三章 太陽ドル!
……なんて言うか。
すごかった。
これが、ドルヲタ。噂には聞いていたけどたしかにすごい。これはまちがいなく、あたしたち(一般人)とは、出身惑星からしてちがう生き物だわ。
で、まあ、『のび太』があたしになにを言ったかっていうと、
「僕はソーラーシステムの経営者になる! この岐阜の地に
って言うことなんだけど……。
「……バカじゃないの?」
あたしは思わず、そう呟いた。
それ以外、なにを言えっていうの? 『のび太』が、あの見た目も悪くて成績も悪い『のび太』が経営者? 起業するっていうの? そんなの無理に決まってるじゃない。起業なんていうのは、一流大学を出た頭の良い人たちがするものでしょうに。
いやまあ、それはいい。夢を見るのは本人の勝手。それよりなにより――。
「あたしがアイドル? バカ言わないでよ」
そりゃあね。あたしだって自分がかわいい方だってことぐらいわかってる。女の子だし、アイドルに対する憧れだってないわけでもない。大勢のファンの前で思いきり唄って、踊って、チヤホヤされたらそりゃあ気持ちいいでしょうよ。
でも、アイドルって『ちょっとばかり』かわいいぐらいでなれるものではないでしょう? それこそ、特別に選ばれた『なにか』をもっている人でなくちゃ。
「岐阜なんていう田舎の県の、そのまた山奥に住んでいる『ちょっとかわいい』だけの女の子がなれるわけないじゃない」
あたしはそう言いながらスマホを操作して、ふぁいからりーふとやらの動画を映した。
「ふぁいからりーふ。神奈川県
あたしはふぁいからりーふの動画を見ながら、紹介文を読みあげた。
スマホの小さな画面のなかではあたしより少し年上の女の子たちがステージ衣装に身を包み、舞台の上で唄い、踊っている。色とりどりの光に照らされて、多くのファンの声援に包まれながら。
クールな顔して実はアツかったりする
つれないようでもほんとは優しかったりもして
いつもおとなぶってて厳しいくせに
子どもみたいに笑うとかマジで反則
『おれが世界をかえる』なんてデカいこと言ってて
ほんとにそのため行動している
そんな姿を見せられてたら
好きになっちゃうじゃないの
あんたの責任 覚悟しなさい
女の子が本気になったら男に拒否権なんてないんだって
思い知らせてあげる
必ずあんたを落としてみせる!
スマホの画面からふぁいからりーふの歌声が流れてくる。
唄って、踊る、その姿のかっこいいこと!
とくに『マジで反則』のところでセンターの赤葉が片目をつぶって笑うところがメチャクチャかわいくて、思わずドキッとしちゃったほど。
――これなら、男の人たちが好きになっちゃうのもわかるわあ。
あたしは心の底から納得した。なにしろ、女子であるあたしでさえ思わず恋しちゃいそうになるほど、素敵な笑顔だったから。
「ほら、見なさい。みんな、すごいかわいし、キラキラしている。こういうのがアイドルってものでしょうが。あたしなんかがなれるわけないじゃない。
えっ? これが
これやっぱり、歌詞もダンスもまちがってたのね。って、なんか、
ええっ~! しかも、なに?
あたしのなかでなにかが、ガラガラと音を立てて崩れていった。それまで『手の届くはずのない偶像』だったアイドルがなにか急に、手の届く身近な存在に思えてきた。
――他の四人はともかく、
「……
そう思うのはまちがい?
素人の勘違い?
でも――。
あたしは立ちあがった。ふぁいからりーふの振り付けを思い出しながら自分でも踊ってみた。素人だってダンス部のエース。動きを真似るぐらいわけはない!
「必ずあんたを、落としてみせ~る!」
ふぁいからりーふを真似て片目をつぶった笑顔を浮かべ、前に向かってビシッ! と指さしたあたしの目の前。そこに――。
「ギャアアアアアッ!」
「ウワアアアアアッ!」
あたしが叫ぶと、
「なに、叫んでるの⁉」
「
「どうしたの、いったい? なにがあったの?」
「
「
「あ、ああ、そうなんだ……」
わざわざまってくれているなんて、
「それで、そろそろ終わった頃かと思って様子見に来てみたら、なんかノリノリで唄って、ポーズまでつけてるし……。なにかあったの?」
あたしは耳まで真っ赤になった。
あたしは
「ふうん。なるほど。それで、『
「う、うん……」
あたしは耳まで真っ赤にしたまま身をちぢこませてうなずいた。
ああ、まったく! よりによってあんなところを人に見られるなんて。
もう、死んじゃってたかも知れない。
それぐらい、恥ずかしい。
「ふうん、なるほどね」
って、
「この端っこの地味っ娘が
「でしょ⁉ だから、あたしもつい、その気になっちゃって……」
勢い込んでつめよるあたしを、
「気持ちはわかるけど……」って、
「その気になっちゃダメだよ。
「そ、それはわかってる……けど」
スクールカースト。
また、スクールカースト。
あたしたちって、スクールカーストの順位を競うために中学生やってるわけ?
「それに、その話だと、アイドルになった場合、『のび太』と仕事仲間になるってことでしょ? 『のび太』なんかと行動してたら、それこそ最下位転落確定だよ」
「わ、わかってる……! あたしだってバカじゃないんだから。自分がアイドルになれっこないぐらいわかってるって。それより、もう帰らなくちゃ。着替えるから外に出てて!」
あたしは
扉に背中を預けて溜め息をついた。
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