第44話 「着々と...」を満喫しようと思います


 射的の屋台へ向かう道中。


「兄さま、射的はやったことあるんですか?」

 バリエルはアバウトへ尋ねた。


「射的はないです!オレの得意魔法が射撃系なので、うまくできるかなって...」

「得意魔法ですか?兄さまって魔法使えましたっけ」


...あ。


 するとエレナが...


「あのねー、アバウトくんって元魔王なのぉ」

「うぇっ...!そ、そうなのですか?元魔王って、あの1か月前に辞めたっていう!?」

「そうなのそうなのー!」


(うわ、こいつ言いやがった!まあでも、これはオレのせいか...)


 何も言えないアバウトに対して、目を輝かせるバリエル。

「それはすごいですね!え、じゃあ今も魔法使えるんですか!?」

「気になるよね、見たいよね!!」


 息ぴったりなバリエルとセレナ。

 2人は今日が初対面である。


「あ、まあそれは...次の機会にってことで...」

「えー」「えー」


 2人は残念そうだが、アバウトは魔法が使えなくなっているので仕方がない。


「ま、まあそれはいいでしょう。守護の庭で今度見せてくださいね」

「あ、はい...」

「それはそうとして、射的の話でした」



 6人は射的の屋台に到着した。

 タゼルとルベルの分の料金はフィレは払ってくれた。


「この街の伝統の文化として、霊力射的があるんです」

 タゼルとルベルの準備を見守りながら、バリエルは口を開いた。


「霊力を使うんですか?」

「はい!あらかじめ霊力の込められた景品に向かって、専用の銃で撃つんです。その時に込めた霊力が大きいほど、弾の霊力と景品の霊力が引き合って当たりやすくなるという仕組みです。言うなれば「大人の射的」ですね!」

「へえ、面白そうですね。あとでやりたいです!勝負しましょ、セレナさん」

「負けた方は相手に上着を一枚上げることにしよ~」

「セレナさんそれ脱いだら下着じゃないですか...」


パァーン!


 タゼルは景品を見事打ち抜いた。

「おぉ、タゼルうまいな」

「へへっ、スタン爺が教えてくれたからな」


 数日は毎晩部屋で泣いていたタゼル。

 1週間経った今では元気を取り戻し、スタン爺の話も笑顔でアバウトに聞かせてくれるのであった。

 それはルベルも同じなようで、「ルーも負けないっ!」と言って銃の引き金を引いた。


スカッ...


「あ...」


 弾は景品の間を通過していった。


「ルベル、俺の弾も使っていいぜ!」

「いいの?お兄ちゃん」

「もちろんだ!」


 店員のおじちゃんも微笑みながら見守っている。

 ノワールにぴったりな、平和なイベントである...。


 今のところは。




「お久しぶりです、リリス。それに皆さん。ご招待いただきありがとうございます」

「あら、よく来てくれたわね、フォロ。お待ちしていたわ」

「フォロちゃんおひさ!ほぉら、こっちこっち」

「今日はみんなでお菓子パーティーだ!」


 ここは魔王城大広間。時間はお昼時である。

 お菓子がたんまり置かれた大テーブルの周りには、フォロも含めた、アバウトの元配下たちが並んで座っている。


「本日はアバウト様をご招待しなくてよろしかったのですか?」

「それなんだけど、アバウト様にサプライズを考えてるの。今日はその話し合いをしようかと思ったのよ」

「だから私だけ招待いただいたというわけですね」

「そうそう!フォロちゃん何かアイディアなあい~?」

「サプライズ、ですと...そうですね...うーん」


 フォロは一生懸命考えている。


「ま、いったん乾杯しちゃいましょ!ね、リリスさん」

「そうね。じゃあ、お菓子パーティー始まりってことで、乾杯」

「かんぱーい!」


 こうして魔王城大広間では、あることを目的としたパーティーが開催された。


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