Episode 4 教会の神父さん

「みなさん!こっちです!!」


 ゴブリンに追われながらも、声の主を確認すると、教会の入口に神父さんが立っていた


「龍夜どうする!?」


 ひなが聞く

 丁度いい。神父さんが居るということは逃げ込めば、教会の鍵を閉めて、そこで立て篭もれる

 少しは時間稼ぎになるはず


「みんな、行くよ」


 ひなに返事を返す間もなく、智咲がみんなに合図を出す

 先のことは、とりあえず中に入って逃げ切ってから考えよう


「神父さん!!入ったらすぐドアを閉めてください!!」


 俺の言葉を聞いて、神父さんが頷く

 ゴブリンはもうすぐそこまで迫ってきている

 だが、この距離なら間に合う

 鈴音と雅、ひなと智咲と俺の順で教会の扉をくぐり抜ける

 俺が入った瞬間と同時に、神父さんが2人がかりで

 扉を閉める

 中にも1人居たのか、どちらも男の人だ


 俺のギリギリ後ろに飛び込んできていたのか、ドアに思い切りぶつかっていた

 怒っているのか扉を強く叩いているが、この分厚い扉なら、さすがのゴブリンでも簡単には壊せないだろう

 俺たちは、息を切らしながら、少しの安堵感を持ち、その場に座り込み、神父さんたちにお礼を言う

 鈴音とひなは、ヘトヘトと言わんばかりに床に横になっていた

 さすがに疲れたのか、雅ですら、壁に持たれかかっている


「いやぁ、無事でよかった、怪我はないかい?」


 そう言って俺たちに近づいてきた神父さんは、登校の時によく見る白髪の顔は30代前半くらいの優しそうなおじさんだ


「はぁ、はぁ、はい。おかげで助かりました。」


 まだ整っていない息を落ち着かせようとしながら

 神父さんに返事をする

 スキルの影響か、全然息が整わない


「いやぁ、あれがゴブリンか。ファンタジーというより、ホラー感が強いな」


 白髪の神父さんの横にいた、黒髪短髪の顎髭を生やした、とても聖職者とは思えない出で立ちの神父さんが冗談交じりで話している

 それより、あれがゴブリンかって、この人たちはゴブリンを知っていたのか?


「君たちは、上野部かみのべ高校の学生さんだね?」


 白髪の神父さんが俺たちの制服姿を確認して聞いてくる

 教会は、俺たちの高校の通学路にもなっているので、この制服には見慣れているだろう


「はい、学校がゴブリンに襲われてしまって。私たちは逃げて帰ってる途中だったんです。それでアイツに出くわして」


 学校の生徒はほとんど殺されました、と付け加えて教会の椅子を背もたれにしながら、汗を拭いている雅が答える


「それは大変だったなぁ、ガキ共。」


 口の悪い顎髭の神父さんがタバコを吸いながら言う

 教会の中でタバコを吸うなんて、やっぱり聖職者じゃないんじゃ...

 と、失礼なことを思っていたら


「あぁ、そうそう。自己紹介がまだだったね

 私は【蓮見圭吾(はすみけいご)】ここの教会の神父だよ」


「おいおい、自己紹介なんてしてる暇か?

 まあいいや、俺は【鏑木聡(かぶらぎさとし)】」


 学校の惨劇を思い出して、気分が落ち込んでいる俺たちを気にしてか、白髪の神父さん、顎髭の神父さんの順で自己紹介をしてくれた


 ――――――――――――――――――――

【蓮見圭吾(はすみけいご)】

(年齢)38歳

(好きな食べ物)饅頭

(特技)手品

 白髪の優しそうな顔の神父さん

 顔は若く見えるが意外と歳をとっている

 龍夜たちの高校の近くの教会で、様々な人の相談を受けているので、近くの住民からは人気が高い

 得意の手品で、近所の子供たちのハートを掴んでいて、見かける度にやらされるのでそろそろネタが尽きてきている


【鏑木聡(かぶらぎさとし)】

(年齢)24歳

(好きな食べ物)酒に合うものならなんでも

(特技)ギャンブル

 黒髪の短髪で、顎髭を生やしたワイルド系の神父さん、

 小さい頃に蓮見に拾われてから恩を感じて神父をしているが、その見た目や、素行の悪さから、近所の人たちには避けられているので、神父としての仕事は掃除しかない

 よく周りを見ていて、人の表情をみて、調子の良さや悪さを見分けることができる

 酒とタバコが好き

 ――――――――――――――――――――


 お互いの自己紹介が終わったと同時に

 静かだった教会から、パリーーーーンッと

 ガラスの割れる音が響いた

 ゴブリンは、ドアがダメだとすぐ理解し、教会の上の方に行き、窓を割って侵入してきたのだ

 しかも、3体に増えて


 ギィエェェ!!!


 見つけたぞと言わんばかりに、こちらに向かって叫んでいるゴブリンに神父さんたちも狼狽えている

 神父さんたちがゴブリンを知っているかのような口調だったので、そのことについて詳しく聞きたかったが、

 ゴブリンはそんな時間は与えてくれないらしい


「くそ!!数が増えてる!!1体でもきつかったのに、3体なんて」


 学校での戦闘の時は、1体だけだから、上手く立ち回れて、怪我もなく倒すことは出来たが

 同時に3体を相手にするとなると、疲労も溜まった今の状態じゃ、かなり厳しいだろう


「な、なんておぞましき姿!!」


「実物は迫力やばいな。ありゃガチのバケモンだな」


 顎髭の神父さん、もとい、聡さんはやっぱりゴブリンについて何か知っていそうだ

 ここを無事に切り抜けて話を聞かないとな


「みんな、こっちに来て!」


 戦闘は避けられない、と覚悟を決めていると、智咲が俺たち全員を呼んだ

 そうか!智咲のバリアならまだ安全に攻撃が出来るかもしれない


 智咲の言葉を聞いて、みんなが智咲に集まる

 ゴブリンが飛び掛ろうとする前に智咲は手を握りしめバリアを展開した


 グゲェェェェ!!


 バリアのタイミングが良かったのか、飛びかかってきていたゴブリンは弾かれ、悔しそうにこちらを見つめている


「な、なんだこれは!?神の力か!!」


「バリアか?触っても痛くねぇな」


 怖いもの知らずなのか、智咲のバリアを平気で触って、自分の手を眺めている聡


 凄いな聡さん、初見でバリアを触ったりするなんて

 俺でもできないぞそんなこと


 智咲のバリアは、中に入ることを拒むだけで、触れたとしても害はないのだ


「うっ!」


「智咲!!大丈夫か!?」


 さすがに、3体がかりの攻撃だと負担が大きいのかバリアを維持することがきついみたいだ

 智咲は苦しそうな顔をしている

 これは学校の時よりモタモタしてられないな


「大丈夫、それよりゴブリンをどうにかして」


 智咲のバリアのおかげでこちら側にゴブリンが来られないが、時間をかけすぎると智咲の限界が来てバリアを破られてしまう


 どうしたらいい、考えろ、考えろ、


 龍夜は、自分と智咲、それにひなのスキルを思い出し、この場を切り抜けるために思考を巡らす


 俺のスキルは《変化》、ゴブリンは目の前にいるから、学校の時のような大きさと重さに頼った作戦は使えない

 智咲はバリアを維持するので限界。早くしないと破られる可能性が高い

 ひなのスキルは、雷を落とすことだが、さっき見たような威力じゃゴブリンを倒せるか分からない


 いや、待てよ?


「ひな!俺が地面を変化させてゴブリンたちの動きを止める!!その瞬間アイツらの頭上に雷を落としてくれ!」


「ちょ、ちょっとまってよ!!そんなピンポイントに落とせないわよ!!さっきの見てたでしょ!?」


 いや、大丈夫だ

 さっきのひなは無意識下で雷を落としていた

 俺の《変化》も、智咲の《守護》も念じることで、その力を発揮する

 だとしたら、ひなの雷の力も念じたところに落とせるはずだし、威力も上がるはず


「いいから頼む!!思いっきり念じるんだ!!」


 そして、智咲とひなが言っていたあの言葉が頭をよぎる

 俺の考えが正しければ...


「鈴音!!雅!!一緒にアイツらを倒すぞ!!」


 パーティーメンバー


 そう、同じ目的を持つことで、智咲とひなにはスキルが提供された

 その時と同じで、鈴音と雅が答えてくれたら、2人にももしかしたら


「え、え!?私たちも!?よ、よくわかんないけど、て、手伝うよ!!」


「アイツらを倒さなきゃ殺されるんだから、やれる事はやるわ!」


 よし!これでアイツらを倒すことが出来たら、鈴音と雅にもスキルが提供されるはず

 なにがスキル提供に繋がるか分からないから、賭けになってしまうけど


「おい、ガキ。なにかアイツらを倒す作戦があるのか?あるなら、俺も手伝う」


 地面を変化させようとしている俺の横に聡さんがきてそう言った

 さすがに今はスキルを持っていない聡さんには頼れないけど、その言葉であるいは


「ありがとうございます!」


 そう返事だけをして、俺は、目の前にいる1体のゴブリンの周りを変化させた地面で囲み、その地面を筒状に伸ばしゴブリンが出られないように壁を高くして閉じ込める

 この能力は、指が触れているものなら、地面だって変化させられるようだ

 実験だったが、上手くいったようでなによりだ


「ひな!!今だ!!!」


「あーーもう!!どうにでもなれー!!!」


 ドゴーーーン!!!


 龍夜が作った筒状の壁の上から雷が落ちる

 その雷は、周りの空気を振動させるほどの破壊力だった

 龍夜の予想通り無意識下で出してしまった雷の比にならないくらいの威力だ


 おいおい、念じたらここまでの威力になるのかよ

 強すぎだろ


 雷の勢いで、作っていた壁が崩れる

 地面で作った壁をも壊すほどの威力に驚きを隠しきれない

 崩れた壁が全て消えるとそこには真っ黒に焦げたゴブリンが倒れていた


「よし!!!!成功だ!!!」


「え、え?倒した??私が??」


 周りとゴブリンを交互に見ながら、ひなはそわそわしている

 倒れたゴブリンは全く動く気配がない

 多分死んだのだろう、これでもしかしたら


 ピコンッ


 頭の中でゲーム音が鳴った、ん?

 反応したのは、蓮見さん以外のみんなだった


 なんで、俺まで?


 そう考えながら、自分の目の前をみると、学校の時に見たウインドウが表示されていたが、あの時とは少し違っていた

 そこにはLv upと書かれていた


「レベルアップ?」


 俺が画面に表示されている文字に不思議そうな顔をしていると、バリアを張っている智咲から


「お兄ちゃん!もう持たない、早くっ」


 と、腕を震わせながら苦しそうな言葉がとんできた

 そろそろ限界のようだ。急がないと、


「悪い、智咲!!ひな!もう1回だ!!」


「う、うん!!」


 ひなに合図を送り、残り2体になったゴブリンの内

 1体をまた閉じこめる

 さっきの作戦でもう一度いけるはずだ


「いっけぇーー!!!」


 ひなの叫び声と共に壁の上から再び大きな雷が落ちる

 先程よりも少し威力が弱まっているように見えたけど、使う度に威力が落ちるのか?


 雷が落ちて、壁が砕けると同時に、智咲のバリアが砕けた

 くそ、間に合わなかった!

 バリアを張っているのが智咲だと気づいた残りのゴブリンが、真っ直ぐに智咲に向かっていく


「智咲!!!逃げろ!!!」


 バリアを張ることに力を使っていて、フラフラになっている智咲にゴブリンが飛び掛かる


「智咲ぁー!!!!!!」


 智咲に届くはずのない手を伸ばし、叫んだ瞬間


 ガキンッ


 智咲の目の前にまで来ていたゴブリンが、後ろへと飛んでいった

 なんだ?何が起こった?


「間に合ってよかったわ」


 智咲の前には刃が細く、うっすらと紫に光っている剣を持った、雅が立っていた


「雅...さん?」


 智咲が何が起こったか分からないという表情で、雅の名前を呼ぶ

 まさか...


「雅、まさかそれは...」


 そう、雅は、龍夜の思惑通りに手に入れていたのである


 スキルを。


「ええ、龍夜たちの話を聞いてたから、迷わず選ぶことが出来たわ」


 そう言って智咲の前に立つ彼女は、異世界漫画によく出てくる、騎士の様だった


 ゴブリンが起き上がってくる

 弾き飛ばされただけで、まだ死んではいなかったみたいだ

 雅は、再び向かってくるゴブリンに視線を移し、こちらを見ずに言う


「そこで見てなさい。私のスキル《剣技(スパーダ)》を」


 それだけ言い、雅は迫り来るゴブリンを一瞬で、返り血も浴びずにバラバラに切り裂いた

 その剣さばきはとても美しく

 その光景は、本当に騎士そのものだった


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