1-2

「やはり……予想通りだったようね。」


一方、エリシャ宮殿では、アインが白騎士団を総動員して防衛戦の準備を進めていた。



南、旧帝都の方角から、およそ10,000の兵が侵攻してきたのだ。


「漆黒の鎧……こんな兵を持つ国、記憶には……」


騎士の一人が、困惑した表情で呟く。


「どちらにしても、守るだけ。城下の民は城へ!いざというときの避難経路も確保しておいて!」


僧兵を住民の避難誘導に充て、城下に防衛のための陣を敷く。


「街の損壊はこの際、我慢しましょう。この大軍が相手なのだから、何としてでも民を守りきるのよ!」


アインの統率力は、もはやカリスマと言っても良いほど。アインの指示ひとつで、白騎士団が一糸乱れぬ隊列で作戦を実行していく。



「将軍!!来ました!」


城門から、アインは眼を凝らして前方を見る。


まるで黒い塊。

人、魔物、アンデット……

混成部隊なのだろうか?

とにかく大量の『敵』がエリシャ宮殿に向かい進んでくる。


「迎え撃つ!魔導師、弓兵は攻撃開始!騎兵は援護、槍兵はしっかりと敵を引き付けて!重装歩兵は宮殿を守って!」



アインは白銀の剣を抜き、騎士団の中央に位置する。


程なくして、街を蹂躙し、黒い軍勢が押し寄せてきた。


守備には絶対的な自信のあるエリシャ白騎士団。抜群の陣形で、敵の猛攻を凌いでいく。


その中心で、絶えず的確な指示をだし、前衛が討ち洩らした敵は、自らの剣で斬り伏せていく。



回復と補助魔法も使いながら主に援護に回るアイン。


『華将軍』アインの動きひとつで、白騎士団は多彩な顔を見せていく。

アインが守備に回った今は、白騎士団は強大なエリシャの『盾』となるのだ。



猛攻を凌ぎ続けること数時間……



「……さすがはエリシャの華将軍。一筋縄ではいかぬか。」



黒い軍勢の奥から、ひとりの黒騎士が姿を現す。


その手には、漆黒に染まった槍。

明らかにその他の兵たちとは、纏っている闘気が違う。


「気をつけて……」


アインも直ぐ様その異変を察知し、白騎士団に注意を促す。


「雑魚には用はないのだが……華将軍、貴様とまみえない限り、我が軍の勝利はなさそうだな。いいだろう。雑魚ども、かかってくるが良い。」


両手を広げ、的になろうという仕草を見せる黒騎士。


それをきっかけに、白騎士団が一斉に黒騎士へ向かった。



―――――――――――――――――




「他愛もない……」



その強さは、圧倒的だった。

大陸北部最強の白騎士団。

それを、たったひとりの黒騎士が蹂躙していく。


漆黒の鎧は、魔導師の魔法すら弾き、弓兵の矢は、人間業とは思えない反応で、叩き落とされていった。


近接戦闘に臨むも、何人がかりで挑もうとも、黒騎士は怯むことなく受けて立ち……


ひとり、またひとりと白騎士団の亡骸を積んでいった。


「これで北部最強の白騎士団……北部の制圧は容易そうだな。」



鮮血にまみれた槍をヒュンッと振る。

漆黒の槍はまるで生きているように、鮮血を啜っているようにも見えた。



「さぁ、次はお前だ、華将軍。」


槍を、アインに向ける黒騎士。


「……これ以上、エリシャを蹂躙することは許しません!」


白銀の剣を抜き、アインが構える。


刹那。


黒い弾丸が、弾けるようにアインに跳んだ。


受けていては間に合わない、咄嗟に横へ飛び退く。しかし黒騎士も、着地と同時に上体を捻り、アインの胴を凪ぎに来る。


白銀の剣でそれを受け流すと、

《聖なる炎よ!》

黒騎士の顔面に、炎の魔法を撃ち、肩を蹴って距離をとる。


「魔法は目眩ましか。……なかなか判断が早い。」


黒騎士は、白煙をあげながら、ゆっくりとアインに向かい歩を進める。


「はじめから、初級魔法なんて効くとは思っていないわ。」


アインも、迎え撃つように剣を構える。


「惜しい……有能なだけに、惜しいぞ。その命を奪ってしまうことが!」


高速で突きを繰り出してくる黒騎士。

アインは魔法の盾でそれを弾くと、一瞬で懐に潜り込み、渾身の剣撃を見舞う。


━━ギィン!!!━━


鈍い金属音。その音を聞いた瞬間、またもアインは飛び退き、距離をとる。


「ほう……」


その慎重な運びに、黒騎士が感嘆の声をあげる。


「殺す前に聞いておこう。……我が軍に来ないか?これから大陸を制圧する、至高の軍だ。お前はその軍の将に相応しい。」


手を広げ、軍門に下れと促す黒騎士。


「お断りします。侵略の先にある世界など、平和ではないのだから!」


凛とした表情で答えると、白銀の剣を投げ捨てるアイン。


「……なんのつもりだ?」


そう黒騎士が問うた瞬間、アインの手には、新たな剣が握られていた。


魔力を帯びた、漆黒の剣。

それは純白の鎧とは対照的で、アインのイメージとは異なる物であった。



アインの手に握られた、漆黒の剣。


美しい刀身。その漆黒に禍々しさはなく、凛とした表情すら窺わせるその剣は、アインの魔力と同調するように淡く輝く。


「……覚悟!」


一瞬で黒騎士との間合いを詰めるアイン。


「!!」


槍を構えようとする黒騎士。しかし一瞬遅い。

━━シュパッ!━━


白銀の剣を通さなかった漆黒の鎧は、まるでスポンジのように切れ、弾けた。


「……なん、だと……?」


動揺する黒騎士。しかし考えている暇はない。アインは横凪ぎ、その勢いで回転し、黒騎士の兜を狙う。


間一髪、致命傷を避けた黒騎士。しかしその兜は、まるで紙の面を斬るかの様に2つに斬れ、そして落ちた。


「…………皇帝より手応えがありそうだな。」


白銀の髪に端正な顔立ち。

黒騎士は愚かな、と溜め息を吐く。


「……なんですって?では、皇帝陛下を襲ったのは、貴方……?」


「あぁ。手応えののなさは老いたせいだと割り切ったのだが。……どうやら久しぶりに、本気のやり取りができそうだ。」


口許に笑みを浮かべた黒騎士は、槍をまっすぐに構えると、


「我が名は黒騎士リヒト。冥土の土産に我が名を持って行け……」


一直線にアインへと向かう。


次々と、放たれる神速の突きを、人間離れした速度で捌いていくアイン。


「……くっ」

しかしその突きの速さに、アインの顔が緊張に歪む。


突きはどれも確実に急所を正確に狙ってきている。もし一度でも油断をしようものなら、そこがアインの人生の終着点となろう。

一瞬たりとも気を抜けない、張り詰めた防御。


漆黒の槍と死神の鎌。アインはその2つと戦っていた。


「……ふっ!」


突きを剣で受け流し、左手には魔力を込める。


《地神の衝撃!》


リヒトが剣を捌ききれず、槍で受け止めたその瞬間、アインはがら空きになった胴に、衝撃の魔法を叩き込んだ。


スピードが速い相手は、衝撃波で内部から動きを止める。

それが、父であり師であった男の教えだった。


「ぐっ……!!」


かなり強い衝撃であったのだろう。城壁まで飛ばされるリヒト。


ゆらり、と立ち上がると、口許の血を拭い、三度槍を構える。


「そろそろ終わりにしよう。……起きろ、ネクロス」


リヒトがそう呟くと、漆黒の槍は、まるでリヒトとひとつになるかのように、その手を浸食していった。


そして……




――――――――――――――――




「はっ……はぁっ……」


ゼロは、走っていた。

もうすぐエリシャ。


置いてきたオスカーは無事だろうか?

エリシャの民は、無事だろうか?

アインは……?


「姉貴がいるんだ!無事に決まってんだろーが!」


不安を振り払うかの様に、ゼロはブンブンと首を振る。


しかし、ゼロがようやくたどり着いた、エリシャの街は……



燃えていた。

赤い、赤い風景。


炎で、

血で。


赤く染まった街並みは、ノースグランドと同じように、誰も脱出できなかった、と言うことがすぐに分かった。


至るところに亡骸が横たわっている。

どの顔も見知った顔。


道具屋の主人

宿屋の女将さん

鍛冶屋の頑固者の親方


よく野菜をお裾分けに来てくれた、近所のおばさん


みんな、みんな赤黒い血で染まっていた。


「なんだよ……これ」


よく自分にちょっかいを出してきた女の子。

ゼロを『師匠』と呼び、野山を駆け回っていた、こども自警団。


もうすぐ子供が産まれるんだ、と微笑んでいた、若い夫婦。


「ちくしょう!!なんなんだよ!!!」



ゼロは、走った。


足が千切れてしまうと感じるほど、力一杯、地を蹴った。


途中、アンデット兵が亡骸の衣服を貪っていた。


「……なにしてんだテメェ!!!」


念のため持っていた剣で、鎧ごと叩き斬る。

アンデットが起き上がっては斬り、また斬っていった。


行く先々で、見知った顔がアンデットに貪られていく。

その度に、ゼロはアンデットを斬り伏せていく。


持っていた剣の刃はこぼれ、刀身は赤黒く染まった。



そして…………


「ふざ……けんなよ」


宮殿近くに差し掛かる。




宮殿は、燃えていた。

タペストリーも焼け落ち、旗は心棒だけ残され……


城壁には、死に絶えた騎士達がぶら下がるように倒れていた。


「……全滅、じゃねぇよな……」


怒りに震えていたゼロが、今度は絶望で青ざめていく。


走り疲れ、戦い疲れ、よろよろと歩を進めながら宮殿へと向かっていく。そして。


宮殿の門の先。


荘厳であった入口には、また……



アンデットが群がっていた。

アンデットにマントを裂かれ、鎧を剥がされていたのは……


「なにやってんだコラァァ!!」


疲れ果てた筈のゼロが、弾丸のようにアンデットに向かい弾ける。


アンデットの中心で倒れていたのは、アインだった。



アンデット兵の群れを薙ぎ倒す。


剣技と言うには程遠い、まるで草木を鉈で切って分け入るような、乱暴で、粗雑なやり方。


「くそっ!!どけっ!どけよっ!」


もはや切れ味を失ったその剣で、アンデット兵を叩き潰す、弾き飛ばす。


アインの周囲の安全を確保し、そのまま抱き起こす。


「姉貴!姉貴!!」


まだ、体は温かい。しかし、右胸に穿たれた穴が、彼女の死が近いことを予見していた。



「ゼ…………ロ」


うっすらと目を開け、アインが声にならない声でゼロを呼ぶ。


「姉貴!もう安心だ!この辺の雑魚はみんな倒した!あとはみんなを助けるだけだ!」


みんなを、助ける。

そんなみんなは、もういない。

嘘でも良い。ゼロはアインを励ますためだけに、嘘をついた。


「ごめ……ん。負けちゃった……」

「勝ち負けなんてどうでも良いだろ!」

「私……もうダメみたい……」

「バカ野郎!縁起でもねぇこと言うな!」


胸の穴に手を置き、押さえる。

自分に魔力があれば、こんな傷、すぐに治せるのに。

ゼロは自分の生を呪った。


「僧兵!!早く来い!来てくれっ!!」


大声で叫ぶ。

……この死に絶えた場に、僧兵など居る筈もない。


「ゼロ……こ……れ」


アインは、絶え絶えの意識のまま、ゼロに自らの剣を渡す。


「こんなもん要らねぇ!これは姉貴のだろ!!」


ぶんぶんと首を振るゼロ。


「私は、いつだってあな……たと……一緒に……居るわ。剣に名前を……つけるのが、騎士の一歩。この剣は……」


ぐっ……とアインは、ゼロの胸に漆黒の剣を押し当てる。


「聖剣……ゼロ。」


アインは、たったひとりの弟の名を、騎士の命の名としたのだ。

自らの誇り、命とも言える、剣の名に。


「剣なんて要らねーから!姉貴がいればいいから!」


涙があとからあとから流れてくる。ゼロの涙が、ぽたり、ぽたりとアインの頬を濡らす。


「いつでも、一緒に居るわ。……聖剣……ゼロよ、私の命を、全ての魔力を、貴方の中へ……」


アインの身体が、目映い光を放つ。優しく目映いその光は、ひとつに収束され、やがて漆黒の剣に吸い込まれた。


「これで……私はこの剣と共に……あなたの側にいる……わ。あなたを……助けてあげる。」


剣から手を離すと、アインはぎゅっ、とゼロの手を握った。



アインの命の灯が、消えようとしている。


「姉貴!死ぬなよ……早く、家に帰ろう!」


目を閉じないように。

遠くへ行かないように。


ゼロは大声で姉に声をかけ続ける。


「窮屈な思いばかりさせてごめん……私……厳しすぎた……ね」

「姉貴が厳しいから、俺は、俺は道を踏み外さなかった!!!」


「料理……へたでごめん。」

「不器用な姉貴の野菜スープが、俺は好物なんだ!」


「もっと……自由にさせてあげれば……よかったね」

「姉貴と一緒の世界が、居心地が良いんだよ!!」


握られた手の力が、少しずつ弱くなってくる。

弱くなるなら、こっちが力強く握れば良い。ゼロは、必死に、すがるようにアインの手を握る。


「お父さんも、お母さんもいなくて……寂しい……思いをさせた……ね」

「姉貴が、親父みたいに強くて、母さんみたいに優しくてキレイ……でっ!」


涙が止まらない。

嗚咽とも叫び声とも取れる声で、ゼロは必死に姉をこの世に繋ぎ止めようとする。


「ゼロ……ゼロ……」


呼吸が弱くなる。


「起きろーー!!!姉貴!地べたで寝るな!」


「私の……ゼロ……守ってあげ……る」


力が、無くなっていく。


「俺が守る!姉貴を守るから!……頼むから……そのチャンスを俺にくれよ!!」


「……あい……し……て……」


そして。


「バカ!なに言ってんだ!俺にも何か言わせろ!言い逃げとか、卑怯だぞ!騎士にあるまじき行為だ!!」


「……………………………………」


一筋の涙を流して。

それでも優しい笑みを浮かべて。



アインは、逝った。



「あ ね き……」


茫然自失の、ゼロ。

アインの頬を、何度も叩く。


「冗談……よせよ」


いつだって自分には優しかった、美しい顔。


「やだよ……姉貴!」


しなやかで、柔らかくあたたかかった、美しい肢体。


「置いてくなよ……俺、これからどうしたら良いんだよ!」


いつも良い香りのした、黄金の、絹のような長い髪。


「姉貴!聞いてんのかよ!!」


そんなアインを、ずっと愛していた。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!」


うるさい!と起きてくれる気がして、


ゼロは力一杯、叫んだ。アインを抱き締めたまま。



エリシャの地に、雨が降り注ぐ。

まるで、ゼロの気持ちを表すかのように…………。



――――――――――――――



「なかなかの見世物だったの……。」


アインを抱き締め悲しみにくれるゼロの背後に、漆黒の衣を着た異形の老人が立っていた。


「あのリヒト様と互角の戦い……惜しい!実に惜しいぞ!カカカ……」


老人はただ、笑う。

このエリシャの陥落という出来事を、ただの見世物だと。



「なんだ……テメェ」


アインの亡骸を、優しく壁に寄りかけ、上着を優しくかけるゼロ。


「姉貴………ちょっとだけ、待ってろよ。すぐに終わらせるから、家に帰ろう。」



聖剣ゼロを手に、ゆっくりと立ち上がり、老人に向き直る。


「美しかったでな。儂の傀儡にでもしてやろうかと思ったのだが……」


ゼロの事など歯牙にもかけぬ様子で、老人が淡々と話し続ける。


「テメェ……斬られたいのか?」


アインから譲り受けた聖剣ゼロを片手に、老人を鋭い目で睨むゼロ。


「カカカ……お主に何が出来る?魔力も持たず、姉よりも劣ったその剣技で、我々を倒そうというのか……?」


渇いた笑いを発しながら、老人が掌をゼロに向ける。


《呪縛の鎖……!》


老人が詠唱を始めた瞬間、ゼロの足下から黒い鎖が、その身体をつたってのぼっていく。


じくじく、じくじくと、それはまるで虫のようにゼロの身体を這い上がる。


「……っ!なんだこれ!」


狼狽えるゼロを見て、まるで安い見世物を見るように老人は冷めた視線で言う。


「もう少しもがけばよいものを……つまらぬ。安い……のぉ。」


吐き捨てるような老人の罵声を浴びながら、ゼロは歯を食いしばり、その異形を睨み付ける。

じくじく、じくじく、と黒い鎖が肩口まで上がってくる。


身体は動かない。


「ちっくしょ……」


どれだけもがいても、鎖は切れない。まるで食い込むように、ゼロの動きを封じているのだ。


「カカカ……無駄じゃ。これは魔力の鎖。儂より高い魔力でなければ切れぬよ。……魔力を全く感じぬお主に、この鎖は切れぬ。お主を殺し、姉弟ともども傀儡としてやろう……」


気味の悪い笑みで、ゼロを追い詰める老人。


「死ぬ前に、儂の名前を教えておこうかの。儂は……」


「うるせえよ」


老人が、自らの名を発するより早く、ゼロは言った。


「要は、テメェより高い魔力がありゃ良いんだな?」


ゼロは、持っている。高い魔力を持った『それ』を。



「行くぜ……聖剣ゼロ!!」



ゼロが剣の名を呼ぶ。

漆黒のその剣は、ゆっくりとだが確実に光を放っていく。


ゼロは、身体を包む不思議な感覚に、身を任せていた。

(なんだ……?心地良い……)


そして。


━━━シュパッ!━━━


剣に触れていた部分の鎖が、まるで糸屑のようにすっぱりと切れた。


「何だと……!?」



驚きを隠せない老人。魔力が高くなければ切れない鎖。それがいとも簡単に切断されたのだ。

魔力など無かった、眼前の男の剣によって。


「この儂の魔力を超えると言うのか……?」


うろたえる老人。

ゼロは、自由になった身で再び老人に向き直る。


「おい、姉貴を愚弄した罪は、しっかり償ってもらうぜ!」


剣を構え、鋭い視線で老人を見るゼロ。それはまるで、餓えた狼のそれの様だった。


「小癪な!《猛毒の矢!》」


すかさず老人が魔法を撃ち出す。が……


「《光の盾!!》《裁きの炎!》」


ゼロは、立て続けに2つの魔法を撃ち出す。

老人も、邪悪な気配のする盾でゼロの魔法をいなす。


驚いたのは、老人だけではなかった。

全く使えなかった魔法が、次から次へと頭に浮かんでくる。

次は、この魔法。この局面では、これ……と、まるで教えてもらっているような、そんな感覚。


「殺してやる!お主など、我が魔法の衣は斬れぬのだから!」


老人が、長い詠唱を始める。

魔導師が長い詠唱を始めるとき、それは決まって大魔法である。

ゼロは、そう姉から教わってきた。


「だから魔導師との一対一の時、相手が勝利を急いで大魔法を使うとき、そこが最大のチャンスなの!」



「《神速の風!!》」


ゼロは、自らの足に風の補助魔法をかけると、一蹴りで老人との距離を詰めた。


「んなっ!!!」


驚く老人が対策を練ろうと困っている、その時。



「おせーよ!」


ゼロは上段に構えた聖剣を、袈裟斬りに叩き切った。


「たわけ者が!この衣は、魔力が無ければ斬れぬ……とぉぉっ!?」


老人の肩口から腰まで、ゼロが一気に振り下ろした剣は、その身体をまるで紙のようにすっぱりと両断した。


「な、んだと……」


斬り口から老人の身体がはぜる。

何が起こったのか分からないまま、老人は絶命した。



「ちっ……ジジイを殺すのは、後味がわりぃぜ……」



ゼロが集中を解くと、聖剣は役目を終えたように消えていった。



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