第51話 「新メンバー」を満喫しようと思います


「アバウトくん、1か月ご苦労さま」

「ありがとうございます!」


 はじめての給料日である。

 フィレからの手渡しにより行われた。


「フィレさんって、一番最初のお給料は何に使われましたか?」

「私は、えーっと...バリエルにちょっとしたプレゼントをした、かな。ほんとは師匠のために使う予定だったんだけど」

「師匠って、ポウェルさん、でしたっけ」

「うん」

「確か、フィレさんの入隊試験の日に」

「そう。どこかへ行ってしまったの。あれから十年以上も経つんだね...」


 エリア0にいた小さなフィレをノワールへ連れて行き、彼女が守護者への道を歩むきっかけとなった人物。


「今のレアデルさんと同等かそれ以上の実力があったんだけど...どこに行っちゃったのかな」

「意外と近くにいたりとかは...」

「だったらもう一度会いたいな...まあそれは置いておいて、今月のアバウトくんとエレナちゃんの活躍はすごかったね!2度のリリス撃退にタゼルとルベルの保護。これからもよろしくね」

「え、はい!ありがとうございます!」




 はじめてのお給料を受け取り、アバウトは上機嫌で守護の庭へ帰った。

 そして部屋に入ると...


「ただいま戻りましたー...って、なんでセレナさんいるんですか」

「えぇっ!アバウトくんもしかして、早く帰れよって!?」

「いやいや、思ってない...と思います」

「ぐすん。だってバリエルちゃんが誘ってくれたんだし」

「あ、そうなんですか?」


 そういえばセレナとバリエル、何気に気の合う2人だった。


「そうですよ?私がお誘いしたのです」


「こーんにーちはー!」

「こーんにーちはー!」


 ...?

 誰だろう。守護の庭の外から聞こえてきた。

 どこかで聞いたことのある声のような...。


「アバウトいますかーー!?」


 ああ!思い出した。

 アバウトは2階からひょっこり顔を出す。


「メリッサさんとセリーヌさん!!」




「...というわけで、こちらがメリッサさんとセリーヌさんです」


 ひとまず部屋に招き入れたアバウトは、人数分の紅茶を入れ、セレナたちに2人を紹介した。


「なるほど。一緒に試験を受けて、今はオートの守護者様ってわけだね~?」

「そうなんすよー!ウチらアバウトのおかげで合格できたみたいなもんなんで、マジ感謝してるっす!」

「やるねー、アバウトくん」

「そ、そうですかね」

「アバウトくんはここぞという時にやってくれます」

「あー、バリエルさんまで褒めてくださるなんて...照れます」

「まあノワールの抱える爆弾でもありますけどね」

「ちょっとバリエルさん!?それは言っちゃ...!」

「あー、魔王の話?」

「セレナさんはちょっと黙っててください」

「えー」


「魔王の話って何?」

 やはりメリッサとセリーヌは聞き逃さなかった。


「あ、いや...なんでもなくて」

「アバウトが元魔王だってことは知ってるよ?」

「はぁーーーっ!!」


 バレていた。


「黙っててすみませんでした」

「気にすんなよアバウト~!」

 セリーヌはアバウトの背中をどんどんと叩く。



「ところでおふたりはエノの守護者としてどうですか?」

「あ、そうそう。そのことなんだけど、ウチらオートの守護者やめようと思ってね」


 え!?

 オートの守護者をやめる!?


「それまた急に、どうしてでしょう?」

 アバウトが尋ねると、セリーヌとメリッサはは答えた。


「ノワールいいなって思って」

「そうですか?」

「そそ。この前ここに来たときにさ、ちょっと人助けっぽいことしたの。そしたらその人、今のノワール守護者は街の人の生活を守ってるんだって言ってて」

「ふむふむ」

「...っていうのもまああるんだけど。まあオートってほら、個々の活躍ってよりチームの連携で戦うんだけどさー、どうもウチらそれが苦手でねー」

「で、それをリーダーのリオネルさんに言ってみたら、移動してもいいって言ってくれて」


「じゃあおふたりさん、うちにおいでよ」

「え?」「え?」

「だって2人とも、住むとこ決まってないでしょ?うちに1人、失恋まっただ中の男の子がいるんだけどー、お世話してくれない?」


「いいんすか!?」

「ありがてえっす、セレナさん!」


 ちょいちょい、とアバウトはセレナに小声で尋ねる。

「ちょっとセレナさん、オレが言えたことじゃないかもですけど、大丈夫ですか?勝手にそんな」

「平気よ~。ノーティちゃん、ああ見えて年上高身長お姉さん大好きだから」

「あ、確かにそうですね!喜びそうです」

「でしょでしょ!」


「そうと決まれば、ノワールへようこそ!ですね、メリッサさんとセリーヌさん!もうすぐ指揮官もお帰りになると思うので、よろしければ会われたらどうでしょう?」

「会う会う~!」

「わー、ちょ~緊張する~」


「大丈夫よ、フィレ様お優しいお方だから!ねーアバウトくん」


 セレナの突然の振りに、アバウトは慌てて頷く。




 そして間もなく、フィレは帰って来た。


「帰ったよー」

「おひさしぶりです、試験の時にお世話になりました、メリッサです!」

「おなじくセリーヌです!って...大きな魚ですね」


 フィレの両手には1匹の魚の入った発泡スチロールの箱が抱えられていた。


「あら、お久しぶり。これね、今夜一緒に食べましょ」

「いただきます!!」




 フォロが作ってくれた夜ご飯をみんなで食べ、メリッサとセリーヌはセレナと一緒にエリシアの灯へ帰った。


「あ、セレナお帰り...って、えっ...」

「ぁああっ!この前の!」

「なに?ノーティこの2人と知り合い?」

「あ、えーっと...」

「そうっすそうっす!ウチらダチっす!」


 そういってメリッサはノーティの肩をポンポンたたく。

 そしてノーティは猛烈に照れていた。


「それは1か月くらい前のことー」


 セリーヌは話し始めた。

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