第47話 「リベンジマッチ」を満喫しようと思います


 カキンッ!


「しつこいわね、あんた。少し寝てなさい」

 そしてリリスは、再び攻撃を仕掛けてきたフィレに一発を入れた。


「フィレさん!」

 彼女はその場に倒れこんだ。


「気づいちゃったのよねー。今のあなたには目標がある。だから魔王に戻る気がないのよ」

「オレの仲間に何しやがる」

「ならばどうするか。簡単な話よね。その目標をつぶせばいいのよ」

「今すぐに帰———」


 言い終わる前には、アバウトはあおむけに倒され、リリスの尻に敷かれていた。

(...見えなかった!)

 そしてそれだけでなく、首を手でつかまれていた。


「これが最後の質問。魔王城に帰る?それとも今ここで私に殺される?」


 そういうリリスの身体からは、魔力の気配が消えていた。


「選びなさい」


「...」

 アバウトは苦しくなってきた。リリスの手には力が込められ始めていた。


 特にやることのなかった魔王としての生活。

 魔王城に帰ることは、その生活に戻ることを意味する。

 それでもいい...



 はずがない。

 青春目指して突き進んできた1か月。

 気付けば周りには、友達と呼べる仲間や武具職人の師匠、そして夢見たガールフレンドがいた。これをすべて0にすることなど、アバウトには考えられなかった。

 

「アバウト、くん...」

 バリエルはアバウトの名を呼ぶが、その身体は動かない。

 一歩でも動いたらその瞬間に命はない。そんな感覚が走るのだ。



「オレは...」

「んん?」


 アバウトは準備を終えた。

 ———反撃の準備を。


「おまえを倒す」



パチパチッ!!


 アバウトが放った乱閃弾は高エネルギーを放出し、リリスが一瞬ひいたその隙をついてアバウトは彼女と距離を取れた。


「いまの君にできるの?そんなこと」


 すぐにその距離は詰められ、魔力攻撃を仕掛けてくる。


ガキーン!


 バリエルが張った超硬バリアと相殺した。


ドカーン!

パチパチッ!


 閃華砲、乱閃弾、閃光砲。

 立て続けに武具を出すも、リリスには全く通らない。


「一生懸命やってるようだけど、そろそろ終わらせてもいい?」

 そう言ってリリスはアバウトに一発入れた。


「うっ...!」

 アバウトはひざをついた。



 隙だらけのアバウトにもう一発...とはならず、リリスは意外なことを口にした。


「じゃあこうしましょう。あなたがこの私にダメージを入れられたら、今日は諦めてあげる」


「えっ...いい、のか?」

「やっぱ乗り気になってくれないと魔王としての仕事しないでしょう?」


 リリスが与えてくれたチャンス。何としてでも活かさねば。


 しかし、今までの攻撃では全くダメージは通っていない。

 リリスまでの距離はおよそ10m。


(整理整理...閃華砲ダメ。乱閃弾ダメ。閃光砲ダメ。で、たぶん閃光弓もダメ...あれ?これ詰んでる?)


 頭をフル回転させて考える。

 組み合わせるのはどうか?

 イチかバチかで魔力詠唱してみるか...

 霊力と魔力の組み合わせは最強だからな!よし!


 そしてアバウトは胸の前で両手の指を合わせる。


「ははっ、なに?詠唱?」



 アバウトが口を開いたその時だった。


(...これは、まさか!?)


 アバウトの周囲にある空気の温度が大きく上昇した。

 背後十数mからちょうどその場所まで、直線状に高温の地帯が形成されていた。


(エレナの光焔武具!!)


 炎をベースとしたその武具は、温度を自在に操ることができる。

 アバウトは瞬時に、何をするべきか把握した。



(乱閃弾を、ほん投げる!!)


「行くぞリリス、準備はいいか?」

 アバウトの表情は柔らかく、そして余裕を含んでいた。


「なに?いつでも来なよ」

 対するリリスも余裕の表情である。



(ククッ、ありがとう、エレナ)


 そしてアバウトはありったけの霊力を込め、最後の乱閃弾を一直線に放り投げた。


「結局さっきのパチパチする弾じゃない。こんなの効かな...!!!」


バチバチッ!!


 膝をついているアバウトの頭上を、エレナが背後から撃った火焔砲により生み出された高温の空気が、超音速で通り過ぎていった。

 そしてアバウトの閃華砲はその高温の空気により、桁違いの威力を発揮したのだった。



 リリスは一瞬だけ視界をくらませ、後ろに倒れこんだ。


「はぁ~、びっくりした」


 彼女は静かに星空を眺めている。

 その表情は少しだけ嬉しそうである。

「まさかバリアはがされるなんて。やるじゃない。いいわ、今日も私の負けってことで」


 待機していた守護者たちも含め、アバウトたちは歓声を上げた。


 リリスは立ち上がる。


「最後のはとてもきれいだったわ。また見せてね」

 そう聞こえたときには、リリスはもういなかった。


 アバウトが後ろを振り返る間もなく、ある人物がアバウトを背中から抱きしめた。


「アビー!」

 もちろんエレナである。


「エレナ!!ありがとう!ほんとにありがとう!」

「また2人でリリスに勝ったね」

「そうだな、また勝ったな!」

「やったね!やったね!」

「やったな!やったな!」



 2人は笑顔での再会と2度目の勝利に、手を合わせて喜んでいる。

 

「あ、フィレさんは...」


 アバウトは思い出し、急いでフィレのところに駆け寄った。

 ところが、フィレはもう...


 完全に目を覚ましていた。

 手で顔を覆い、「恥ずかしい!恥ずかしい!」と転がりまわっている。


「よかった~!フィレさん元気そうで」

「元気じゃないよアバウトくん!あんなに簡単にやられちゃって...」

「フィレさん凄かったですよ~。リリスと1対1でやる勇気がまずすごいです」

「そう...かな」

「はい!」


 ノワール守護者たちも集まってきた。ラインとキンもいる。

 フィレはスッと立ち上がり、いつもの顔に戻った。


「みんなご苦労だった。守護者ひいてはアバウトとエレナのおかげで、被害もなくリリスを追い返すことができた」


 場に歓声が沸いた。


「さて、式典の続きをはじめようか」


 守護者たちははい!と返事をし、避難させていた参加者たちを呼びに行った。

 そして間もなく、式典は再会した。



——————————————

ご愛読いただきありがとうございます。

あと2話でバトラブ第3章「守護活動」編が終了します。


▼今後の予定▼

今日9月7日:第47話「リベンジマッチ」

      第48話「??????」

明日9月8日:第49話「??????」

      閑話「満喫小噺3」

9月9日~:第4章「3部隊合同訓練」編


新しい人物や懐かしい人物も登場します。

これからも本作バトラブをお楽しみください!

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