第6話 課長に伝える

「あ〜頭痛いな。ちょっと飲みすぎたか」


俺は毎日の缶酎ハイを日々の楽しみとしていたが、実はお酒はあまり強くない、

ビールやウィスキーは飲めない。

社会人になってから付き合いで飲む事が多くなり、あまり得意ではないので自然と甘めの酎ハイを飲むようになった。

それがいつのまにか家でも飲むようになってしまったが、それもせいぜい二本が限界だ。

昨日は悩みに悩んだせいでクリスマスに続き禁断の三本目に手を伸ばしてしまった。

そのせいで朝から頭が痛い。

完全に二日酔いだ。

さすがに2日連続の酎ハイ3本はやりすぎた。

頭の痛みを堪えて、身支度を済ませて水を一杯飲む。


「あ〜新しい門出が二日酔いとは俺らしいな」


俺は再び防衛機構の事務所へと出向き昨日の人に伝える。


「決めました。防衛機構に入ります。なので訓練校に入校したいと思います」

「そうですか。防衛機構としてはありがたい申し出です。人手はいくらあっても足りませんからね」

「それで、入校はいつからでしょうか?」

「毎月開講しているので、直近ですと来月の十日からですね」

「来月十日からですか」

「ああ、花岡さんはお仕事の都合があるんですね。大丈夫ですよ。入校者を出す職場の方にも助成金がおりますから気持ちよくきていただけるはずですよ」

「そうなんですか。まあ頑張れば引き継ぎも終わると思うんでよろしくお願いします」


それから俺は入校に必要な書類を渡されて家に帰った。

早速家に着いてから書類を書いていくが、書いているうちに実感が湧いてきた。


「俺が、防衛機構の職員か〜。俺が魔族とかモンスターと戦うのか。ちょっと信じられないな。会社の人に言っても信じてもらえないかもな」


そして次の日いつもより早めに会社に出勤し、課長に申し出た。


「課長、少しよろしいでしょうか?」

「おう、どうした花岡。真剣な顔して。ついに結婚が決まったのか?」

「はは……残念ながらそれはまだ」

「お前、顔は悪くないんだし社内にもそれなりにいると思うけどな〜」

「ありがとうございます。だけどそれはもう諦めてますよ」

「よかったら俺が取り持ってやってもいいぞ」

「いえ、相手の人に迷惑がかかりそうなので大丈夫です」


ああ、やっぱり課長いい人だな。俺のために骨をおってくれる人なんかそうはいない。だけど相手の人の気持ちも考えて欲しいもんだ。

会社の上役に俺なんか紹介されたら断りづらくてかなわないだろう。


「そうか。それじゃあなんだ」

「それが、来月の一週目で退職をお願いしたいんです」

「な……なんでだ。なにか会社に不満があるのか? 悩みがあるなら言ってみろ。今度係長に推薦しようと思ってるんだぞ」

「ありがとうございます。会社に不満はないんです。そうじゃなくて防衛機構に入ろうと思って」

「は? 防衛機構ってあの防衛機構か?」

「はい、あの世界防衛機構です」

「いやいや、花岡、辞めたいからって嘘はだめだぞ。お前魔法使えないだろ」

「いや、それが一昨日突然使えるようになったみたいで、防衛機構の事務所に行ったら来月の十日に訓練校に入校だって言われたんです。それと会社には俺が抜けることに対する補償というか助成金も出るって言ってました」

「マジか」

「はい、マジです」

「マジでか」

「はい」

「そうか〜花岡がな〜。三十九だっけ、そんなことってあるんだな」

「あ、一昨日四十になりました」

「そうか、花岡がな〜。まあ、お前正義感あるし向いてるかもな。防衛機構か〜。俺も昔憧れたな〜。これで花岡も結婚できるな。よかったな」


なんで、防衛機構に入ったからって四十歳のオッサンが結婚できると思うんだ。

それとこれとは別の問題だろう。


「課長、何を言ってるんですか。そんなわけあるはずないでしょう」

「いやいや、マジな話、 四十独身で防衛機構だぞ? 世間の女性が放っておくわけないだろう。お前顔は悪くないわけだし」

「いや、防衛機構に入っても俺は俺ですよ? 急にモテたりするわけないじゃないですか」

「は~花岡、相変わらずの自己評価だな。10年お前の上司やってる俺からのアドバイスだ。お前の自己評価と周りの評価はズレがあるぞ。それだけはわかっておけよ」

「は~そうですか」


課長の優しさが身に染みるけど、その優しさは傷口に塩を塗り込むように四十男には堪える。

課長に退職を申し出てからの日々はあっという間だった。

今までの仕事を切りのいいところまで仕上げ、後任の担当者に引継ぎをしているうちに時間が過ぎていった。

自分で言うのもなんだけど結構きっちりしてるタイプなので、後任の人に迷惑をかけるような事態はならずに済みそうだ。


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