一一章 エネルギー無料!
「ここの畑レストランはすごいよ。ただ、その畑でとれたものを使っているっていうんじゃなくて、畑そのものがレストランなんだ」
「畑そのものがレストラン? どういう意味?」
キョトンとして尋ねるあたしに、
「ほらここ。ズラッと丈の低い果樹が並んでるでしょ」
「あ、うん、そうね」
「このフェンス代わりの果樹で囲まれた区画が丸ごと畑レストランなんだ。入場料さえ払えば、このなかの野菜や果物は全部、食べ放題なんだよ」
「食べ放題⁉」
食べ放題。
その一言に、あたしの目がギラリと光る。
「もちろん、ちゃんとしたレストランもあって、料理も食べられるけどね。とにかく、なかに入ってみよう」
あたしは
「食べ放題でお客を誘って、レストランの料理て稼ぐ……っていう戦略だからね。入場料はあえて低く抑えてあるんだよ」
なるほど、納得。
とにかく、あたしと
大地を埋め尽くす一面の緑。そよそよとさわやかな風が吹き、野菜たちが揺れている。優しい緑色とその動き。空の青とのコントラスト。ここに立ってあたりを眺めているだけで目が良くなっていきそうな、そんな場所。
畑のなかにはあたしたちの胸ぐらいまである大きな土のベッドがズラッと並び、その上で野菜が育てられ、そこかしこに大きな木も植えられている。ベッドとベッドの間の通路はたっぷり広くとられていて、歩いていても狭苦しさは全然、感じない。その通路にも色々な草がいっぱいに生えていて、その上をニワトリやガチョウ、小さなヒツジなんかがチョコチョコ歩いて地面を突っついたり、草を食んだりしている。
――か、かわいい……!
その光景にあたしは思わず震えてしまった。
お尻をフリフリ振りながら連れだって歩くガチョウたちのかわいいこと! そして、ヒツジのもふもふ具合! いやもう、たまらない!
ラノベ世界で皆がみんな、異世界転生してもふもふ相手にスローライフしたがる気持ちが心の底からわかった。って言うか、ソーラーシステムを作れば、現実世界でもふもふ相手のスローライフが楽しめるってことよね? もう、それだけで
「とにかく、レストランに行って料理を注文しようよ。店内でも食べられるけど、今日は天気がいいから外で食べた方がいいよね」
ぐぐう~。
あたしのお腹は恐ろしく大きな音を立てて鳴っていた。その音のあまりの大きさに
あたしと
畑のなかのレストランに向かうとそこは二階建てのけっこう大きな建物でなるほど、店内にはテーブル席が用意されている。でも、畑のなかにもテーブル席が用意されていて、そっちで食べてもかまわないとのこと。
「ええと、なににしようかな?」
せっかく、こんな素敵なところで食べられるんだからおいしいものを思いきり食べたいけど、懐具合とも相談しなきゃならないし……。
「メニューはいろいろあるけど、せっかく
「ふぁいからセット? なにそれ?」
「ふぁいからりーふの五人をイメージしたセットだよ。ここの看板メニューなんだ。はい、これ」
って、
ゴクリ、と、写真を見た途端、あたしの喉ははしたないぐらい大きく鳴った。だって、それぐらいおいしそうなんだもの!
どれも本当においしそうだし、これならぜひ、食べてみたい。でも、お値段が……。
気になるのはやっぱり、その点。こういう場所の料理は高いのが普通だし、中学生の懐具合では……。
あたしは、そう思って怖々と値段を確認した。そこに記された数字を確認した途端、あたしは目を丸くして驚いた。
安い!
安すぎる!
テーマパークの料理なんて常識からは考えられないぐらい高いのがお約束なのに、ここのはメチャクチャ安い。近所のファミレスより安いぐらい。
「なんで、こんなに安いの?」
あたしは思わず
「そりゃあ、ここでは光熱費も水道代もタダだから。その分、料理も安いんだよ」
「水道代も?」
「うん。ここでは、ファンが課金したお金で太陽電池を買って、それでエネルギーを賄っているわけだけど、太陽電池だけだと天候次第で発電量がかわっちゃうから不安定だからね。だからまず、太陽電池で発電した電気を使って水を電気分解して水素を作って、その水素を使って燃料電池で発電してるんだ。水素なら溜めておけるから天候に関係なく発電できるからね」
「……なるほど」
「そして、燃料電池は発電するときに水も生む。その水をまず料理や生活用水に使って、排水を浄化して農業用水に利用。農業廃水はやっぱり浄化されて溜め池に溜められて、その水を電気分解して再び、水素に。そして、また、燃料電池で発電……っていうサイクルが敷地内でできあがってるんだ。大本のエネルギーである太陽は完全にタダだし、太陽電池や燃料電池といった設備は全部、ファンが課金したお金で買われている。だから、ソーラーシステムでは水も、電気も、熱も、全部タダなんだよ」
「……なるほど。水道代も光熱費もタダなんて夢みたいね」
あたしは思わず真顔になって呟いた。うちではママがしょっちゅう『光熱費がどんどん値上がりするから大変!』って、こぼしているから切実なのだ。
「夢なんかじゃないよ。僕たちだって、自分たちのソーラーシステムを作るんだから。そうしたら、水も、電気も、熱も、全部タダの暮らしができるよ」
「……それは、あたしが
「だいじょうぶ!
……また、そういう根拠のない自信を。
でも、そう言いきる
とにかく、あたしたちはふぁいからセットをふたり分、注文して外に出た。畑のなかにぽつぽつと置かれているテーブル席のうち、空いているものを見つけて、そこに料理を置く。それから、ふたりしてその辺をまわって好みの野菜をチョコチョコ摘んで戻ってくる。ふぁいからセットに採りたて野菜のサラダも添えて、さあ、召しあがれ!
「おいしい!」
一口、食べたとたん、あたしは叫んだ。野菜の旨味も、卵のコクも、いままで食べたことがないぐらい。そこに、朝からつづく空腹も重なってものすごくおいしい!
おまけに、さわやかな春の晴天のもと、緑の広がる畑のなか、動物たちに囲まれ、心地良い風に吹かれながらときたら、これはもう天国だわ。って言うか、『トラックに轢かれて異世界転生しました』って言われても信じちゃうレベル。まさか、現実世界にこんな場所があったとは。
世界って素晴らしい!
「ああ、もう夢みたい! こんなところで暮らせたらなあ」
あたしは思わずそう呟いていた。それはもちろん『夢』というやつで、本当にこんなところで暮らせるなんて思っていたわけじゃない。なにしろ、ここはテーマパークであって住宅地じゃないんだから。
でも、
「暮らせるよ」
「暮らせるの⁉」
「うん。ここには『応援ハウス』もあるからね」
「応援ハウス? なにそれ?」
「応援ハウスに関しては僕が説明するより、これを読んでもらった方が早いと思うよ」
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