第45話 「知られざる歴史・嵐の予感」を満喫しようと思います


「さあさあお時間やってまいりました~!ノワール・メモリアル・フェスのお時間でーす!」


 陽気なMCの声が全体に響いた。

 その場の全員がステージのほうを注目する。幕はまだ垂れ下がっている。


「最初に登場するのは毎・年・恒・例!エリシア~ン...エコーズ!!」


 場内は大歓声に包まれた。

 そして幕が開かれ、見えてきたのは...



「かっけ~!ほんとにラインとキンじゃん!」


 ラインはベース、キンはギターボーカルのようだ。他にも2人、ドラムとキーボードがいる。そしてドラムのリズムに合わせ、エリシアン・エコーズの盛大なパフォーマンスが始まった。




 10分程度であったが、会場の盛り上がりは最高潮に達していた。

 演奏の最後にラインが「夜の部もよろしく!」と言っていたので、トリを飾るのも彼らなのだろう。


「かっこよかった~。キンさんめっちゃ歌うまいし、声かっこいいし!守護者もできるし歌もできるし、すごいな」

「...だって」

「え、なんか言いましたか?フィレさん」

「...私だってできるもん」


(ん?フィレさんどうした?)

 何やらフィレの様子がおかしいことに、アバウトは気付いた。


「あ、あのー。歌を、ですか?」


 コクリ。


 つまり、フィレは褒めてほしいのである。


 しかし彼女。

 守護の庭に来た理由は、カラオケがうるさくて追い出されたからだ。


(部屋から鼻歌聞こえるけど、フィレさんの歌って、うまいというか、なんというか...)


 アバウトは嘘がつけないのである。

「フィレさんの歌って...かわいいです!」


 するとフィレの表情はパァッと明るくなった。

 指揮官のフィレとはまるで違うその表情に、こんな一面もあるんだと驚きつつ、アバウトは少しときめいた。


「姉さま。一応言っておきますけど、ここは屋外ですよ」

「あ、ああ。そうだな。悪い悪い」


 セレナはタゼルとルベルを連れてどこかへ行ったようだ。

 残されたアバウト、フィレ、バリエルは30分ほど音楽フェスを鑑賞した。




 さて。

 ここは魔王城大広間。時間は15:00を過ぎたところである。

 机の上のお菓子の山は半分以上なくなり、パーティー会場は雀荘へと化していた。


「ヴァル、それロンです」

「え、うっそ」

「イーペーコードラ3です。リーチしておくべきでしたか...」


 フォロは上がり続け、ずっと親番である。

 そんな中、リリスは急に席を立った。


「ごめん、フォロ。急用できちゃって私抜けるから、引き続き楽しんでちょうだいね」

「そうですか、わかりました。ありがとうございます」

「フォロちゃんもっと呑みなよ~!」「ほらほら~」

 今日の最強メイドは、最強酒飲み雀士である。




「歴史と追悼の展示...」

 慰霊碑の近くに設置された展示ブースでは、一戦場公園の歴史が公開されていた。


「終戦から今年で...462年ですか」

 バリエルはつぶやいた。

 462年前とは、魔王封印より150年以上前のことである。


「ずっと昔のことなんですね」


 アバウトはそう返事しつつ、目ではあの洞窟に関する情報を探していた。

(滅魔閃光のこと、何かわかるといいんだけど...)



 ふと気になったことを聞いてみた。

「この戦いは魔王軍とのものだったのですか?」

「ああ、そうだな。このときはまだ人類vs魔王の時代だったんだ。人類同士が争うようになったのは、300年前。魔王封印後のことだ」


(なるほど。それならあの洞窟は、ノワールの守護者たちが魔王軍から隠れるために作られたのだろう...ん?)


「あの...そのときって霊力という概念はあったのですか?」

「...私が聞いたことがあるのは、300年前の光華の決戦で打ち上げられた花火が、初めての霊力を使った武器だということだけだな」


 その言葉にアバウトは少し引っかかった。

 もちろんあの洞窟のことについてである。


(あの洞窟はおそらく400年以上も前のこの戦いで使われたもの、だよな。でも、洞窟を隠すのは強大な霊力だから、光華の決戦の前からすでに霊力は使われているということになる、か)


「でもでも、なんで霊力駆け出しの時代に、すでにあれだけの高い技術を持つ花火を打ち上げることができたのか、という疑問もありますね」


 バリエルの言葉にアバウトも納得する。


(仮に400年以上も前から霊力が秘密裏に使われていたとすると、なんでそれが伏せられていたんだろう...)


 誰が霊力を発見し、何のためにそれを隠したのか。

 洞窟を隠す霊力の謎とは?



 フィレもバリエルも、洞窟のことは知らない。

 アバウトは自らの手で、真実に近づいていくことになる。



「お腹すきましたー!何か食べに行きませんか?屋台いっぱいありますし」

「バリエルさん、グッドアイディアです!フィレさんは何食べたいですか!?」

「あ、あぁ。私は...たこ焼きかな」

「いいですね!行きましょ行きましょ」


 広場ももうすぐ夕日に照らされ始める時間。

 和風の提灯は、まだ灯されていない。



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ご愛読いただきありがとうございます!

誓いの広場にせまる嵐の予感...

アバウトたちは無事に式典を終えられるのか?


評価やコメント、アドバイスなどお待ちしております。

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