第40話 配信?

「おはようございます」

「おはよ~ございま~す。昨日はよく眠れました~?」

「はい、おかげさまでよく眠れました」

「それじゃあ、さっそくみんなでダンジョンに向かいますね~」


「小谷さん、これってスライムですよね」

「そうですよ~」

「結構いっぱいいますけど、倒したりしなくていいんですか?」

「いいんです~。スライムは特に害がないのでわざわざ倒す必要はないんです~」

「そうなんですか」

「そうなんです~。たぶん花岡さんが最初に戦うのはゴブリンかコボルトだと思いますよ~」


卒業試験の時のダンジョンにはスライムはいなかった。スライムが無害だから放置していいというのも初めて聞いたけどゴブリンにコボルトか。昔ファンタジーにあこがれていた時分によく聞いた名前だ。当たり前だけど本当にいるんだな。

喜田さんはずっと後方からカメラで撮影してるっぽいけど、探索の記録係とかなのかな。


「あの~喜田さんが撮られているあれは……」

「ああ、配信ね~」

「配信ですか?」

「そう配信。そういえば伝えるの忘れてたかも~。うちの隊のダンジョン探索は基本配信されてるから~」


そういえば学校の座学で少しだけ触れられていた気がする。

一部の防衛隊の探索が配信されているとか言っていた気がする。

その時は自分には無縁だろうとそんなに気にしてなかったけど、まさかこれがそうなのか。


「あの~つかぬことをお伺いしますが、配信というのはどこに配信されているのでしょうか」

「もちろん世界に向けてだよ~」

「世界ですか⁉」

「まあ、ほとんど国内からのアクセスだけどね~」


実は、防衛機構のダンジョン探索が配信されているサイトがあるという話は聞いたことはある。

だけど俺には全く縁がなくむしろ、妬みに近い感情を覚えてしまいそうで意図的に見ないようにしていたのもあってどういうものなのかは全く理解できていない。


「すいません。ちょっといいですか? 防衛機構って国の運営みたいなものですよね。それが何で配信なんかしてるんですか?」

「それはね~国もお金が必要だからで~す」

「え⁉ お金ですか」


俺の思ってた斜め上というか完全に上空からの答えが返ってきた。

国が配信でお金儲け? そんなことある? というよりこの国大丈夫か?


「まあ、それは半分冗談だけど~。でも防衛機構に、お金がいっぱいいるのは本当で~す」


冗談なのか。


「一番の目的は国民に対して理解を得るための~広報活動の一環で~す。それに職員もいっぱい給料もらえないと辞めちゃうでしょ~。だから各隊アクセス数によってインセンティブが付くんで~す」

「なるほど」

「世間の理解も欠かせないし~それに配信って言っても完全にライブじゃなくて少しだけタイムラグがあるの~」

「へ~そうなんですか」

「初期は録画が配信だったんだけど、やっぱりコメントとかできないとライブ感なくて配信が伸び悩んで、ほぼライブの今の形になったの~」

「へ~っ、そうなんですね。ほぼライブで、完全ライブじゃない意味って何かあるんですか?」

「もちろん。花岡さんの前任者みたいなこともあるから」

「あ~~……」


聞かなかった方がよかったかも。

放送事故を無くすための仕組みか。


「うちのチーム、東京本部でもかなり人気のある方なの~」

「そうなんですか?」

「毎回同接100万接続は堅い感じ~」

「ひゃ、100万ですか⁉」

「そうそう、だから歩合も厚いの~」


いや、疎い俺でもわかる同接100万ってとんでもない数字じゃないのか?


「みなさんすごいんですね」

「花岡さん、他人事な感じだけど今日から花岡さんも出るんだからね~」

「はっ? え~っと今なんと?」

「だから~花岡さんは今日が配信デビューだから」

「で、でびゅー?」


いやちょっと待ってくれ。俺が世界配信デビュー? 

これは何かの冗談か? 

でも喜田さんのカメラで俺が驚くドッキリなはずないよな。

四十歳の俺が本部の人気チームで配信デビュー? 

何が起こってるんだ?

何かの手違いか?

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