第48話 「台風一過」を満喫しようと思います
リリスの撃退に成功し、誓いの式典は再開された。
「バリエル、本当にありがとう。とても心強い妹がいて本当に良かったよ」
「こちらこそ、大変お疲れさまでした、姉さま。とても見ごたえのあるバトルでした」
フィレとバリエルは、姉妹2人だけの時間を過ごしていた。
「エレナ、なんか技術上がってない?」
「えっ、そうかな?そうだよね?やっぱそう感じるよね!」
「...どうした急に?」
「へへーん、やっぱりフォロちゃんはすごいな~」
「フォロがどうかしたか?」
「やーね、実は...」
「この1週間フォロと一緒に過ごしてた!?」
「そうなのそうなの!秘密の特訓してもらう代わりに、あたしが料理を教えたの!」
「秘密の特訓!?」
「アビーの閃華武具について、あたしは何でも知っています」
なるほど。すべての合点がいった。
その1。噴水広場の集会で、エレナが花火の色をピタリと当てたこと。
その2。フォロが魚をさばけるようになっていたこと。
その3。閃華武具は周りの空気が高温であるほど強化されることを知っていたこと。
「フォロちゃんにはアビーに言わないでねって伝えておいたの!」
(この1週間、オレのことをもっと知ろうとしてくれてたなんて...!)
「ありがどぉぉ~」
「うわっ、ちょっとアビー!鼻水くっつくじゃん!っていうかあたし、まだあのこと許してないんだからね」
「そんなぁ~!」
「何か言っておきたいことはある?ほら、あたしの誤解かもしれないし」
「あ、じゃあこれだけ言わせてください!」
そしてアバウトは言っておくべきことを口にした。
一方でノーティはエレナに慰められていた。
「ほ~ら、よしよし、ノーティくん。セレナお姉さんが抱きしめてあげようぞ」
「い、いいよセレナ。こうなるのはわかってたし...やっぱり悔しいけど」
「そう遠慮せず~」
「や、やめ...うわっ!」
ノーティはセレナに捕まってしまった。
実の姉にほっぺをすりすりされ、それでもノーティは幸せな気持ちになった。
「はぁ、ただい...!」
「おかえりなさい、リリス。どうでしたか?おやおや、アバウト様を連れていないということは、作戦が失敗なさったのですね?」
「え!なんでそれを...」
「こっちへ来なさい」
「...はい」
魔王城に帰宅早々、リリスはフォロに大広間へ連れられた。
そこにいたのは、正座をさせられたみんなであった。
「私をだましていたのですね、リリス」
「あ、いや、えーとですね...」
「リラがうっかり言いましたよ?リリスはノワールへ行ったって」
リリスの直属の部下であるリラは、てへっとしている。
「ぐぬぬぬ...!リラ、あとで覚えてなさい」
「リリス」
「はいっ!!」
「アバウト様は無事なのでしょうね」
「も、もちろんです、フォロ様!傷1つ付けておりません...!」
「ふん。まあ、それならいいでしょう。お菓子も麻雀も楽しめましたので。ただ、次はアバウト様もお連れしますからね」
「は、はい!お待ちしております...」
「ではみなさん、足を楽にしていいですよ」
ハァーッ。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
そう言ってフォロは大広間をあとにした。
「って、はあ!?記憶ないの!?」
「ええ、そうなんですよエレナさん!だからあれはオレの意志じゃなくて」
アバウトはエレナに、シャドウピークで魔王先輩に触れた直後のことを話した。
あの時は突然意識がなくなり、気付いたときには魔王先輩は倒れ、エレナたちはひどくおびえていたのだ。
「まあでも、確かにあの強さはあなたじゃないよね」
「エレナさんひどい!まあでもそのとおりだし...」
「冗談だよアビー、ごめんごめん!それにしてもあれを止められるのはフォロちゃんくらいじゃないの?」
「そ、そんなに強かったの!?」
「もうびっくりだよ!あたしでもあの魔王先輩の強さ一目でわかったのに、あの人ですら相手になってなかったんだから」
「あの、実は...1つだけ心当たりがあって」
「心当たり?」
「これはまだ誰にも言ってないことなんだけど...」
「うん」
エレナは真剣にアバウトを見つめる。
「オレの中にいるのは、もしかすると...」
「もしかすると?」
「300年前に封印された魔王かもしれません」
「...ん?今なんて?」
「300年前に封印———」
「ああごめんごめん聞こえてる!え?なに、魔王?どういうこと?」
「ほら、魔王ってエリア0に封印されたじゃん?」
「うん」
「で、オレってエリア0出身なわけで」
「...あ、そうなの?」
「あれ、言ってなかったっけ」
「今初めて聞いた!そうなんだ。で...で?」
「それで多分、魔王のその...何かを引き継いじゃった的な?」
「あー、なるほど...う~ん」
「オレもよくわからなくて」
「まあでも、そう言われても不思議じゃないくらいには、あの時のは強かったし...」
「う~ん」「う~ん」
2人は首を傾げた。
「最後は~みなさんお待ちかね。エリシア~ン・エコ~~~ズ!」
再び陽気なMCの声が歓声を呼んだ。
辺りは暗くなり、ノワール・メモリアル・フェスはいよいよ最後のアーティストとなった。ハナを飾った、ラインとキンのいるグループである。
「お、始まるね」
ラインは七色武具でステージを虹色に照らした。
場に歓声が沸く。
「エリシアン・エコーズだよー!今日最後、盛り上がっていこ~!」
キンの言葉にもう一度歓声が上がる。
そして一曲目。テンションぶち上がりのテンポはやめの曲。
二曲目。少しスローダウンした明るい曲。
「この歌は?」
アバウトはエレナに聞いてみる。
「これはノワールのテーマ曲。みんな歌えるよ!フェスの最後はこれって慣習があるの」
そして誓いの丘は曲のメロディーに包まれた。
「いやー、すごかったな」
「そうだね!今日も楽しかったー」
フェスが終わり、ステージの照明は落とされた。
それでも誓いの広場は、変わらず明るくにぎわっている。
「あーいたいた、アバウトとエレナ」
「あ、フィレさん!」
「フィレ様!」
フィレとバリエルは、アバウトとエレナのもとに駆け寄った。
「このあと献灯あるからさ、一緒に行こうよ」
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