トレマハンター

とにかく5階層での初戦闘を無難にこなせたのはよかった。

幸いにも、今回の戦いで肉体的な疲労はなく、どっちかというと集中したせいで精神的に少し疲れた感がある。

日頃それなに頭は使ってるつもりだけど、これも脳の老化か?

俺の心配をよそにダンジョンの探索は続く。

初めての戦闘をこなしたからと言って、行軍が楽になるわけではなく当たり前だが、結構辛い。


「りんたろ~大丈夫?」

「ああ、ありがとう」


これでもう何度声をかけてもらったかわからない。

漢としてどうなんだというのはあるけど凜の気遣いは純粋にうれしかった。

単純なもので、声をかけてもらえると少しばかり足が軽くなったような気がするから不思議なものだ。


「修太朗さん」


先頭の大仁田さんがこちらに振り返り声をかけてくれる。

疲れのせいか、何も感じていなかったが足を止め集中すると微かに地面が揺れている。

この感じ、たぶんあのモンスターだ。

俺は、大仁田さんの前へ歩を進め、魔法を発動する。


「古今東西の英霊よ、気高き、その力、その魂、その権能を我に示し、敵なるものを打ち倒す英知を授けたまえ『ギリスマティ』」


さっきは逃げられてしまったので、戦い方をかえる。

即座に反応できるよう先に強化魔法を発動しておく。

これで、モンスターが現れたらすぐに避けられるはずだ。

徐々に振動が大きくなる。

近い、くる。

足下に全神経を集中する。

すぐ下にいる。

直後、モンスターは俺の後方、凜の前へと姿を現した。


しまった。

俺を狙って来るとばかり思っていたけど、凜の方へと向かって行ってしまった。

前方と下に集中していたせいで出遅れた。

凜が危ない。

足に力を込めモンスターへと駆ける。

くそっ!

足を取られスピードが乗らないが、魔力をさらに込め無理やり前へと進む。

とにかく前へ!


「そっちじゃない、こっちだ!」


間合いに入った瞬間、即座に剣を振るう。

反応したモンスターの牙が交錯するが、力任せに剣を振り切る。

モンスターの牙が何本が折れて砕ける。


「凜、下がって!」


そのまま更に前へと加速して、剣をモンスターの腹へと突き立てる。

こいつを凜の方へはいかさせない。

力任せに剣を払い、モンスターを切断する。

あぶなかった。

完全に俺の不注意だ。


「凜、大丈夫か?」

「うん、りんたろ~のおかげで」

「凜が無事でよかった」

「うん……」


凜は大丈夫みたいだ。

本当に良かった。


「なんすか今の。今の見ました? 速すぎません? なんかドンっていきましたよ。足下割れましたよ。」

「大仁田くん、気持ちはわかりますがそろそろ慣れた方がいいですよ」

「いや、そうは言ってもあんなのありですか? 足場、砂ですよ? 砂が爆発しませんでした?」

「修太朗さんですから」

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