第13話 999

いや、本当は薄々気づいている。


ステータスの999のせいだ。

それにもしかしたらジョブが大魔導師であることも影響してるのかもしれない。

本当にエラーじゃなかった。

本当に俺は魔法が使えた。

しかも普通じゃなかった。


「花岡さん、それはわかってるんだよ。そういうことじゃなくて、なんで、あんなことになるんだ。講師になって結構経つけどあんなのみたことないんだけど」

「あ〜多分ステータスとジョブのせいじゃないかと。先生は俺のステータスとか知らないんですかね」

「そんな個人情報まで講師の俺が知るわけないだろう」

「そうなんですか。ここだけの話なんですけど、俺の魔力系のステータスなんですけど999なんです」

「は⁉ なんだって? もう一回いいか。耳がおかしくなったのかもしれん」

「999です」

「999?」

「はい999です」

「999」


それっきり先生の動きが止まってしまった。

数十秒の沈黙の後、先生がなにもなかったかのように次の魔法へとかかった。


「よし、次は氷系魔法の『アイスバレット』だ。それじゃあまず俺がやってみるから見てろよ。いくぞ。大気に宿る悠久の精霊よ、その零下の息吹を放て。我が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」


先生の目の前に氷の塊が出現して、そのまま的へと飛んで行き見事に命中した。


「こんな感じだ。じゃあそれぞれやってみろ」


先程と同じように順番に詠唱をしていく。

俺の番だ。恥ずかしい気持ちがなくなったわけではないが二回目だし、吹っ切れそうだ。


「ん、んっ。大気に宿る悠久の精霊よ我が求めに応えて、ここにその姿を現せ! 『アイスバレット』」


俺の前に氷の塊が現れた。そして的へと飛んでいき的に命中した。

ただその様は『ファイア』同様普通ではなかった。

一メートル大の氷の塊が的へと飛んでいき、的を台座ごと完全に破壊してしまった。


「うん、花岡さんは、もういいんじゃないかな。的がなくなってしまうから。国家機関とはいえ予算は限られてるんだ。そう何個も壊されても困るんだ。うん、花岡さんは見学な」

「見学ですか? 俺もみんなと同じように訓練しないと魔法使えないんですけど」

「うん、花岡さんにはこの教本を渡しておくから人の迷惑にならないように自習な。間違っても詠唱を口にしてはダメだから」

「口にしないと使えるかどうかわからないんですけど」

「うん、まあ、花岡さんは大丈夫でしょ」

「はぁ……」


正直入校して二日目の俺に大丈夫と言われても全く響かない。

三ヶ月後に配属となるのにまさかこのまま実地訓練を積ませてくれないなんてことはないよな。大丈夫だよな。

火と氷は使えるのがわかったけど、それ以外は使えるかどうかすらわかってないんだぞ。

それからの実地訓練は本当に端で見学することになってしまった。

他の生徒がいろんな魔法にチャレンジするのを見ているだけだ。

一応みんなと同じ教本はもらえたので、あとで一人で練習してみるしかないかもしれない。

女の子達が集まって何かを話しているみたいだけどなんとなくこっちに視線を感じるのが見学者の俺にはちょっと辛い。


「ねぇねぇ、花岡さんすごかったね」

「うん、あんなことあるんだ。もうびっくり。やっぱり大人は違うわ〜」

「もしかしなくても花岡さんって出世するよね。間違いなくない? あの感じで将来も間違いないとなれば、ねぇ」

「やっぱり今しかないかも」


ん……やることがないせいで身体が冷えてしまったのか少し寒気がする。


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