岩を穿つ雨

確かに、モンスターは俺の足下にいる。

それは間違いない。

何度も足下から伝わってくる振動がそのことを物語っている。

ただ、よほど警戒心が強いのか姿はまだ見えない。

とにかく集中だ。

間があるからと気を抜いては仕損じる。


これで何度目だろうか。

気のせいかもしれないが、突き上げてくるような振動も徐々に小さくなっている気がする。

どういう事なんだろうか。

姿を見せる事もなく、まだ見ぬモンスターが引き起こしているであろう振動音の大きさも小さくなり、振動の間隔も徐々に伸びてきている気がする。

流石にこうなると、地中のモンスターが何を考えているのかわからなくなってくる。


”地味な絵が流れてるけど、これって戦闘中だよな”

”たぶん修太朗のせい”

”時々カメラが揺れてるし、なんかがぶつかったような音も聞こえる気がするしモンスターが襲ってきてるのは間違いない”

”モンスターいない”

”砂の中から出てこれないと思われ”

”あれか! 修太朗の『アースウォール』”

”地面に張った壁を突破できないんだろ。聞いたことないけど”

”そんなの見たことない。壁がいくら頑丈でもモンスターの攻撃だぞ?”

”修太朗様は鉄壁”


しばらくすると、先ほどまでの振動はなくなってしまった。

どうなったんだ?

死んだふり作戦?

俺にモンスターの気配を察することはできないので、なにが起こっているのかわからない。


「湊隊長、あれってもしかして逃げました?」

「おそらく、その可能性が高いでしょうね」

「モンスターが何もせずに撤退ってそんなの聞いたことないっすけど」

「私もないですね」

「まじっすか。修太朗さんの『アースウォール』が硬すぎたってことですよね」

「そうなのでしょうね。少なくともこの階層のモンスターでは文字通り歯が立たなかったということでしょう」

「どんだけ硬いんすか」

「おそらく鉄、もしかしたらそれ以上なのでしょうね」

「『アースウォール』って初級ですよ」

「修太朗さんですから」


そのままの状態でしばらく様子を見てみたけど、やはりモンスターの気配はしない。


「湊隊長これは……」

「モンスターは逃げてしまったようです。修太朗さんの展開した『アースウォール』が硬かったようです」


モンスターが逃げた?

これっていいのか?

いやでも、モンスターを間引くという趣旨からすると逃げられると困る。


「修太朗さん、見事な魔法でしたが、しばらくその戦い方はやめましょうか」

「すいません、その戦い方というのは……」

「足下に岩壁を展開するのは控えた方がいいですね。いいアイデアでしたが、モンスターが逃げてしまいますから」

「わかりました」


やっぱり俺の戦い方に問題があったようだ。

ただ、湊隊長の口ぶりだと俺が原因でモンスターが逃げたような感じにも受け取れるけど、俺は一度の攻撃すらできていないのだから、それだけはないな。

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