5-9
それから10日間は、まさに激動の日々だった。
エルシード国家の再建のために助力したシエラ一行。
まずシエラが進言したのは、『政治体制の見直し』だった。
シエラは国民による選挙を提案。
貴族・平民問わず候補者を自薦・多選で募った。
これまでは議会などの決定権は主に貴族にあったが、シエラはその貴族中心の政治に異を唱え、平民中心の政治を提案。
その結果、新議会のおよそ7割が平民という、新しい議会が生まれた。
今回の内戦により、貴族の社会的な地位が下がったのは言うまでもない。
今回、議会に入った貴族たちは、ゴルドー達『戦犯』と呼ばれる内乱における『国王派』と呼ばれゼルドに与した貴族たちとは一線を画した、『解放軍』側に協力した貴族達。
自分の地位よりも、国家のために働いた貴族たちが公平に議員に選出されたのだ。
そんな、『国のための議会』が出来上がったら、次に行ったのは『戦犯貴族たちの処遇』だった。
議会は、ゼルドに与した貴族たちの領土を没収または縮小し、国内における勢力を抑えた。
有事の際に諸貴族たちの横行を防ぐためである。
この政策は功を奏し、これまで領土内で好き勝手振舞い、平民たちを抑圧してきた貴族たちから解放された地域は、少しずつだが活性化の兆しを見せる。
そして、最後に行ったのは、『国王選挙』。
これは、これまでの伝統のために行ったが、今回は議会を整備してから行ったので、貴族のみ立候補する事が無くなった。
平民にも出馬権が与えられ、真の意味で公平な選挙が実施されたのである。
その結果、新国王に選出されたのは……
「私は、これまで騎士として戦う事しかしてこなかった身だ。内政や外交などまだまだ素人同然だが、これから新しい議員たちと一緒に、手を取りながら取り組んでいくつもりだ。どうか……力を貸してほしい。」
圧倒的な支持を受け、エルザが就任した。
これが、ここ10日の出来事。
「ったく……ここまでを10日で終わらせるなんて、お前の手腕というか……内政の力には驚かされるぜ。」
ゼロが、シエラに言う。
「私の力ではありませんわ。この早さで国家が整ったのも、民たちがこれまでの政治に不満を抱いていたから。そして、皆が新しい国家を作りたいと強く願っていたからです。これは……国家の力、です。
内政構築のために奔走していたシエラは、そう満足げに答えたのであった。
――――――――――――――――
それからさらに5日後……。
「それじゃ、世話になったな。」
「いや、世話になったのはこちらの方だ。今後、何か困ったことがあったら遠慮なく言って欲しい。エルシード王国は必ずや、皆の力になろう。」
騒動のおさまったエルシード王国を後にしようと、新女王エルザに謁見するシエラ一行。
「では……漆黒の軍勢に決して降らないことをお約束ください。そして、いつか……いつか帝国が再建出来たら……是非、同盟を。」
シエラが、真剣な表情でエルザに言う。
エルザも、その視線を受け止め、大きく頷いた。
「もちろん、約束しよう。我がエルシードは友・シエラに全面的に協力し、同盟を結ぶことを。騎士の剣に誓おう。」
「ありがとうございます。エルシードの協力、大変心強いですわ!」
エルシードの国政は、新たに歩き始めたばかり。
外交官も前任の仕事を引き継ぎ、精査することに追われている。
内政を任された元貴族も、その人望で国内の信頼を集めつつあるが、これまでの慣習を一掃することに手間取っている。
故に、エルシードが『国家として』シエラたちに協力するには、まだもう少しだけ時間がかかる。
しかし……
「いざとなれば、私一人でも必ず駆け付けよう。その時は、女王としてではなく、いち騎士として、だが。」
エルザは、国さえ乱れていなければ、シエラたちと同行したいと思っていた。
強大な勢力に屈さず、抗おうとする勇気。
そして、他国であろうと危機に瀕していれば手を貸す正義感。
世界を解放しようという、使命感。
そんな一行に、エルザは惹かれたのだ。
しかし、国内の状況は思っていたより劣悪で、乱れていた。
ついていきたい気持ちはあったが、まずは自国が二度と同じ過ちを犯さぬよう、国内を整える必要があった。
「私の責務は、重い。国を変えるということは、そう短い時間で出来る事ではないだろう。しかし、皆に受けた恩を蔑ろにすることは、騎士道精神にも反するし、何より槍聖アイラの血筋として恥ずべきことだ。だから……。」
エルザは、そっと自分の胸につけられた騎士勲章に手をあてる。
「離れてはいるが、この想いと、騎士道を連れて行って欲しい。いつでも私は……エルシードは皆と共に在る。それだけは覚えていて欲しいし、信じて欲しい。」
そのエルザの表情には一切の迷いもなく、晴れやかであった。
――――――――――
エルシード王国、出立の日。
シエラ一行が最後に向かったのは……
「こんなに崇め奉られるなんて、本人もきっと思ってねぇだろうなぁ……。」
そこは、シエラたちとカミューが初めて出会った砦から、程遠くない丘の上。
『救国の英雄カミュー・ここに眠る』
立派な石碑が立てられたカミューの墓だった。
「救国の英雄……アイツ、こんなこと書かれてどう思ってるんだろうな?」
「あやつのことじゃ。きっと私には恐れ多い……などと言うんじゃろ。」
「彼の功績は、まさに英雄そのものでした。」
「そうですわね……もっと、カミュー様にはこの国を守っていただきたかった……。」
カミューの墓の前で4人は黙祷し、シエラが、墓前に美しい水色の花を捧げる。
「この花、エルシードの花らしいです。エルザ様が、カミューの墓に持っていくならこれを……って。」
出発の前、カミューの墓に寄ると言ったシエラに、エルザはそっとこの花を持たせ、言ったのだった。
「どうかこの花を。エルシードにしか咲かない華だ。カミューはこの花を、この花が咲くエルシードを守りたいと言っていた。それが叶ったということを、私が遺志を引き継ぐということを……伝えてはくれまいか。」
あの時の凛としたエルザの表情に、シエラは心打たれた。
「いちばん泣きたいのは、いちばん最初にこの花を捧げたかったのはエルザ様だったはず。でも……エルザ様はこの国を優先した。だって……」
美しい水色の花が、風に揺れる。
「この国を守ることが、カミュー様の夢であり目標だったんですから……。」
3人が歩き始める中、シエラはカミューの墓の石碑をじっと見つめていた。
「この花、花言葉はおありなんですか?」
「花言葉は……私も明るくなくてな。」
シエラがエルザに花言葉を訊ねたこの時、確信したことがある。
「カミュー様に、花言葉を知らない花など贈るわけが無いでしょう?」
クスリと笑い、シエラは回想する。
「私はね、この花が大好きなんです。でも、この花は女性には贈りません。シエラ様のような絶世の美女にもです。この花は……私がいつか誓いを立てる人に、贈りたいのです。」
紳士だったカミュー。
こっそりとこんな会話を交わしたことがあった。
カミューは、顔を真っ赤にしながら、こう答えたのだった。
『永遠。私はこの花を……永遠に添い遂げたい相手にだけ、贈りたい。』
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