「ハイッ」
という背後から聞こえた木山の声に合わせて、走りながら右手の平を上にして後ろに差し出した。プラスチックの筒が手に当たった感触がして握り絞めようとしたが、空を切った。振り向くと、乾いた音と共にバトンが地面で跳ねている。
加速させようとしていた足の回転を緩め、体を反転させた。そして、校庭の二百メートルのコースから外れて、南野と村田がいる場所まで戻った。
「あとは雅人と藤田のバトンパスだけなんだけどなー」
頭の後ろで手を組みながら村田は笑った。
悪気はないのかもしれないが、少し心を抉るような発言をしてくる。いつの間にか体育祭まであと二日に迫っている。練習できる回数は限られてくる。
一方、一走者から三走者までの南野、村田、木山の三人のバトンパスは上手くいっている。
「オーバーハンドパスもアンダーハンドパスも試しているけど、どっちも上手くいかないよね。タイミングが良くないのかな?」
南野は腕を組みながら、うーんと唸った。僕たちのバトンパスが上手くいかない原因をしっかりと考えてくれているようだ。張本人の木山は一つのバトンでお手玉のように遊んでいる。特に何も考えていないだろう。
おそらく僕とのバトンパスが上手くいかない原因を僕と同様にわかっている。
何も改善案が出ないまま時間だけが過ぎていくのも無駄だと判断した僕らは、木山と僕のところ以外のバトンパスの練習を重ね、体育祭二日前の練習時間が終わった。
「明日こそ成功させような」
と、誰もいない静かな校門前で村田が手を振り、村田と南野と分かれた。
校門を出てから右に行くのが、南野と村田。左に行くのが僕と木山だ。
体育祭の練習時間ぎりぎりまでバトンパスをしていたため、この時間に帰る生徒はほとんどいない。南野たちと校門で分かれてから、僕は木山の半歩後ろを歩くという気まずい時間が流れていた。
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