第52話 「違和感」を満喫しようと思います


「それは1か月くらい前のことー」


 セリーヌは話し始めた。


「あるところに、ノーティという男の子がいました」

「...やめてください!」

「ノーティは大きな木の下で、体育座りをしてしょぼんとしていました」

「ほんとに恥ずかしいので...」

「街中でもらった風船が木に引っかかっていたのです」

「えーん...」

「ノーティは言いました。「気になっていた子が別の子に取られたうえに、風船は気に引っかかって。僕はどうしたらいいんですか...ぐすん」と」

「ぐすん」

「そこにメリッサとセリーヌという女性が現れ、風船を取ってくれたのです」


「...嘘つかないでください」

「あえ?」

「風船取ってないじゃないですか。お手持ちの弓で取ろうとしたところ、コントロールミスって割ったうえで、新しいのくれたじゃないですか」

「あ、そだっけ?」

「...ま、そういうわけでノーティくんは、2人の心優しい女性に助けられたのでした。めでたしめでたし」


「へー!そんなことあったんだね~」

 セレナは拍手をしている。



「でもまさか、またこうしてキミに会えるとはって感じ」

「ね~、せっかく連絡先交換したのにね」

「なっ...!」


 そう。

 ノーティが2人と別れたあとのこと。

 2人のことが気になったノーティは、別れて間もなくきびすを返し、走って2人に声をかけたのだった。

「連絡先、聞いてもいいですか!!」


「あの時のキミったら、もう顔が真っ赤で真っ赤で~」

「お願いしますそれ以上言わないでぇ~」

「後ろ振り返ったらウチらのこと見上げてる男の子いて~、かわいかった」

「あのあとメル、ずっとノーティの話してたんだから」

「えっ...」

「ちょ、セルそれは言うなって」

「かわいいかわいいって」

「へー、よかったねノーティ」

「や、やめろよセレナ。俺は別にそんなんじゃ...」

「あはっ、ノーティとメルの関係、いったいどうなることやらっすね、セレナさん!」

「そうだねぇ~」


 こうしてメリッサとセリーヌは、エリシアの灯に住むことになったのである。




「フォロ~!試作完成した!!」


 朝6時。

 どこからともなく帰って来た最強メイドにそう告げたのは、武具職人アバウトである。


「素晴らしいです、アバウト様。閃華砲でございますね」


 スタン爺の遺志を受け継いでおよそ2か月。

 フォロに教わり武具の基本から学び始めてから、初めての試作品である。


「試しに打ってみてくれないか!?」

「私でよろしいのでしょうか?」

「今まで一緒に過ごしてきた仲じゃん!これはフォロにしか頼めないよ」

「うふぇっ...ぐすっ...アバウト様」

「泣きまねバレてるぞー」

「し、失礼いたしました。では私が初めの一発を承ります」


 そしてフォロは、作り立ての閃華武具を手に持った。



 ゴクン。

 アバウトの緊張の瞬間である。


「参ります」

 そしてフォロは霊力を流し込んだ。


スポンッ...。

 

「あ...」

「素晴らしい空気砲でございます。スタン爺もびっくりでしょう」

「これは!空気砲じゃ!ないっ!!」

「失礼いたしました」

「うへぇ~ん!」


 アバウトは走って作業部屋まで戻っていった。



「アバウト様...」

 残されたフォロは、じっと閃華砲を見つめている。


「これ...」


 そう言ってフォロは、武具を構え直した。

 そして次に流し込んだのは、霊力ではなく魔力だった。


 そして勢いよく飛び出したエネルギーの塊は、数本の木を軽々と倒していった。


「魔道具じゃないですか」


 どこでどう間違えたのか。あるいはこういうものなのか。



「...にしても今の増幅率。込めたのはほんのちょっとの魔力でしたが...」

 フォロはその違和感に首を傾げた。




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どうも、定食です。

ご覧いただきありがとうございます!


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