2-10:ロランさんの授業
麓の村に行ってから、2週間が経った。
ロランさんの判断で、風谷に
一時、ロランさんは村長さんに『神獣召喚士』と思われていたけれど、その誤解も解けた。というか、神獣召喚士の存在自体がおとぎ話のようなもので、村でも信じているのは村長さんだけだったらしい。
今のところ、風谷は神獣とは無関係な調査拠点という扱いである。
あの剣幕だった村長さんがあっさり『神獣召喚士がいない』と飲み込んだのは気になるけど――まぁ、そこは考えても仕方がない。
今、私だって色々忙しいのだ!
ロランさんは約束通り、私に召喚術や風谷のことをたくさん教えてくれた。
「魔獣よ!」
お昼の日差しがそそぐ、お屋敷前の野原。そう声を張って、私は目を閉じた。
エアの声や、もふもふした温かさをイメージする。
「
ひゅっと風がやってくる。
「神獣、エア!」
頭上に青白い光が生まれたかと思うと、ぽん!と空中にエアが現れて私に飛び込んできた。
「わんっ」
「き、来たっ」
青い毛並みの子犬が、腕の中にいる。
ロランさんはメガネ越しに目を細め、嬉しそうに手を叩いた。
「おめでとう! これで、アリーシャは本当の意味で
「今のが――!」
「そう、召喚。
村に行った後、私は上達が早まった。風谷の環境に慣れたせいかな?
授業も進んで、コニーさんから座学で知識を教わり、ロランさんから実技を習う。
うまくいかない時はダリルさんが慰めてくれて、気晴らしの畑仕事や、魔獣に乗せてくれたりした。
どうしよう、まだ息が整わないや。
「平気?」
「え、ええと」
私は口をもごもごさせた。
「こんなに嬉しいの、初めてで……」
「ふふ、もっともっと、神獣との触れ合いはたくさんあるだろう」
違うんだよ。
一歩進んだっていうのが、嬉しいんだ。
この後、いろんな子と会えたとしても、今の湧き上がるような嬉しさって特別かもしれない。だって『なりたい』と思ったものに、練習して、なれたってことだから。
ロランさんは微笑み、腰を落とす。
「おめでとう、アリーシャ」
「はいっ」
私はエアに頬ずりする。
青い毛の感覚がもしゃっとほっぺたに広がって、なんだか気持ちいい。エアの毛並みってすべすべしてるんだよね。
さて。
そして、もう一度空中に手をかざす。
ロランさんが察して言った。
「
「はいっ」
「
逆に言うと、〈召喚〉ってかなり強力なスキルなんだ。
ナイトベルグ領では差別されていたけれど、警戒もされていたと思う。だから家族は私を修道院に送って、スキルを取り上げて調べようとしたんだね。
「魔獣よ!
私は叫んだ。
「神獣、ディーネ!」
ぽん、と音がして、今度は空中にディーネが飛び出してくる。急に呼び出されて驚いたのか、宙で手足をばたつかせた。
『あ、あわわわ! 呼ぶ前に一拍おけ!』
「ご、ごめん……」
慌てて抱きとめる。
ディーネは抗議するように尻尾を振って、エアの側で伏せた。
私は胸に手を当てて、ロランさんに微笑みかける。鼻高々ってやつだ。
「どうです? もう、マスターしたでしょ」
「うん。君が神獣召喚士でなかったら、弟子に誘っていたところだよ」
ふふふ、弟子にしてくれてもいいんですよ?
ニコニコしていると、コニーさんが私達を呼びに来た。遠くから、召喚の様子を見ていたらしい。
腰まである緑髪をなびかせ、優しげに笑いかけてくれる。
「おめでとうございます、神獣召喚士さま」
こほんと咳払いするコニーさん。
「実技は十分ですね。次は、私の方で用意した課題を解いてもらうのですが……」
「やりますよ」
こっちはやる気十分です。
「ふふ、テストですよね? 私、得意なんですよ」
コニーさんとロランさんは顔を見合わせた。8歳だけれど、現代日本で生きてきたアラサーである。
受験に比べれば、大自然の中で勉強できる今は天国なのだ。
「おやおや、自信たっぷりですわね。手加減はしていませんよ」
「望むところですっ」
風谷のみんなのために、私も一人前になりたいのだ。
私はお屋敷の勉強部屋に戻って、コニーさんが手作りをした答案に書き込んでいく。
内容は今までのおさらいだ。
特級、1級、2級、3級、4級の5等級があって、
魔法が使えるのが100人に1人くらい。さらにスキル〈召喚〉を授かる人は魔法使いの100人に1人。
だいたい、一万人に1人、召喚士の適性ありってことか……。小鳥などの小型魔獣しか召喚できない人もいるけど、強いかどうかはおいておいても稀なスキルなのは確かだ。
魔獣を操ることに加えて、遠くから連れて来る――ワープみたいなことまで、できるってことだもんね。
私がもといた聖リリア王国でも、遠くに人を送る転送魔法や声をやりとりする通信魔法は存在する。ただ、大掛かりな魔方陣を描いて専門の人がべったり張り付いたりするから、あちこちにあるわけではない。聖リリア王国は魔法関連の技術が発達していて、私がスキルを奪われかけたように、独自の技法も多いという。
数百人の召喚士と、聖リリア王国の魔法技術――どっちが優れているともいえないし、比べるべきかもわからない。けど、召喚士は国が協会を作って管理しなければならないくらいの重要度はあるってことだ。
浮かぶ答を、巻物状の答案用紙に羽ペンで書き出していく。
テストってちょっと懐かしいね。
頭が整理されていくにつれて、いろいろな疑問がまた浮かんできた。
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