第3話結婚式のその後で

結婚式は筒がなく終わった。大男、俺の旦那様に、来賓の方々に挨拶をするから先に帰っているように言われた俺は、伯爵家の立派な馬車に乗って早々に伯爵家に送り届けられた。俺の住んでいたお屋敷よりも遥かに立派なこのお屋敷で、これから暮らしていくのかと思うと、全く実感が湧かない。

「奥様、これからお世話をさせて頂く、専属メイドのマーサと申します。どうぞよろしくお願い致します」

「よろしくね。早速なんだけど、着替えをしたいの。入浴の用意もしてくれるかしら?」

「もちろんでございます」

マーサが足音を立てずに部屋を出てゆく。俺はふうとため息を吐いた。

お屋敷を外から見た時にも思ったが、普段は、全然魔物と関係のない暮らしをしているようだった。俺が想像していた魔王城のような、魔物の皮を使って作った壁紙だとか骨を使った杯だとか出てきたらどうしようかと思ったけど、余計な心配だったようだ。

「……奥様、入浴の準備ができました。どうぞこちらへ」

思っていたよりも早いマーサに感心しながら、俺はようやくこの窮屈なドレスからおさらば出来ると、弾む足取りで浴室へ向かった。


これでもかと広い風呂に入った後で、ゆったりとしたドレスに着替えた俺が向かったのは、夕食をとるためのダイニングルームだった。しかし、そこに旦那様の姿はなかった。

「申し訳ありません、ご主人様は昨日のお仕事の報告をしに、そのまま王城へと向かわれたそうで……本日の深夜にお戻りになる予定です」

「そうなの。お仕事なら仕方ありませんわ」

頭を垂れる執事に俺はあっけらかんとそう言って、先に食事を一人で始めた。食事はどれも美味しく、パンをおかわりするくらい満足な食事だった。

「奥様、寝室に向かわれる前に、何かご入用のものはありますでしょうか?ご主人様には、奥様が望むものを用意するように申しつかっております」

「まあ、そうなのね……では、お酒をもらえるかしら?旦那様と飲めるように、グラスは二つお願いね」

「かしこまりました」

執事が恭しく礼をして去ってゆく。腹がいっぱいになったら、後はもう酒を飲むくらいしかやることはないだろう。これから初夜を迎えるわけだし、景気づけに一杯やっとくかという気持ちで頼んでみた。旦那様の初夜はいったいどんなものだろうか。玄関ホールいっぱいに魔物の皮で埋めるくらいには気力と体力がある人なのだから、こちらも気合を入れておかないと、体がもたないかもしれない。

「あ、ちょっと待って」

「はい」

「アルコールの度数が高いものをお願い」

俺が執事を呼び止めて頼むと、執事は恭しく頷いた。流石、伯爵家。できた執事だ。


案内されて向かった寝室には、キングサイズの天蓋付きベッドが部屋の真ん中にドーンと置かれていた。もう、寝る以外に何もできませんといった部屋に笑いが込み上げる。ベッドサイドには頼んでいた通り、氷の入った器にシャンパンボトルと、揃いのグラスが置かれていた。俺は早々にそのボトルの栓を抜くと、グラスになみなみとシャンパンを注いで一口飲んだ。

「……う、うまぁ〜!!」

思わずそう声を漏らすほど美味しかった。こんなに美味しい酒は、前世でも飲んだことがない。ご機嫌になった俺は、グラスが空になるとすぐに酒を注いだ。

「おっと、もったいない」

グラスの淵から溢れそうになった酒を、慌てて口をつけて舌で掬う。その際に、来ていたネグリジェに酒がかかってしまった。

「あっと……」

レースがふんだんに使われたネグリジェにシミができてしまう。どう見ても高そうなネグリジェは、この初夜のために用意されたオーダーメイド製だとマーサが言っていた。果たして、旦那様が用意したのか、それとも気を利かせた執事が用意したのか……。

「まあ、どうせすぐ脱ぐことになるんだし」

俺はネグリジェにシミを作ったまま、酒を飲み続けた。

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