出待ち
「修様、ずっとファンです!」
え〜っと、修様?
いや、それ誰のこと?
もしかして修太朗の修?
ずっとファンです?
ファンってなに?
目の前のおば様の言葉に思考が停止してしまいそうになる。
「私も、お願いします。きゃ〜配信よりずっといい男〜。ヤバ〜い」
「あ、はぁ、それはどうも」
「花岡さん、強すぎです。ゴブリンキング倒したのみて私もノックアウトされました〜」
「あ、はい」
新たなおば様の言葉に僅かばかり稼働していた脳みそが反応してくれた。
配信、ゴブリンキング。
この人達は、もしかして昨日の配信を観てくれたのか⁉︎
しかも、俺と握手する為にわざわざここまで来て待ってくれてたって事⁉︎
もしかして、これって出待ちってやつなのか⁉︎
余りにも非現実的な目の前の状況に理解は出来ても納得はできない。
「花岡さん、本当に独身なんですか?」
「え⁉︎」
「配信のインタビューで」
「あ、ああ。まあ、そうです」
配信のインタビュー。
あれをみて集まってくれたって事なのか。
俺は少し配信というものを舐めていたのかもしれない。
「修様、握手してもらっていいですか?」
「はい」
「きゃ~っ」
修様って、俺の事?
握手するのは別に構わないけど、俺と握手してもなにもないぞ。
「修様って、配信よりずっといい男ね」
「はぁ、ありがとうございます」
おば様が俺の事を褒めてくれるけど、これって所謂出待ちというやつなのか?
人数は6名なので、そこまで多いわけではないけどこの6人の人達は俺を目的にここにいるって事なのか。
ちょっと信じられないけど、防衛機構の配信、そして世界トレンド1位というのを甘く見ていたのかもしれない。
ただのオッサンである俺を出待ちする人がでてくるとは。
明らかに10代と思しき女の子が、色紙とペンを手に声をかけてきた。
「花岡様、できたらサインをお願いします」
「サイン? 俺の?」
「はい、ぜひぜひ」
このサインっていうのはあのシャシャッと書いてよく読めないあれだよな。
サインなんかこの40年書いたことも練習したこともない。
急に頼まれても書けるはずもなく、大きく花岡修太朗と色紙に書いてみた。
「きゃ~~花岡様、サインも男らしいです。一生の宝物にします」
「いや、そんな」
即席で書いた名前が一生の宝物とは大げさが過ぎるけど、これが世界トレンド1位の影響か。
まあ、昨日の今日だしちょっと話題になって盛り上がっても、今だけだろうけど。
まあ、突然の事に戸惑ってしまったけど一生に一度の特別な経験をしたと思えば、そう悪いものではない。
そのあと、ちょっとした握手会のようになり、ごちゃごちゃしてたら防衛機構の警備の人がやって来てくれて特にトラブルもなく解散となった。
世の中、想像を超えた出来事って起こるものなんだな。
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