第5話 40歳の決断
俺は家に帰って本日2本目の缶酎ハイを飲んでいる。
「は〜っ、どうするかな〜」
帰ってきてからため息と独り言が止まらない。
これが四十歳を迎えたオッサンだからゆえと言われても否定はできないが、防衛機構でのことが原因だ。
「花岡さん、数値はとにかく魔力が検知された以上、あなたには二つの選択肢があります」
「二つですか」
「はい。ひとつは魔法を使うことを諦め今まで通りの生活をおくることです。花岡さんのようにある程度社会経験を積まれたタイミングで魔力を発現された方には結構いらっしゃいます。その場合、防衛機構に入らないという選択もあります。無理をして防衛機構に所属されるよりも今の生活基盤を大事にされたい方も多いので」
「そうですよね」
「もうひとつは魔法を使い、防衛機構に所属して外敵と戦う道です。当然、危険と隣り合わせのお仕事なのでそれに見合った報酬と社会的地位を得ることができます。この場合正式に所属となる前に三ヶ月程度訓練校に通っていただきます」
「三ヶ月ですか……危険な仕事につくにしては短い気もしますが」
「はい、あくまでも実戦的な事は所属してからが中心となりますし、別に英語の勉強とかをいちからおこなうわけではないので。あくまでも所属するにあたってのルールと魔法を使えるようになるのが目的ですからね」
「たった三ヶ月で魔法が使えるようになるんですか?」
「魔力が備わっている時点で、あとは使い方の手順を踏めば適正のある魔法はすぐに使えるようになりますよ。もちろん、その方によって得て不得手や魔法の威力や発動スピード等は個人差が出てきますけどね」
「そうなんですか」
正直、防衛機構に所属してエリート街道を歩く。それはこの数十年夢見ていた事だ。ただ職員の人が言っていた、ある程度の年齢以上の人は今までの生活を続ける人も多いというのもわかる。
痛いほどにわかる。
俺にだって大学を出てから十八年ひとつの会社頑張ってきた自負はある。
主任という今の職務に責任だって感じている。
何より務めている会社はブラック企業ではないので、今後仕事で死ぬ事はないと思う。
もう少し頑張れば係長にだって手が届くところまできている。
それを全て捨てて訓練校に入校することに躊躇してしまう。
「それと、訓練校ですがどうしても18〜25歳くらいの方達が中心になりますので花岡さんと同年代の方は少ないです。もしかしたら花岡さんだけかもしれません」
「そうなんですね」
まあ、四十歳の人間が少ないだろうというのは理解できる。
下手をすれば自分の子供でもおかしくない年齢の子達と一緒に通って大丈夫だろうか?
完全に浮いてしまいそうで怖い。
「でもな〜防衛機構だよな〜。ずっと入りたかったんだよ。ご先祖様みたいに魔法を使って人々を護ってヒーローになりたかったんだよな」
俺は小さい頃からご先祖様にあこがれていた。老け顔でモテなかったという部分にシンパシーを感じていた事は否定できないが、それ以上にご先祖様は魔法を使い防衛機構に入って人類を護った。その事に強烈な憧れを抱いた。
そして子孫の俺なら同じようになれるんじゃないかって勝手に思っていた。
特に老け顔でモテないという呪いとも思える遺伝子を受け継いだ俺なら魔法の素養も受けついているかもとどれだけ願い夢想した事か。
それが今、実際に自分の目の前に現れた。
正直二十代の頃のように勢いだけではどうにもならない色々な事情があるし、それなりにしがらみもある。
だけどやっぱり、やってみたい。
年甲斐もなくと言われるかもしれないが、ヒーローになってみたい。
不安はある。だけどどうしてもその気持ちを抑える事はできない。
あの動画のヒーロー達のように。
モブヤーのようなヒーローに。
「よし! 明日返事をしに行ってみるか」
悩みに悩んで結論を出した俺は本日3本目の缶酎ハイに手を伸ばした。
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