5-8

戦乱の終息は、早かった。



燃やされたエルシードの国旗と、新たに掲げられた、解放軍の旗。

城外にいる兵たちが、戦いを止めて静まり返る。



兵たちの視線は、炎に包まれる国旗に集まる。

そして……



燃え盛る国旗が見える、屋上部分に現れたのは……。





「お辛い気持ちもわかります。でも……これは、あなたにしか出来ない仕事です。あなたの力で、このエルシードを救うのです。カミュー様の遺志を、継ぐのです……。」




……エルザだった。




「おぉ……エルザ様だ!!」


「無事、だったのか!!」


「エルザ様が無事なら……我々の戦う意味は……?」


「俺達、何のために戦っているのだろうか……?」



エルザの存在感は絶大。

みな、眼前のエルザの姿に目を奪われた。



「皆……聞いて欲しい。私の未熟さ、力の無さで、諸君には辛い思いをさせた。この内乱の全ての原因は私にある。どうか……許してほしい。この通りだ。」



エルザが、深々と頭を下げる。

静まり返ったままの兵たち。


静寂が、緊張感を生む。



(カミューよ……どうか、力を貸してくれ……。)



エルザの白銀の鎧。

襟元に2つ並んだ騎士勲章を指で撫で、目を閉じる。

そして……



「責めも謗りも甘んじて受けよう!!私は……いや、私たちはこの痛みを忘れてはならない!!地位と名誉にしがみつき、利益と立場のみを考えた政治。その膿を私は命を懸けて出し切りたい!!……カミューが……共に歩いてきた騎士が、最期まで貫き通した、騎士の国を……我々で再び、作り上げないか?」



小心者で、

『率いる』ということがとことん苦手で、

騎士の癖に、『戦わないなら、それが何より』などと言う。


それでも、義に厚く仲間を鼓舞できる。

美人が好きで、美人の前だと少しだけカッコつけて見せて……



……剣の腕は、国内のどの騎士よりも確かだった。



そんなカミューが、命を懸けて守ろうとした、『騎士国家エルシード』。




「私は、騎士国家エルシードを再建するためならば、罪人の汚名も着よう!泥水をも啜ろう!!この命、『騎士が国家のために在る国』のために捧げよう!……槍聖アイラの名にかけて!そして……」



思わず、言葉が詰まりそうになった。

しかし、エルザは拳を握る。



「国のために散った、気高く誇り高き騎士たちの名誉にかけて!!」





その瞬間。



周囲からは歓声が巻き起こった。




エルシード王城周辺が、歓声に包まれている、その最中。



「……お前の入れ知恵だろ?」


遠く、兵たちの後ろから様子を見ていたゼロが、隣にいるシエラに言う。

シエラは、笑顔で答える。



「……入れ知恵だなんて……。私はこの国のことを思って、この国の中で、、貴族・騎士すべて含めたうえで、『この内乱を収めるのに最も相応しい人物』に演説をお願いしただけです。貴族でも、現国王でも王族でもない、この国を立て直し得る人物は、この中ではエルザ様だけでしたわ。」



財政面、外交面において、今のエルザより力のある貴族はいただろう。

しかし、前黒騎士団長・ゴルドーが貴族の出であること、そして現国王も貴族から選ばれた存在であることから、貴族に対しての民の不信感は高まっていた。


そこで、シエラは考えたのだ。



「実力で登り詰めた騎士団長の座。そしてなにより、『槍聖アイラの血族』という絶対的な事実。それを兼ね備えたエルザ様には、カリスマ性がある。一度崩れた国家に必要なのは、まず資金でも軍事力でもない、カリスマ性です。まずは、民が同じ方向を向かなければ……。」



シエラが、自身の考え方を語る。

それを聞きながら、ゼロは思った。



「……お前、本当に政治をする人、なんだなぁ……。」



内政も、外交も、ゼロは真剣に学んでこなかった。

姉・アインに何度も学ぶよう言われては来たのだが、ゼロ自身『国を統べる器ではない』と学んではこなかった。


しかし、身近にその『内政・外交』に通じ、語ることが出来る者がいることで、ゼロは思う。



『やっぱり、自分には辿り着けない境地だった』と。



たった一度の終息宣言の演説。

そこにも、先を見越した政治的な見解が見え隠れしている。

シエラはそれを見通し、適切な人材を選んだ。



(これが……姉貴の言ってた『王者の資質』か。)



昔、アインに聞いた話。

王者の資質とは、民を導く先見の光のある者。

国家のために何が最善かを、考えるだけでなく『感じる』ことが出来る者。

その資質あるものが、自然と王者の座に就くといわれている……と。



ゼロは、シエラにその『王者の資質』を感じた。


このエルシード王城周辺の大歓声。

エルザの演説の結果かもしれないが、そうなることを予見したのは、シエラだった。



「コイツが王者になるなら……俺はその剣として役に立つ……ってのも悪くないかもな。」


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