第36話 陣内修太朗?
「花岡さ~ん。どうぞ~」
「ありがとうございます」
「もっと花岡さんとは仲良くなりたかったです~」
「そう言っていただけると私もうれしいです」
「ほら~グラス空いてますよ。はいど~ぞ」
「ありがとうございます」
学校を終え約束通り、クラスのみんなで集まって卒業パーティのようなものをしている。
オッサンの自分がいると盛り下がるんじゃないかと思い、少し躊躇する部分もあったけど来てよかった。
みんなオッサンである俺の事を気遣ってくれて、しきりにお酒を注いでくれたり声をかけてくれる。
「花岡さん、私、雷にうたれちゃいました」
「雷⁉ 大西さん、大丈夫でしたか?」
「いえ、全然大丈夫じゃないです」
「ここにいていいんですか⁉」
「ここにいないといけないんです。もう全身貫かれちゃいました」
「全身ですか」
「そうなんですよ~、これが運命なんですね」
「ああ、そういう」
大西さんがいきなり雷に貫かれたというから驚いてしまったけど、どうやら比喩表現だったらしい。
運命の人か。やっぱり若いって素晴らしい。
「オッサン、モテモテじゃね」
「ああ、陣内君。冗談はやめてください。四十の独身男を捕まえてその冗談はさすがにキツイものがありますよ」
「は~オッサン、相当こじらせてるな」
「陣内君、四十の独身オッサンが拗らせてないとでも?」
「ははっ、やっぱ花岡のオッサンおもしれ~な」
本当に陣内くんには助けられた。
陣内くんがいてくれたおかげで、ボッチを免れた。
口はちょっと悪いけど本当に優しい、いい若者だ。
「花岡さん」
急に花岡さん⁉ どうしたんだ陣内くん。
「改めてお礼を言わせてください。本当に助かりました。ありがとうございました」
そう言うと陣内くんが深々と頭を下げてきた。
「頭をあげてください。あれはオッサンがカッコつけてみただけですから」
「俺、あれから家に帰って奥さんの顔みたら絶対に死んじゃだめだと思ったんだ」
「うん」
「花岡さんのおかげで死なずに済んだ」
「大袈裟ですよ」
「俺にだってわかる。あれは俺じゃ無理だったって。校長の言葉じゃないけど、逃げてでも生きなきゃならない。そう気が付いたんだ。本当に感謝してる」
「そう言ってもらえたら無理してカッコつけた意味があったかな」
「いや、花岡さんマジでカッコいいからな。俺も年くったら花岡さんみたいになりたい。それと決めたんだ」
「いや、いや、陣内くんにそんな風に言われたらいたたまれないから」
「子供が生まれたら修太朗ってつけるから」
予想外の申し出に面食らってしまった。
俺に由来する名前を子供に?
それは素直にすごく嬉しい。
陣内くんと奥さんの子供か。きっとかわいいんだろうな。
嬉しいけど、名前のせいでモテない子供が育ったらどうしようという一抹の不安がよぎる。
俺と同じ名前の子供。陣内修太朗くんか。
案外わるくないんじゃないか?
そんなことを考えていると、陣内くんは他のクラスメイトのところへと行ってしまった。
ひとりでいると、今度は市川さんが話しかけてきてくれた。
「花岡さん、約束ですよ?」
「市川さん、約束ですか?」
「そうです。この前約束したじゃないですか」
「え~っと、それはもしかして」
「そうです。お食事の件です」。
「すいません。てっきり社交辞令とばかり」
「花岡さん、社交辞令で誘ったわけではありませんよ」
「それは、本当に失礼しました。是非ご一緒させていただければと」
「本当ですか⁉」
「もちろんです」
「断られなくてよかった」
俺が断るなんてあるはずがないのに市川さんはお酒が入っているからか満面の笑顔で喜んでくれている。
俺なんかを本気で誘ってくれるなんて、市川さんなんていい人なんだろう。
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