第53話 「急接近」を満喫しようと思います


「ノーティのごはんおいしっ!!え、マジで尊敬なんだけど」

「メルの言うとおり!しかもおしゃれ~」

「え、そうっすかね...あざす」


 ノーティはメリッサとセリーヌに褒められ、頭を搔きながら照れている。


「これ毎日食べていいの!?」

「あ、明日はセレナの担当なんで...」


「セレナお姉さんにお任せあれ~」

「セレナさんも料理上手そ!」

「それが、セレナの料理ホントにうまくて、俺もこの人に教わったんです」

「わー!楽しみ~」


 エリシアの灯。

 楽しいモーニングの時間である。


「っていうか、いつの間にノーティ、シャワー入ったの?」

「ね!めっちゃいい香りするんだけど」


 メリッサとセリーヌはくんくんといい香りを楽しんでいる。


「実は、毎朝ランニング行ってて...」

「えー!すごい」

「ノンちゃんは頑張り屋さんだね~」

「あはは...どうも」


 ...ん?

 ノンちゃん?


「え、メリッサさん今ノンちゃんって...」

「うん、ノーティだからノンちゃん。よろしく、ノンちゃん」

「あ...はい」


 そしてセリーヌが口をはさむ。

「ノーティ、メルって呼んであげて!」

「うえぇっ!」

「いいからいいから~」


「よ、よろしくお願いします、メル...さん」

「はいよろしく~!」


 3人の年上のお姉さんに囲まれ、緊張するノーティである。




「みんな、今日も集まってくれてありがとう。重要な話があるんだ」


 広場の中央にある噴水の前。

 ノワール守護者の定例集会である。


「まず、今日からノワール守護者として共に活動する2人だ」

「オートから来ました、メリッサです!」

「ウチはセリーヌっす、よろしくお願いします」


 2人はぺこりとお辞儀をする。

 場に拍手が沸いた。


「よろしく頼む。2人は霊力を使えるから、即戦力となるだろう」


 おーっ、と歓声に包まれた。


「さて、1か月後の話だ」

 守護者たちをフィレが制する。


「3部隊合同訓練が行われることとなった。初めての試みだ」




「3部隊とは、ノワール、エノ、オートのことだ。もちろんメリッサとセリーヌには、ノワールとして参加してもらう」


「訓練をするんですか?」

 守護者の1人がフィレに尋ねる。

 フィレはバリエルと目を合わせ、回答を譲った。


「魔王が後退して2か月、魔王軍や近隣諸国の活動が活発化しています。それに備えた模擬戦、いわば地区別紅白戦でございます」

「我らはそれを「守護の祭典」と呼称する。各地区の戦い方を学び、良い所を吸収するのだ」




 守護の庭へ戻ったアバウトは、フィレに尋ねた。


「フィレさん、守護の祭典ってエリシア中の人が見に来るんですか?」

「うん。大きな闘技場で各地区の代表5選手が戦うって感じ」

「すごい盛り上がりそうですね!いいアピールの場になるかも!」

「うーん...一応そういうていにはなってるんだけどね、実際はノワールの活動を監視するのが目的なんだよね...」

「えっ、そうなんですか?」

「うん。アバウトは知ってるかな、ノワールがほかの地区から受ける印象」

「あ、はい、一応...殺傷能力のない、えーと...」


「ふふっ、指揮官の前では言いにくいよね。そうそう、それで給料泥棒みたいな話にまで発展しちゃってるみたいで」

「そ、それはひどいですね...」

「レアデルさんたちみたいな指揮官の方々は決してそんなふうには思ってないようなんだけど、やっぱり街の中ではそういう思想が広まっちゃってるらしくて」

「じゃあオレが他地区の代表をボッコボコに倒せば、そういう人たちにぎゃふんと言わせられるわけですね!」

「...!」


「どうかしましたか?」

 アバウトが尋ねると、フィレはふふっと笑った。

「...いや、いいの。もう選ばれた気になってくれてて、すごいやる気だなって」

「あ...」

「でも君のそういう前向きなところ、好きだよ」

「...!」


 するとフィレはアバウトの後ろに回り込み、手を回してハグをした。


「さて、思い出してくれたかな?あのお守りのこと」

「おま...もり...」


 この前フィレからもらったものだ。


「えと...まだその、思い出せてなくて...」

「まったく?」

「あ、でも見たことはあるんです!あの中身。少しだけ魔力がこもっていました」

「あっ、そうかもね」


 意味ありげなフィレの返答である。


「思い出したら、私を噴水の前に呼んでほしい。あなたにこの思いを伝えたいから」


 フィレにとって特別な瞬間だったのだろう。

 アバウトは何か大事なことを忘れている?


 フィレは耳まで真っ赤になっている。

 やはり指揮官の彼女とは真逆の振る舞いであり、アバウトもドキドキしている。


「とはいってもアバウト、思い出すのに時間かかりそう。だから、1つヒントをあげる」


 今度はいたずらっぽい顔で、フィレはアバウトを見つめる。

 アバウトはお願いします、と口に出すことができなかった。


「あなたは私の、命の恩人なんだよ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る