5-7
カミューは、迷わなかった。
ゼロの言葉を聞くやいなや、弾けるようにエルザの方へ向かった。
「だぁから言ったろ?そこへ行くには俺を倒してからにしろってよ!!!」
視線の先でエルザに向かったカミュー。
ゼルドはその行動に怒りを覚えた。
「弱い奴が、勝手に動くんじゃねぇよ!弱い奴は服従、だろうが!!!」
そして、カミューの方へ突進しようとする。
「……そうじゃ。弱きものは妾に屈せ、平伏せ。」
しかし、ゼルドは数歩しか動けないまま、ヨハネの魔法の的となる。
交互に襲い掛かる、炎と氷の弾。
「お主に命ず。『一歩も動くな』!」
ヨハネは次々と炎と氷をゼルドに浴びせる。
先ほどの光の矢ではなく、今度は熱と冷気の応酬。
ただ弾くだけでは避けきれない攻撃に、ゼルドも苦悶の表情を浮かべる。
「勝てる……かも知れない。」
思わず、ゼロが呟いた。
「す、凄い……あれなら本当にゼルドを……」
一方でカミューはヨハネの魔法の弾幕を避けつつ、エルザに近づいていた。
(エルザ……私は、全く頼りにならない騎士だけど……)
そして、ようやくエルザのもとにたどり着く。
「……頼りにならない騎士だけど、エルザ、君のためなら命だって惜しくない。」
持っている長剣で、エルザを縛っている縄を斬り、鎖を壊す。
もたれかかっていた鎖が切れたことで、そのまま力なく倒れ込むエルザ。
「……エルザ!!」
そんなエルザを、カミューは力いっぱい抱き締めた。
「……カ……ミュー……」
朦朧とする意識の中で、うわ言のようにカミューの名を呼ぶエルザ。
カミューは、答える代わりに、エルザを抱きしめる腕に力を込めた。
カミューがエルザのもとにたどり着いたことで、シエラとガーネットも比較的自由に動けるようになる。
シエラがエルザにより近づき、ガーネットはゼロの援護に回る。
とはいえ、このように周囲が自由に動ける最大の理由は……
「くそ……少しは遠慮しろってんだ……。」
「若造が。敗北を学んで出直してくるが良いわ!!」
ヨハネが、ゼルドを完全に抑え込んでいるからであった。
「……やめだ。」
ゼルドが、怒りの形相で呟く。
「お?退く気になったかの?」
「馬鹿が……もう、人質とか国とかどうでも良いってことだ。これからは……全力でお前を殺すことだけに集中する!!」
ゼルドの目に、猛獣のような鋭さが宿った。
「面倒じゃの……戦えるのなら最初から本気を出さぬか!!」
ゼルドが全力でヨハネを追う。
次々と繰り出されるヨハネの魔法を弾き、躱し、少しずつ距離を詰める。
そして……
「捉えたぜ!!」
ついに、距離を詰め切ったゼルドが、ヨハネの頭に向かい大剣を振り下ろす。」
爆発音が響き、爆風にヨハネが包まれる。
「ヨハネ様!!」
そして、ヨハネは弾け飛んだ……。
「マジ……かよ。」
ゼロが真っ青な顔で爆発した場所を呆然と見つめる。
「なーんだよ!!あれだけ大きな口叩いておいて、結局一撃かよ!!つまんねぇ!!つまんねぇなぁおい!!」
体中から煙を立ち昇らせながら、ゼルドが大きな声で笑う。
「ざまぁねぇ!!解放軍最強の将が一撃で討ち取られた気分はどうだい?」
ゼルドは大剣を自慢げに振り回すと、ゆっくりとその場近くにいたゼロとガーネットのもとへ歩き出す。
「邪魔が無くなったからなぁ……テメェら全員、皆殺しだ。」
その、威圧感。
「この野郎……戦鬼(オーガ)かよ……」
ゼロは、この戦いで初めて『絶望』した。
少しずつ近づいていく、ゼルドとゼロ達の距離。
「しかしだ、油断だけはしないでおこう。あのババァには、結構痛めつけられちまったからなぁ……。」
ゼルドが大剣を握る手に力をこめ、にやりと笑う。その時……
「その慢心こそが命取りなのじゃ、戯けが!!」
ゼルドの頭上から、声。
「あ?」
そして、声の主を確かめようとゼルドが上を向いた瞬間……
巨大な黒い塊のようなものが、ゼルドの身体を圧し潰した。
「ぐおぉぉぉぉぉ!!!!」
黒い球体を受け止めるも、耐えきれず床にめり込んでいくゼルドの身体。
「それは物質ではない。『重力』じゃ。そう易々と弾けまいて。」
声の主は、そのまま床にタンっ……と軽快な音を立てて降り立つ。
ヨハネは、無傷だった。
「生きてたのか……」
安堵のため息を漏らすゼロ。
「お主は妾が死ぬとでも思ったのかえ?だとしたら、『教育』が必要じゃの……?」
ヨハネは、そう言うとゼロの近くに歩み寄り、ポン……とその頭を撫でた。
「まだ、死なぬよ。妾にはやらねばならぬことがあるでな。」
そう言い、微笑んだ。
―――――――――――――
「畜生……動けねぇ……!!」
物質ではなく、重力。
人間には抗えないその力に、ゼルドは苦しむ。
しかし、そこはさすが4将の一角。
「う……がぁぁぁ……!!」
その重力の塊を背負いながら、少しずつ身体を起こす。
「……人外じゃのう……お主は本当に強きもののようじゃの……。」
ヨハネも、立ち上ろうと身を起こすゼルドに、思わず感嘆の声をあげる。
一方、カミューはシエラにエルザの治療を任せていた。
次第に血色の良くなっていく、エルザ。
「安心してください。幾つか外傷はありますが、食事はきちんと与えられていたようです。それに、致命傷というべき傷もありません。命に別状ありませんわ。」
シエラの優しい微笑みに、カミューはようやく安堵の表情を見せた。
「良かった……。」
そう呟き、カミューはゆっくり立ち上がる。
「エルザ、すまない。この戦いは、おそらく敗戦になるだろう。民を守り、国を守るのが騎士の役目なのに……私は片方しか守れなかった。騎士として恥ずべきことだ。」
カミューが、悲痛な表情で言う。
そんなカミューに、エルザが笑って見せる。
「だが……カミュー、お前は『可能性』を残してくれた。再びこの国を取り戻す可能性を。そして……私が再び民のためにこの槍を振るう可能性を……。」
そう、エルザは敗戦のことなど意に介してはいなかった。
民が無事であること、そしてカミューが無事であること……
……カミューが自分を助けに来てくれたことが、嬉しかったのだ。
「……逃げようカミュー。これは恥ずべき撤退ではない。『未来のための撤退』なのだ。」
まだ立ち上がる事は出来ないが、それでも力強い声でエルザは言った。
カミューは、溢れそうになる涙を堪えるのに必死だった。
切磋琢磨してきた白騎士団長は、こうも強き女だったのか、と。
「エルザ……私は……。」
そんなエルザと少年時代からともに切磋琢磨し、共に過ごした幼馴染。
カミューはずっと、エルザを見続けてきた。
「……私は、君とともに戦えることを、心から誇りに思う。私は国の剣となり、君の剣となり……そして、君の盾になろう。」
いま、カミューにとって精一杯の言葉で、エルザへの想いを伝えた。
「ありがとう、カミュー……。」
エルザが、そう言ってカミューに近づいたとき……
……カミューの左胸より、血飛沫が上がった。
「……え?」
カミューの左胸から噴き出した鮮血が、近づいたエルザの顔にかかる。
そんなエルザは、何が起こったのか理解できていない状態で……
「あ、あぁ…………。」
小さく血を吐き、カミューが仰向けに倒れる。
「カミュー様!!!」
「誰だ!!誰がやった!!」
シエラがカミューに駆け寄り、ゼロが周囲を見渡す。
そして、柱の陰にひとりの男の姿を確認した。
「いたぞ!!アイツだ!」
ゼロが怒りに身を任せ、その人影の方を向く。
「卑怯な……!!」
ヨハネが、その人影の方に目をやった瞬間……
……ゼルドにかけていた重力の魔法が、一瞬緩んだ。
ゼルドは弱まった重力の塊を弾き出すと、ゆっくりと立ち上がる。
そんなゼルドに、先ほどの人影が走り寄る。
「ぜ……ゼルド様!!私は、やりましたぞ!!相手の将を、討ち取ってやりました!!」
それは、エルシード黒騎士団長・ゴルドーであった。
「ゴルドー……貴様!!」
エルザが、怒りに満ちた形相でゴルドーを睨みつける。
ゴルドーは、その気迫に押されたが……
「馬鹿め!!油断するほうが悪いのだ!!戦場において油断とはすなわち死!貴様らは負けるべくして負けたのだ!!」
ゼルドの側に来たことで気持ちが大きくなったのか、強気な口調でエルザを罵るゴルドー。
「この……下衆が。」
ヨハネが、今度はゴルドーごとゼルドを倒そうと、魔法を『詠唱』し始める。
その一方で……
「回復魔法が……効かない!!」
全力でカミューの治療にあたっているシエラが、その傷口の異変に気付く。
回復魔法が、一向に効果を見せないのだ。
決してシエラの魔力が低いわけではない。シエラの魔力は、僧侶・司祭と比べても引けを取らないはずなのだ。
「!!……この矢は……!!」
スナイパーのガーネットが、カミューの致命傷の原因である左胸に矢を見つける。
「呪詛と毒……呪詛が回復魔法を阻害し、毒が回復薬の効果を許さない……これでは……!」
それは、巨獣や害獣などを倒すための、致死率の高いもの。
「改造されている……鎧の上からでも、確実に相手を仕留められるように……。邪道だ。こんなの、戦争でも使うものではない……!」
ガーネットも、鋭い視線でゴルドーを射抜く。
「ゼルド……テメェ、こんな小物を使ってまで勝ちてぇのか!!強い奴と戦いたいだけじゃなかったのかよ!!」
ゼロの声が、響いた。
「はっ、はっ、はっ…………」
カミューの息が小刻みになっていく。
視線は宙を彷徨い、身体の力が無くなっていくのが分かる。
「カミュー!しっかりしろ!!カミュー!!!!」
シエラが治療する中、エルザはカミューを抱き起す。
その左胸からとめどなく溢れる鮮血が、カミューはもう助からないのだということを物語っていた。
「エル……ザ、どこだ……。」
カミューが、息も絶え絶えに、自分を抱き起しているはずのエルザを探す。
「私はここだ!お前の側にいる!!」
エルザはもう、泣いていた。
それは、エルザが白騎士団長となってから、一度として他人に見せたことのない、涙だった。
「もうすぐ……お前を迎えに行ける……。エルザ、君と一緒に、エルシードを……。」
かすれていく声。
少しずつ弱くなっていく、力。
「もう喋るな!大人しくしていればきっと、助かる……!」
エルザが、カミューに聞こえるように大きな声で言い、回復魔法を唱え続けるシエラを見やる。
シエラは、ただ…小さく首を振った。
「大人しくしていればきっと……助かる。助けて……くれぇ……。」
もう、嗚咽を堪える事は出来なかった。
必死にカミューの左胸。
抑えているエルザの右手には、とめどなく温かいものが零れ続けている。
「止まれ……止まってくれぇ……!!」
どうして、いつもいつもカミューばかりがそんな役目を引くのか。
エルザが白騎士団長に就任した時、同じように武勲を上げていたカミューは、貴族であるゴルドーの副官に甘んじた。
魔物が幾度となく押し寄せた時も、エルザはカミューと共に出撃したかった。
しかし、隊長と副隊長というわずかな身分の差が、そんな願望を打ち砕いた。
そして、今度は自分を助けるために、カミューは命を落とそうとしている。
「助かったら……治ったら一緒に酒場に行こう。そして、これまで話せなかったことを……ゆっくり話そう。」
だから、今度は、今度こそは……
ふたり望むシナリオを、エルザとカミュー、ふたりで描きたかった。
「許さねぇ……許さねぇぞゼルドぉぉぉ!!」
そんなエルザとカミューの姿が、ゼロの脳裏に姉・アインとの別れをフィードバックさせた。
消耗しきった身体を奮い立たせ、怒りだけでゼルドに向かっていく。
ゼルドは……
「…………」
ゼロをただ、見据えていた。
「粋がるなよ小僧!!戦争は結果がすべて!!甘ちゃん達の遊戯ではないのだ!!カミューは甘すぎた!!そのくせ騎士道だ民のためだと戯言を吐く!だから……だから死ぬのだ!!」
声高らかに笑い、倒れているカミューを罵倒するゴルドー。
「貴様……遺言は終わりかえ?」
ヨハネが険しい顔でゴルドーを見据える。
「私も、貴様を同じ目に遭わせてやろう!」
ガーネットも、ゴルドーの眉間を狙い、弓を引き絞る。
しかし、ゴルドーは狼狽えない。
「さぁゼルド様!!あなた様の力でこの甘ったるい雑兵たちを始末してしまいましょうぞ!!」
ゴルドーはゼルドを完全に妄信しきっていた。
しかし……
「……れよ。」
ゼルドは、低く迫力に満ちた声で、呟く。
「……は?」
「……黙れよ、と言ったんだ。貴様……誰に頼まれた?」
「い、いえ……多勢に無勢、私が助けに来て……」
鬼のような形相のゼルド。
ゴルドーはその迫力に圧され、言葉がなかなか出てこないでいる。
「俺が、こいつらに負けるとでも思ったのか?」
怒りに震えるゼルド。
もはや何も言葉の出ない、ゴルドー。
「あいつ……どうしたんだ?」
「おそらく……あやつの気持ちの問題なのじゃろうて。妾もあのような手を打たれたら、きっと……」
ゼロとヨハネが合流し、ゼルドと少し距離を取る。
あの怒り様。
ここから戦うとなれば一筋縄ではいかないと思ったのだ。
「余計な事しやがって!!!」
次の瞬間。
ゼルドの大剣が、ゴルドーの身体を横に凪いだ。
「……え?」
胴体を分断されたゴルドーの身体が、どさり、と音を立てて落ちる。
「……私……は、王に……」
最後の力を振り絞って言葉を紡いだゴルドー。
しかし、その言葉の続きが聞かれることは、無かった。
ゼロにヨハネ、ガーネットそしてシエラは、唖然としてゼルドを見る。
そして最初に動いたのは、やはり百戦錬磨のヨハネ。
この隙にゼルドに手傷を負わせるのが良策と考えたのか、魔法の詠唱を始める。
「……もういい。」
しかし、一方のゼルドは、無気力に立ち、まるでため息を吐くように呟いた。
「なんじゃと……?」
「興覚めだ。もうやめようぜ。俺はこういう卑怯な戦い方は大嫌いなんだ。今回は、俺達の反則負けだ。帰るわ。」
そう言って、ゼルドはゼロ達に背を向けた。
背を向けたゼルド。
攻撃しようと思えば出来る、そんな状況。
しかし、その場にいた誰もゼルドに攻撃をしなかった。
いや、攻撃『出来なかった』。
「お主……本当に退くのか?」
そうしてもらうに越した事は無いのだが、ヨハネは敢えてゼルドに真意を訊ねる。
「あぁ……。俺はここまでしてこの国が欲しかったわけじゃねぇ。俺はただ……強い奴と命のやり取りをして、この国を制圧したかっただけだ。政治とか利権とか……そんなものは俺の知ったことじゃねぇよ。」
ヨハネの問いに、ゼルドはゆっくり振り返って答える。
「白騎士団長の女を人質にしたのも、怒りで将たちが実力以上の力を出してくれれば、やり応えがあると思っただけだ……貴族や王族の目論見に加担する気は、さらさら無かった。だが、結果的にこのウジムシの野心に邪魔された。はっきり言って興醒めだ。」
言いたいことを溜息混じりに話したゼルド。
「でも、あんたは……!!」
何か言いかけたゼロを、その大きな手を広げて制し……。
「今は、俺と話してる場合じゃねぇだろ。」
そしてゼルドは、倒れているカミューの方を指さした。
「いつかまた、戦おうぜ。……アイツには……悪かった、と言っといてくれや。」
ゼルドはその言葉を最後に、窓から跳んだ。
「なっ!?……この高さじゃ……」
ゼロが慌ててゼルドの跳んだ窓から下を見下ろす。
「……マジかよ」
ゼルドは何事もなかったように着地し、歩いていた。
城外で戦っていた漆黒の軍勢を、全員引き連れて……。
「ガーネット様、今のうちに、旗を……。」
シエラは、この状況を収めるために最善の策を考えていた。
ガーネットは、シエラの意図を汲み、小さく頷くと火矢を1本用意し、屋上からかかる一番大きな旗に狙いを定めた。
矢は真っ直ぐに旗に命中し、炎を発した。
城外の喧騒がおさまる。
焼け落ちたエルシードの旗。
そして、ガーネットはシエラと共に用意していた、解放軍の旗を手早くかける。
その瞬間、静寂が一転。
城外は大きな歓声に包まれた。
「これで……しばらく城内は安全です。」
戦いの終わり、それは身の危険が完全に無くなったことを意味し……。
その場にいた全員が、カミューを囲んだ。
シエラの回復魔法の甲斐あって、出血はおさまってきたのだが……。
「……治癒するだけの、生命力がもう、残ってないんです……。」
「旅の方!!どうか、どうかカミューを……助けてくれ!!頼む!」
エルザが、シエラの方を掴み、懇願する。
シエラは悲痛な表情で、言う。
「私も……助けて差し上げたいのです!!でも、でも……。」
ついに、シエラも堪えていた涙を零す。
「すまぬ。妾が回復魔法を使えていれば……。」
ヨハネは魔導士。
攻撃魔法のエキスパートではあっても、僧侶ではないので回復魔法は使えない。
「では……どうしろと言うのだ!!このままでは、カミューは……!!」
どうしても諦めきれないエルザ。
魔法など使えないのに、カミューの胸の傷口に手を当てる。
「エルザ……相変わらず、諦めが悪い。みんなが、困っているじゃないか……。」
そんなエルザの手を握りしめ、カミューが口を開いた。
「君に、頼みがある……。」
視界は宙を彷徨っている。
手も、身体も、少しずつ冷えてきた。
そんな身体で、カミューは……
襟元の騎士勲章を、むしり取った。
「これを……私の魂だと思い、側においてはくれまいか。私は、魂になっても、ずっと君を……エルザを守る。それは、約束しよう。だから……これを私だと思い、側に置いて欲しい……。」
震えるカミューの、血まみれの手。
「そんなこと言うな!!私は……カミュー!お前と共に在りたいのだ!勲章など要らない!!頼むから……頼むから諦めるな!!」
エルザの、悲痛な叫び。
ゼロは、何かに耐えるように、必死に歯を食いしばった。
その口元から、血が滴るほどに。
それは、ゼロが姉・アインを失った時の光景と、あまりにも似すぎていたから……。
「エルザ……最期に、私の気持ちを素直に聞いて欲しい。私は……。」
「やめろ!!ちゃんと傷を癒してから言ってくれ!!」
「私は、エルザ……」
「頼む!!遺言みたいに、言葉だけ残して逝かないでくれ!!」
「君を、愛していた……。」
カミューは、最期に一番伝えたかったことを、エルザに伝え、満足したように笑うと……
静かに、その生涯を終えた。
「カミュー!」
「カミュー様!!」
「カミュー……殿……」
「来世では……平和な世に生きよ。」
ゼロ達が、カミューの死を悲しむ。
そんな中、エルザはカミューを力いっぱい抱きしめた。
「そんなこと……分かっていたよ。私も……同じ気持ちだったのだから。」
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