第14話 リトルウィッチ
やっぱり俺もみんなと一緒に魔法の訓練をやりたいが、先生がチラチラとこちらを見てくるのでおかしな真似はできない。
「私プロテクション系は全然ダメだった」
「私はエンチャント系がダメ」
「私なんか土と風が全滅……」
2時間ほどしてようやくみんなの訓練が終了したようだ。
「花岡さん、今日の放課後はお暇ですか?」
「え〜っと市川さん。なにか俺に用ですか?」
話しかけてくれたのは知的な雰囲気が漂う女子生徒の市川さんだ。
眼鏡女子というのだろうか。眼鏡が似合う美人さんだ。
「よかったら、魔法のことも話し合いたいし食事でもどうかなと思って」
「俺ですか?」
「はい」
市川さんとは話したことなかったけど、なんで俺のことを誘ってきたんだろう。
魔法の事を話し合いたいと言っているので、もしかして取り残された俺のことを気にかけてくれたのか?
そうだとしたらこんなオッサンにまで優しくしてくれる市川さんは天使だな。
その流れで俺は市川さんと一緒に夕食を食べることになったが、彼女の希望でメニューはパスタになった。
俺の四十年に及ぶソロ人生の中で、わざわざ一人でお店にパスタを食べにくる、なんてことは一度もなかった。食べるなら、コンビニのレンチンパスタが常に定番。お店で食べるなんて、それこそマジで二十年ぶりくらいだろうか。
「花岡さん、美味しいですね」
「ああ、本当に美味しいですね、やっぱりお店で食べると違います」
「お口にあったようでよかったです。ところで花岡さんってすごいですよね」
「え〜っとなにがでしょう」
「魔法です。他のみんなと桁が違うというか別格な感じじゃないですか」
「別格というか、蚊帳の外というか仲間外れな感じになってますけどね」
「いえ、それも他の人とは違う証明でしょ。すごいです」
「そう言ってもらえると気が楽になります」
今日のことは結構へこんでいたので、社交辞令でも、市川さんの言葉は嬉しい。
「魔力がすごいんですよね」
「すごいというか、数値は高いみたいです」
「そうなんですね。失礼ですが花岡さんのジョブをお聞きしても大丈夫ですか? ちなみに私はリトルウィッチです」
「リトルウィッチですか。なんかかわいい感じですね。市川さんにぴったりですね」
「そんなことは……花岡さんお上手ですね」
「いや、本当ですよ。それで俺のジョブなんですが大魔導師です」
「大魔導師ですか?」
「はい大魔導師です」
「はじめて聞くジョブですけど、名前だけでも凄そうですね。さすが花岡さんですね」
「恐縮です」
「ふふっ、花岡さん、恐縮ですって、面白い方ですね」
「はは……恐縮です」
「噂で聞いたんですけど、花岡さんって独身なんですか?」
「あ、ああ、この歳でお恥ずかしい話ですが」
「そうなんですね。ちなみに女性のタイプってどんな感じですか?」
「女性のタイプですか。いや俺に女性をどうこう言う資格はないので」
「花岡さんって紳士ですね」
「いやいや、とんでもないです」
「ちなみに私とかどうですか?」
「え? 市川さんですか? それはもちろん若くて綺麗だと思います」
「若いって私もう23ですよ」
「いやいや、若いですよ」
23で若くないって俺は四十だよ。
「私も防衛機構に入るにあたってそろそろいい人がいればな、なんて」
「市川さんだったらいくらでもいい人が見つかりますよ」
「そんなことないんです。花岡さんは私なんかどうですか?」
「いや〜光栄です。冗談でもそんなふうに言ってもらえて。防衛機構にはエリートさんがいっぱいいますから市川さんなら選び放題ですよ」
それからご飯を食べながら市川さんと恋愛談義に花が咲いた。咲いたといっても俺の経験から話せることは何もないので市川さんの話を聞くだけになってしまったが、若い子の恋愛談義を聞いていると自分も若くなったような錯覚を覚えて、調子に乗ってしまいそうになるから危ない。
市川さんが、今夜は帰りたくないなんて言ってくるから危うく本気にしてしまうところだった。
本気にしてたら、きっと学校中にオッサンの勘違いキモいと噂が駆け巡ったことだろう。
お酒が入ってなくてよかった。
酒が入るとそんな当たり前の冷静な判断が出来なくなっていた可能性もゼロではない。
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