第34話 生きてるって素晴らしい
「オッサン⁉」
「花岡さ~ん!」
「無事だったんですね~!」
「もうだめかとおもいました~~」
地上へと戻ると、俺の事を見つけたチームのみんなが駆けよって来てくれて、市川さんをはじめとする女の子たちが泣きながら抱きついてきた。
まあ、あの別れ方をしたらこうもなるよな。
若い女の子に抱き着かれたことなんかはじめての経験だ。
しかも3人。
正直どういう反応するのが正解なのかよくわからないけど、泣くほど心配をかけた事に申し訳ないという気持ちはありつつ、泣くほどに心配してくれた彼女たちの気持ちが嬉しかった。
「花岡さんは命の恩人です。この御恩は一生忘れません」
「私に出来る事なら何でも言ってください」
「もう、カッコよすぎます~」
状況が状況だっただけに、これも理解はできるけど、若い女の子がオッサン相手に何でもとか言うもんじゃないですよ。
それに、一生忘れないって、それほどの事じゃない。
カッコつけてはみたけど、俺自身がカッコよかったわけじゃない
結果として無傷で終われたのも田淵さんがいてくれたおかげだし。
後で聞いたところによると、学校の職員総出の救出隊が編成されている最中だったらしい。
大事にならなくてよかった。
実技試験はこれで終わりらしい。卒業試験の合否判定は明日には出るらしい。
俺が出来ることは全部やったし、合否は神のみぞ知るといったところだけど手ごたえはあった。
そして試験を終えた俺は田淵さんの仕事が終わるのを待って、約束通り一杯やりに来た。
「お疲れさまでした」
「いや、今日は本当にありがとうございました。あ~〜美味い。生きてるって感じですね~」
「ええ、これが本当の生きてる~〜ですね」
これほどまでに『生きてる』を実感した一杯は初めてだ。
2人でやってきたのは焼き鳥屋さん。
焼き鳥は俺の好物の一つだ。
いい年したオッサン二人だけなので気取る必要もない。
安くてうまい焼き鳥屋さんで、帰還祝いをあげる。
最初の一杯は、かぼす酎ハイ二百九十円だ。
さっぱりして飲みやすいのにとにかく安い。
「今日は本当に助かりました。まさか一階層であんなイレギュラーが発生するとは。完全に死を覚悟したんですよ。あのダンジョンでイレギュラーが発生することなんかほとんどないんですけどね」
「運が悪かったんですかね」
「いえ、花岡さんがいてくれて運がよかったです。おかげで妻と子供を泣かせずに済みました」
「田淵さん、結婚してたんですか?」
「はい。そういう花岡さんは独身だそうで」
「いや~お恥ずかしい」
「やっぱりモテる男は違いますね」
「え~っと誰の話ですか?」
「もちろん花岡さんです」
「モテてないですよ」
「またまた~今日も女の子3人泣かせてたじゃないですか」
「いや、あれはモテてたとかそんなんじゃないです」
田淵さんは、あれを見て完全に誤解しているようだけどあれはそんなんじゃない。
あれはつり橋効果というか特殊な状況が生んだだけだ。
それに俺はモテてるから独身なんじゃない。
全くモテないから独身なんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【作品のフォロー】【評価☆☆☆】で応援してもらえると嬉しいです!
※作品画面の下にある『おすすめレビュー』の『☆で称える』でお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます