1-3

焼けただれた、美しかった街。


そこから少しだけ郊外へと離れた、緑の多い場所。


ゼロとアインの家は、燃えていなかった。

あまりに奥の方だったので、戦火に巻き込まれなかったのか。

人がふたりしか住んでいなかったからか。

たまたま、ふたりとも留守だったからなのか……


とにかく。

ふたりの家は、思い出を残したまま、そこにあった。



「……マジかよ」


嬉しい驚きを口に出すゼロ。

抱き上げているアインの亡骸に、


「姉貴、良かったな。帰ってくる家、あった」


と笑顔で言う。




一度、部屋のベッドに寝かせ、綺麗に身体を拭き、顔を拭き……


騎士になってから一度も着ることがなくなった、鮮やかな春色の服を着せた。


「俺のために鎧着てたんだろうけどよ……姉貴、こっちの方が、似合うわ。」


まるで、村娘のような格好。それでもアインは美しく、まるで聖母像のようだった。


「なぁ、姉貴……やっぱり、起きねぇか……?」


血痕もなくなった姉の綺麗な寝姿に、弟はもう一度だけ、願いを込めて言う。



姉の身体は冷たいまま、何も答えることはなかった。




家の裏。

両親が眠っている、と姉に教えられた塚に、アインをそっと埋めた。


白騎士団のエンブレムと、騎士勲章。

そして、髪留めと鏡も一緒に。



「姉貴……あっちでは、ただの女として生きろ。戦うのは、俺がやるから……」


一筋の涙。


ゼロはぐいっ、と袖で乱暴にそれを拭うと、


「俺は強くなる。こんな思いをするヤツは、居ない方がいい。」


最後に一輪、花を添える。

アインが好きだと、良く家に飾っていた蒼い花。


「白騎士アイン、俺は誓う!強くなり、貴女を超えると!そして、沢山の弱き民を守り……」


嗚咽にも似た、誓いの言葉。


「貴女の……いや、世界の剣として、悪や悲しみに立ち向かう!」


墓前に置かれた、折れた白銀の剣。

ゼロは、託された聖剣の切っ先を、そっと姉の剣に合わせた。


「……騎士じゃねぇけど……騎士の誓いだ。」



一晩を家で過ごし、姉との思い出を噛み締めて涙して……



翌朝、ゼロはエリシャを出る。


世界中の悪から、悲しみに立ち向かう『剣』になるために。


自分のような人間を、ひとりでも減らすために……

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