達人

「うおおおおおお〜っ!」


大仁田さんが雄叫びをあげ戦斧をトロールに向けて振り回す。

トロールと比べるとあまりに小さく見えてしまうが、大仁田さんが振るう戦斧の威力は通常の剣のそれを上回る。

ひと振り毎にトロールを削っていく。

完全にトロールを手数で上回り、圧倒している。

大仁田さんならではの力技とも言えるが、さすがはトップチームの前衛を張っているだけはあり、その動きは勉強になる。

たとえ一撃が小さくとも肉を削られてダメージが無いはずはなく、削られるごとにうめき声をあげ動きも徐々に鈍くなってきている。


「グアッ」


大仁田さんが狙うことができるのは脚部のみだが、トロールの脚は既に肉が削げ落ち所々骨が剥き出しとなっている。

脚に深いダメージを負ったトロールが自重の重みに耐えかね、その場へと崩れ落ちる。


湊隊長は魔法で1匹をその場へととどめつつ、眼前のトロールへと攻撃を繰り返す。

威力は大仁田さんの一撃には及ばないようだが、そのスピードは戦斧の一撃を上回っている。

みるみるうちにトロールは、その身に刀傷を刻まれそしてその場へと崩れた。

崩れてなお、その大きさは俺達人間の背丈を超えている。


「これで終わりにしましょう」


湊隊長は【宵闇】を持つ手に力を込め一閃する。

余りの速さに、俺の目には太刀筋が見えなかったが、湊隊長が背を向けてもう1匹へと目を向けた直後、トロールの喉笛から大量の血が吹き出して、そのまま消滅してしまった。


「すごい……」


月並みだけど、すごいとしか言えない。

もしかしたら湊隊長は、剣術の嗜みがあるのかもしれない。

それは、俺の素人剣術とは一線を画した動き。

一線どころか全く違う、達人を思わせる一撃だった。


“湊ちゃんすごすぎ”

“やっぱ湊ちゃん最強”

“とどめの一撃見えんかった.老眼のせいか“

”俺19歳、老眼ないけど見えんかった“

”達人“

”現代の佐々木小次郎“

”小次郎は負けるからヤメロ“

”トロールが赤子のようだ“

”赤ちゃんデカすぎ“


「グウウウううう」


目の前で1匹倒されたトロールが低い唸り声をあげ、湊隊長へと襲いかかる。

スピードはそこまででもないが、止まらない。

両方の拳を振り上げ湊隊長目掛けラッシュをかけてくる。

俺の所まで、空気が爆発するような風切音が響いてくる。

おそらく、あの一撃を喰らえばそれだけで終わってしまう。

そう思えてしまう一撃が止まらない。


「グアッ!」


湊隊長は、その破壊的とも言える致死性の一撃を平然とした顔で受け流し、そしてすれ違いざまに刀を振るうとトロールの腕から血が吹き出した。

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