、と考えつつ、智咲に了解と伝える


 龍夜たちがそんな会話をしている事にも気づいていないひなは、鈴音と雅の近くで元気よく振舞っていて


「さ、次は鈴音さんのお家ですね!早く行きましょ!」


 と、龍夜たちから見たら無理をしているのが分かるくらいの空元気で先を歩いている


「みんなごめんね!私自転車通学だったから、ちょっと遠いんだ...」


 鈴音は、申し訳なさそうに龍夜の顔を見ながらそう言う

 龍夜たちの学校では、自転車通学は、学校まで徒歩で1時間以上かかってしまう生徒だけ決まりがある

 今の時刻は午後4時過ぎ、バスも走っていない今の状況からすると、往復で2時間以上はかかってしまう

 先のニュースで見た通り、多くのモンスターがいる現状、暗くなる前に教会に戻りたいところだが


「大丈夫よ、時間が掛かっても、家族の安全を確かめなきゃ」


 と、雅が言うと俺達も同じ気持ちだと、龍夜たちも頷く


 鈴音の家はひなの家から5キロほど離れているらしく、ここから向かうには、通りにある商店街を通って向かうのが1番近いみたいだ

 商店街は道が狭いから、危険度が少し上がるが、遠回りして、暗くなってからモンスターに遭遇するのと比べたら、リスクは大きく違うだろう


 ゴブリンや、まだ遭遇したことのない他のモンスターにも出くわさないために、より一層周囲を警戒して向かわないといけない


 鈴音の家までの道中、合計で5匹のゴブリンと戦闘になったが、みんなで協力して何とか倒した


 そして、各々にレベルアップをし、鈴音がレベル3、それ以外の、俺、智咲、ひな、雅がレベル4に上がり、無事に鈴音の家まで辿り着いた


「じゃ、外の見張りお願いね!みんな」


 家の前に着くと、鈴音は少し緊張しているのか、苦笑いで龍夜たちに見張りを頼んだ

 先の龍夜たちと同様で、自分の家に入るはずの足は重たい


「鈴音、私も付いていく」


 鈴音が大丈夫だよと断ろうとするが、言い終わる前に雅が強引に引っ張り、2人は家の中へ入っていった

 よほど、鈴音が心配なのだろう

 龍夜たちから見ても、いまの鈴音は、見ただけでわかるほどの怯え方をしていたので、雅も気を使ったのだろう


 龍夜と智咲とひなだけになったので、ひなに話を聞こうとしたが、智咲から帰りも油断出来ないから教会に着いてから聞こうということで止められた

 たしかに、今聞いて帰りの行動に支障が出たら大変だと思い、未だ1人で抱え込んでいるであろうひなに、心の中で謝り、また見張りに力を入れる


 10分くらいして、鈴音と雅と、鈴音の両親が家の中から出てきた。両親はどちらも怪我もなく無事だったようだ

 鈴音は安心してか、泣きながら外に出てきて、両親も心配してたのだろう、涙を流している

 鈴音の両親はどちらとも鈴音に似ていて、髪の色は同じ、父親はメガネをかけていて真面目そうな人で母親は鈴音と似て、とてもフワフワした雰囲気の人だった


「よし、後は教会まで帰るだけだな」


 後はここにいる全員で、鈴音の両親を守りつつ、聡さんたちが待っているであろう教会へと無事に帰ることが目的だ

 空はもうオレンジ色になっていて、そろそろ暗くなってきている


「油断せずにいこう」


 どこぞのテニス漫画みたいなことを智咲が言っているが、龍夜はさっきのゴブリンとの戦闘で少し疲れていて、突っ込む気力はなかった

 代わりにひなが、「そうだね!」と相槌を打っている。自分の言葉の真意が伝わっていない返しだったので、智咲は少ししょぼくれていた


「すまない、本当は大人の私たちが君たちを守らなければならないのに...」


 みんなで周りを警戒しながら歩いていると、鈴音のお父さんが口を開いた

 学校のことを聞いて、顔を青ざめていた両親だが、俺たちがゴブリンと戦えることは、先に雅が説明をしていて納得していたが、やはり、高校生に守られるということは、守る側の大人として歯痒い気持ちがあるのだろう


「気にしないでください。俺たちの方が少しはゴブリンたちと戦い慣れてますから」


 鈴音と雅で両親にスキルのことなども説明したみたいだ

 最初は信じられないって顔をしていたので、俺の《変化》のスキルで実際にものを変化させて見せた

 すると、メガネ付けては外しを繰り返し、顎に手を当て、難しい顔をしていたがなんとか信じてくれたみたいだ


 もしこの先、鈴音の両親にもスキル提供がきて、自分の身は自分で守れるようになったら、まだ幾分か安全になるだろう


 と考えていると、行きでも通った商店街の入口が見えてきた


「おいおい、まじかよ。」


 さっき通った時は、ゴブリンや、他のモンスターには出会わなかったが、商店街の中から、目視で10体以上のゴブリンが走ってきている


 その光景を見て、みんなが足を止める

 まだ見つかってはいない、数が多すぎるので戦闘は避けた方がいい

 中に入っていなくてよかった

 入っていてあの大群に遭遇していたらと考えると

 冷や汗が出てくる


「鈴音、別の道はないか?流石にあそこは危険すぎる」


 あんな所を通っていくとしたら、命知らずなバカだけだ、あの数を、スキルの使えない鈴音の両親を守りながら戦うのは危険すぎる


「あるんだけど、ちょっと教会が遠くなっちゃうんだよね...」


「多少時間が掛かっても、ここは避けるべきでしょうね。あんな大群」


「みんな、行きの戦闘で少し消耗してる。かなり危険」


 みんなの意見も同じだ

 教会に着く前に暗くなってしまうかもしれないが、ここは避けるしかない


 商店街を避けて別ルートへの道に向かおうとしたその時、


「だれかたすけてぇ!!!」


 商店街の方から叫び声が聞こえた


 全員がその声に反応して、商店街の方を見る

 声の聞こえる方を見て、恐ろしいことに気づく

 ゴブリンたちは、ただ走っていたのではなく、逃げている中学生の男女を追いかけていたのだ

 中学生2人は、手を取り合い、泣きながら必死に逃げている

 龍夜たちも追われたことがあるから知っているが、ゴブリンを振り切ることは、普通の人間には不可能だ


 彼らを助けに行きたいが、みんなまで危険に晒してしまうと、龍夜が葛藤している中、横からすごい勢いで人影が通っていく


「おい!!智咲!!」


 そう、智咲だけが、中学生たちの元へ迷いなく走っていた

 必死に叫んで引き留めようとする龍夜を無視し

 智咲はその子たちの所に走っていき、2人を守るようにバリアを張る

 そのバリアに弾かれたゴブリンたちは、すかさず、バリアを破ろうと攻撃を開始する


「みんな!逃げるのは無理だ!戦うぞ!」


 智咲を置いていけないと、龍夜はゴブリンと戦う覚悟を決めて、みんなに指示を出す

 この数では、先の戦闘のような戦い方は厳しいだろうと、今できる、最善の作戦を考える

 龍夜はまず、地面を変化させ、智咲のバリアを包み、二重のバリアを作る

 これで少しは智咲の負担も減るはずだ

 周りにいたゴブリンたちが、地面の壁を壊そうと体をぶつけたり、ひっかいたりしながら攻撃をしている

 いまはまだこちら側に向かってきている奴はいない

 だが、いつまでもバリア付近にいても、倒すことは出来ないので、


「ひな!いまだ!」


「わ、わかった!」


 壁の周りにいるゴブリンを掃討しようとひなに声をかけ、雷を落としてもらうが

 行きの戦闘での疲れか、雷は威力がかなり落ちていて、ゴブリンたちを倒すまでにはいかなかった


 雷で少し焦げたゴブリンたちがこちらに気づいて、立ち上がり走ってくる

 ここまで、全て龍夜の作戦通り

 そのゴブリンたちが走っている地面を沼に変化させ、ゴブリンが腰まで浸かったところで、地面を元に戻し、動きを封じる

 動けなくなったゴブリンたちを雅が剣で切り裂いていく

 大きな広さの地面を変化させたので、体力もかなり持っていかれた

 だが、これで、奴らの数はかなり減った

 この作戦なら、数の差はあるがいけるぞ、と龍夜が思っていた時


「鈴音!危ない!!!」


 鈴音の父の声が聞こえ、後ろを振り返ると、ゴブリンが鈴音に飛びかかろうとしていた

 先頭でゴブリンと戦っている雅は気づいていない

 鈴音を守ろうとした鈴音の父がゴブリンに引っかかれて腕から血が飛び散る


「ぐあぁ!!!」


「いやぁ!!!!お父さん!!!」


 目の前に飛び散る父親の血に鈴音の顔が真っ青になる

 倒れている鈴音の父にゴブリンが飛びかかる


「やめろぉぉ!!!!」


 龍夜はとっさに、地面を槍状に変化させ、それをゴブリンに突き刺す

 ゴブリンの口と腹から血が吹き出して、激しく抵抗したあと、そのまま動かなくなった


「お父さん!!!お父さん!!!」


 鈴音は泣きながら、腕から血を流している父に治癒を施している

 鈴音の父親は腕はちぎられていないものの、傷が少し深いのか、気絶していた


「返事して!!貴方!!貴方!!」


 龍夜は、鈴音たちを心配しながらも、考えていた


 なんでだ?どうして後ろから急に?

 アイツらは商店街から真っ直ぐ俺たちの方に向かってきていた。後ろに回り込むゴブリンなんて居なかったし、それを雅が取り逃がすなんてことはありえない


 と、考えていると


 ピコンッ


 と、多少は聞きなれたゲーム音が鳴った


 龍夜は、またレベルアップか?と思い、表示された画面を見る


 ┌──────────────────┐

  スキルを奪取しました


 奪取したスキル⇒《隠密(セギュレット)》

 └──────────────────┘


 スキルを奪取...?

 奪ったってことか?

 どういう事だ?

 俺のスキルは《変化》のスキルしかない

 スキルを奪う能力なんて...


 隠密...アイツはいきなり後ろから現れたように見えた、まさか!

 アイツが隠密のスキルを持っていたのか?

 それで、アイツを倒したからスキルを奪ったってことか?


 龍夜の考えていることは正しかった

 いままで、龍夜たちが戦ってきたゴブリンたちは、普通のゴブリン

 だが、今龍夜が倒したゴブリンは、所謂レアモンスターで、スキルを持っていた


 レアモンスターは、各自それぞれなにかしらのスキルを持っていて、そのモンスターを倒したプレイヤーに、モンスターが所有していたスキルが譲渡されるのだ


「龍夜くん!!どうしよう!!お父さんが!!」


 鈴音の声にふと我に返った

 考え込んでる暇は無い、今はこの状況を切り抜けなければ


「鈴音はお父さんを治癒してあげて!ひなは鈴音たちを頼む!俺は雅と一緒に智咲たちを助けに行く!」


 智咲たちの所には、ゴブリンがあと5匹残っている

 地面で作った壁があるから智咲たちは大丈夫だろうけど、さっきのやつみたいなスキル持ちがいるかもしれない

 どんなスキルを持ってるやつがいるか分からない以上、早く倒さないと


 龍夜は再び、地面を槍状に変化させ、雅と協力して

 残りのゴブリンたちを倒していった

 レベルが上がっていっているおかげか、自分の体が軽く感じる

 幸いにも、残りのゴブリンたちにスキル持ちはいなかった


「はぁ、はぁ、よし、これで全部だな」


「数は多かったけど、意外と戦えたわね。便利すぎない?龍夜の能力」


「はぁ、俺自身も自分のスキルの便利さに驚いてるよ」


 息を切らしている俺の横で、息切れ1つなく立っている雅が褒めてくれていた


 龍夜自身、スキルを使っていけばいくほど、レベルアップでどんどん変化できる幅が広くなってきていることに気づいた

 レベルを上げていくと、もっと色んなことが出来るようになりそうだ


「鈴音のお父さんが怪我しちまった。雅は鈴音のところに行ってくれ」


 途中でゴブリンを引き付けてくれていた雅は、鈴音のお父さんの状態に気づいていなかったのか、急いで鈴音の元に向かう

 周りにモンスターがいないことを再確認して、俺は智咲たちの上に被せていた壁を変化させて元の地面に戻す


「智咲!!大丈夫か!!」


「平気、この子達も無事だよ。お兄ちゃん」


 怪我はないようでよかった

 バリアを解除して中学生2人の無事を報告してくれる智咲に近づいてデコピンをする


「智咲、お前は無茶しすぎだ。今回は本当に危なかったんだぞ?鈴音のお父さんだって怪我をした」


 龍夜がそう言うと、智咲は顔を青くして俯く

 龍夜も、智咲がこの子達を助けたくて飛び出したのは理解しているが、心配だからこそ、無茶はして欲しくないという思いが強い


「ごめんなさい。」


 智咲は、自分の身勝手な行動で怪我人が出てしまったことに責任を感じて、俯いたまま泣きそうな声で言う


「次から無茶はするな。ちゃんと俺に言いなさい!

 鈴音にも、鈴音の両親にも後で謝ろうな。一緒に」


「うん...ありがとう。お兄ちゃん」


 一緒に、と言った龍夜を、顔を上げて見つめる智咲

 まだ表情は曇ったままだけど、智咲の行動で救われた命があるということを忘れてはいけない

 無茶をしたことは怒らないといけないが、我が妹ながら立派な行動だと龍夜は思っていた


「智咲さん?っていうんですか?助けてくれて本当にありがとうございます」

「ありがとうございます」


 智咲が助けた中学生2人が、お礼を言う

 ん?なんかこの2人顔そっくりだなー?


「私たち双子なんです。私は姉の水原英美里みずはらえみりです」

「僕は弟の広樹ひろきです」


 ――――――――――――――――――――

【水原英美里(みずはらえみり)】

(年齢)14歳

(好きな食べ物)メロンパン

(特技)パン作り

 商店街のパン屋さんの子供で、双子の姉

 髪は銀髪で後ろ髪を下に緩く束ねている

 弟とは仲が良くいつも一緒に行動している

 見た目にしては少し大人びていて

 礼儀正しいしっかりした子

 よく、両親のパン屋を手伝っていたからか、可愛い看板娘として商店街では有名である


【水原広樹(みずはらひろき)】

(年齢)14歳

(好きな食べ物)マカロン

(特技)お菓子作り

 商店街のパン屋さんの子供で、双子の弟

 姉と同じく銀髪で、マッシュ

 引っ込み思案でいつも姉に引っ付いて行動している

 だが、とても努力家で、自分の好きなことに対しては寝るのを忘れるくらい夢中で取り組む

 からかわれるのが苦手で、限界を超えたいじりをすると物凄いキレる


 助けてくれた智咲に一目惚れをしてしまう

 ――――――――――――――――――――


 俺が思っていた疑問に答えてくれるように2人が自己紹介をしてくれる

 ついでにもう1つの疑問にも答えてもらおう


「2人はどうしてあんなに大量のゴブリンに襲われていたんだ?」


 龍夜が2人にに聞くと、2人は同時に顔を俯かせた

 少しの沈黙の後、姉の英美里ちゃんが話すことを躊躇っているのか重々しく口を開いた


「私たちここの商店街に住んでたんです。

 親がパン屋さんをしてて。」


 そう言った英美里ちゃんは涙を流し始めて

 これまでの事を話してくれた


 ニュースを見てモンスターのことに気づき、両親と一緒に逃げる準備をしていた時に家の中にゴブリンが入ってきたらしい

 襲われそうになった広樹くんをお父さんが庇って殺されてしまった

 このまま殺されるのかと思ったが、母親が2人を急いで家から出して、その場から逃げ、3人で商店街を抜けようと走っていたら、運悪く、龍夜たちが倒したさっきの大群に出くわして、2人を逃がそうとした母親も殺されてしまったらしい

 そのからは死に物狂いでここまで入って逃げていた...と。


「そうか...」


 2人のここまでの話を聞いて、龍夜は言葉が出なかった

 目の前で父親が殺され、一緒に逃げていた母親まで殺されて...

 自分たちも逃げていたが、殺される寸前まで追い詰められたなんて

 この子達は今、どんだけ苦しいか、泣きたいだろうか

 出会ったばかりの龍夜には図りきれないほどの辛い出来事が、この短時間で起こってしまっていた


「英美里ちゃん、広樹くん。俺たち今から教会に避難するところなんだ。良かったら2人も一緒に来ないかい?」


 今の2人には、龍夜はこんなことしか言えなかった

 どうだろうか、と再び聞き、2人の返事を不安ながらに待っていると


「大丈夫。英美里も広樹も私が守るよ。絶対」


 智咲がそう一言だけ言って2人を抱きしめる

 すると、今まで我慢していたのか、2人が大声で泣き出す


「うわぁぁぁん!!お父さんお母さん!!」

「ひっぐ、いやだよぉ、いやだよぉ!」


 そんな2人を智咲は何も話さず、ぎゅっと抱きしめている

 そうか、その一言だけで良かったんだ。

 智咲がこの2人の心を繋いでくれた

 命懸けで2人を守った智咲だからこそ、今の一言で心を許して、安心できたのかもしれない


 その光景を見ることしか出来なかった俺に、雅が声をかける


「龍夜、そろそろ急いだ方がいい。暗くなってきてる」


 そうか、色々ありすぎて時間を忘れていてしまった

 スマホを確認して時間を見るともう18時過ぎ、聡さんから「こっちは問題なし」というメッセージも送られてきていた


 鈴音の父も丁度目を覚ましたみたいだ

 鈴音のお陰で怪我は完治していたが、血が抜けすぎたのか立つのがキツイらしい。龍夜が肩を貸すことになった

 新しい仲間を加えて、龍夜たちは教会へと戻ることになった

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