砂の中から

大仁田さんがペースを落としてくれたことで、どうにかついていけるようにはなったけど、俺自身が、このフィールドに適応できるようになっているわけではないので必死だ。

とにかく足が重い。

もしかしたら海辺の学校の運動部であればこの砂の上を移動することにも耐性があったかもしれないけど、もちろん俺はそうではない。

驚くべきは桜花さんだ。

配信用の機材を抱え、特に苦にする様子もなく俺達と同じペースをキープしている。

あの小柄な身体のどこのそんな体力があるのだろう。

しばらく進んでいると、先頭の大仁田さんが立ち止まった。

それに合わせ、足を止めると僅かに足下が振動しているのがわかる。

地震?


「大仁田君、頼みます。修太朗さん、モンスターが来ます」

『え……」


この振動はモンスターのものか。

それはわかったけど、俺はどうすればいいんだ。

視界の範囲にモンスターの姿はない。

ということは、砂の中か。

足下に意識を集中してみても見えないモンスターに対処法を思いつかない。


「古今東西の英霊よ、気高き、その力、その魂、その権能を我に示し、敵なるものを打ち倒す英知を授けたまえ『ギリスマティ』」


大仁田さんが魔法を発動し斧を構える。

他の隊員を見ると武器を手にしてはいるけど特に身構えた様子もない。

今回のモンスターはそれほど脅威ではないのかもしれない。

足下の振動が徐々に大きくなってきた。

見えない敵が迫ってくるという今までにないシチュエーション。

錆びた剣を握る手にも力が入る。


「大仁田君!」

「わかってるっす!」


大仁田さんが、その場から素早く動くとさっきまでいた場所の砂が爆発するようにしてそれが姿を見せた。

巨大な虫? いや魚?

頭部と思われる個所には凶暴な牙を並べ、その胴体はみみずかウナギを連想させるが、かなり大きい。

今までの階層に出てきたモンスターは見知った姿形のが多かったけど、こんなのは、見たことがない。エイリアンチックだ。

砂上へと跳びあがり、そのまま大仁田さんへと襲いかかる。


「うおおおおお~っ」


大仁田さんが雄たけびを上げてモンスターを迎え撃つ。

大仁田さんの戦斧がモンスターの牙とせめぎ合い異音が響く。


「おらあああ~!」


大仁田さんの一撃がモンスターの牙数本をたたき折り、弾き飛ばす。

押し負けたモンスターは再び砂の中へと、その姿を隠した。


「大仁田く~ん、てつだおうか~?」

「凛香ちゃん、大丈夫っす。そこでみててください」

「は~い」


姿が見えなくなったからといって、当然これで終わりじゃない。

大仁田さんの周囲へと視線を集中させる。

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